第1話 こんにちは異世界
――――――光が収まった様なので、目を開けてみると見知らぬ場所にいた。
なんとなく予想はしていたし、そうなったら面白いなとは思っていたけど、さっきまで十字路に居たはずなのに、目を開けたら広い講堂のような場所に立っているのは驚いた。
明らかに、俺の知っている場所ではないし、剣を持ってる騎士みたいな人達もいるから、俺の知ってる世界とはまた違う世界なのだろうなと思った。
一緒に光に包まれた筈の幼馴染の様子を確認してみると、口をぽかーんと開けて唖然としていたから、ついつい笑ってしまった。
「拓真、お前なんて顔してるんだよ。そんな漫画みたいな表情するやつ初めてみたぞ。」
ちょっと小馬鹿にした様に話しかけた俺に対して、イラッとしたのだろう。眉間に皺を寄せている。
「本当にこんな事になるなんて思わないだろう。予想は出来ても、驚くのは仕方ないだろうが!まったく……。」
ぶつぶつと文句を言う我が幼馴染。正直今まで色々な事に巻き込んで来たけど、その中でも1番反応が面白かったからわりと満足した。
「それにしても、何か様子がおかしくないか?わかりやすいくざわついてるぞ。」
そう俺が拓真に相談してみると、何やら溜息をした。
「あくまで僕の予想でしかないんだけど、本来はこういうのって一人しか召喚されないんじゃないか?小説とかではそういうパターンの方が多いし。」
そんな事を言ってきたので、更に聞き返してみる。
「そうなの?でも確かお前がオススメしてきた小説の中に複数人で異世界行くやつとかもなかったっけ?」
そう聞くと何か自慢気に語り始めた。
「確かに、最近はそういうパターンの小説も増えてきてはいるね。その場合は大体巻き込まれる側が主人公になったりすることの方が多いかな。ということは、もしかして僕の方が凛斗よりも優れた力を手に入れてる可能性もあるのかな?でも正直どのパターンなのか予想もつかないね。」
なるほど、流石に小説読んでいるからってだけで今の状況を完全に把握できるわけでもないか。
ここで二人で話していても正解なんてわからないし、説明して貰うためにも右往左往している高そうなドレスを着ている美少女に話を聞いてみるか。
恐らく、あの人が今この場所では一番偉い人だろうし。
「あのー…。今この状況ってどの様な感じなんですかね?こちらが話している言語でお話できる様でしたら、説明していただきたいのですが。」
話が通じるかもわからないし、相手の立場などもわからないのだから、敬語が上手く使えてないのは許して欲しいね。
俺が尋ねると、目の前の美少女が慌てた様に答えてくれた。
「は、はい。勇者様方のお使いになられている言語で話していただいて構いません。そして、申し遅れました。私、ベルウッド王国の王女の、リリア・ベルウッドと申します、以後お見知り置きを。」
なんとなく、お偉いさんだろうなと思ってたけど。王女様だったのね。
「あっ、ご丁寧にどうもです。俺……じゃなくて、僕は遠野凛斗です。気軽に凛斗って呼んでください。……あれ?こういう時は、リント・トオノって言った方がいいのかな?」
そう少し戸惑いながら言った俺に対して、王女様は微笑みながら答えてくれた。
「そうですね、この世界では家名は名前の後に付けるのが主流となってます。ですので、これから名乗る際はそのようにした方がよろしいかと。……よろしくお願いしますね、リント様。私のことはリリアとでもお呼びくださいな。」
そう言った後に、リリアは拓真の方に視線を向ける。
それに気づき拓真も口を開く。
「お初にお目にかかり光栄です。僕はタクマ・カンザキと申します。失礼かと思いますが、僕にもリントにも様付けは無しにしてもらってもよろしいでしょうか?生憎、僕達は庶民ですので王女殿下に様付けされるのは恐れ多い事ですので。」
拓真が珍しく敬語を使ってるな……。そんな事を思っていたのがバレたのか、一瞬だけこちらに視線を向け余計な事を言うなよと言わんばかりに牽制された。
「お聞きしたいことがいくつかあります。何かしらの理由があって、僕達はこの世界に召喚されたのだろうと思いますが、その理由を知りたいのが一つ目。元の世界に帰る事が出来るのかどうかというのが二つ目。そして、勇者様と僕達のことを呼びましたが、どちらが勇者なのでしょうか?」
質問多くない?って思ったけど、俺もその辺りのことが気になっていたからナイスとしか言いようがない。
俺は拓真に親指を立てグッジョブと伝えた。
その様子を見ていたリリアは少し笑ったが、すぐに真剣な顔になりこちらの質問に答えた。
「まず、一つ目の質問ですが。勇者様をお呼びしたのは、国の守護者となっていただく為です。」
守護者?てっきり魔王とか倒せって言われるのかと思った。
気になったから俺からも質問してみるか。
「守護者とはなんですか?てっきり魔王とかそういうの倒せとでも言われるんじゃないかと思ってたんだけど……。」
「守護者とは、勿論その言葉の通りの意味です。国を外敵、つまり魔物から守っていただく存在です。とは言いましても、冒険者や騎士なども勿論魔物討伐はしておりますので、勇者様方のお力だけを頼りにしているわけでもありません。国を守るための最後の防衛戦となってもらいたいと考えてます。誠に勝手な話だとは思います が……。」
つまり、最終兵器みたいなものか。なるほどわかりやすい。
「そして、魔王の事ですね。確かに最初の勇者召喚の儀はその目的で行われました。初代勇者様が魔王を討伐し、現在は魔王の存在は確認されておりません。」
あらま、魔王はいないのね。まぁ、魔王討伐は面白そうだけど、大変そうだから初代様万歳だな。
「二つ目の質問ですが。……申し訳ありません、元の世界に帰る方法は存在しません。本当に申し訳ありません……。」
その辺りは予想できていたから俺は何の問題もないかな。あっちの世界に未練なんてないし。
そんなこと思ってたら拓真がポツリと呟いた。
「やはりか……。予想はできていた分ショックは少ないが、最後に家族に別れくらいは伝えたかったな。」
異世界召喚された二人の勇者 黄猫 @rinto02143
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