異世界召喚された二人の勇者

黄猫

プロローグ

普段通りの帰り道、何回通ったのかもわからない程歩いてきた道を、特に感傷もなく歩き続ける。


 幼い頃は、人生は劇的なものだと思っていたのだけれど、そんなこともなくいつも通りの道をいつもと同じ友人と歩き、学校が終わったら家に帰って寝るそんな毎日をただただ繰り返し続けている。


 何かいつもとは違う、非日常のような出来事が起きないだろうか、なんて考えを友人に伝えれば、どうせいつもと同じ反応を返してくるのだろう。


 「なぁ、拓真。何か面白いことないかな?」


 突然そんなことを言った俺に、拓真は呆れたように笑う。


 「何か面白いことなんて、漠然としたことを言われても思いつくわけ無いだろう?大人しくこの平凡な毎日を享受しておけ。」


 適当に流されたが、それは当然の事だろう。俺がこういうことを言い出すのは、いつものことなのだから。


 この友人、幼馴染みでもある男、神崎拓真なのだが。小学生の頃からの友人で、中学校はもちろんの事高校までもが一緒なのだから、かれこれ10年近くの付き合いになっている。


 それだけの間一緒に遊んだりしていたのだから、俺の発言をあまり深くは受け止めず、適当に流されることが、多々あったりするのだ。


 「おいおい、そんな適当に俺の話を流すなって。もうちょっと何かあるんじゃない?」


普段の事なのだが、それで会話が終わるのも面白くないから絡んでみた。


 「そんなこと言ってもだな、凛斗にとって面白いことは、僕にとっては面倒な事が多いんだよ。だからそんな事無いに越したことは無い。」


 俺とは違って、目の前の平穏に満足しているのだろう。故に、俺の様に非日常に憧れ面倒な事に首を突っ込むなんてしないだろう。


 そんなことは重々承知しているが、俺が勝手に首を突っ込むから、拓真を巻き込む事になっている。


 そこが、俺と拓真の違いだろう。こいつはなんだかんだ言っても、甘いところがある。俺は面白そうとか、何かメリットが無いと他人を助けるなんて事はしないが、俺の幼馴染みは、口では面倒とか言うが、今まで俺のことを見捨てるなんてしたことがない。


 「まぁ、そんな面白そうなことがそこら辺に転がっている訳もないか……。」


 溜息をしながらそう言った俺に、拓真は笑いながら言った。


 「そうそう、大人しくしておけよ。面倒なことはごめんだよ。」


 そんな普段と同じような会話をしながら、帰宅している最中だったが、いつもと一つだけ違う所があった。


 それは、普段拓真と別れる十字路でのことだった。普段は、ちらほらと人がいる道のはずなのに、今日に限って誰一人、生き物の気配すら感じない程の静寂に包まれていた。


 偶然と言い切るには異様、異常としか思えない状況におかれて俺はとてつもない高揚感を感じた。


 「おい拓真、これはなにかある気がしないか?何かとてつもなく面白い事が起こりそうな予感がする!」


 俺がそんな幼い子供の様にはしゃぎながら、それを拓真に伝えると、本当に面倒くさそうな顔をする。


 「やめろ、お前が面倒事に首を突っ込むのは勝手だけどさ、今の状況だと僕も巻き込まれる流れだろうが。周囲に人がいないのもただの偶然だ、そういう日もあるだろう。」


 明らかに異常な事態でも、拓真は普段と変わらない態度で、俺の暴走を鎮めようとしてくる。


 はしゃいでいる俺と拓真の足下が急に光り出した。


 「凛斗!これは本当に嫌な予感がする。早く逃げるぞ!」


 珍しく慌てている拓真を見ると、面白くなってついつい笑ってしまう。


 「馬鹿だなぁ、拓真は。こんな面白そうなことから俺が逃げるわけ無いだろう?知ってるくせに。」


 そんな俺の態度に、イラッとしたのか。拓真が怒りながら、こちらを睨んでくる。


 「何言ってるんだよ、これ僕が巻き込まれるだろう!しかも、これはいつもとは違うだろ。明らかに今までの面倒事とは本質から違っている。」


 そんな怒っている拓真の事など知らないとばかりに、足下の光が強くなっている。


 よく観察してみると、漫画などで見たことありそうな、魔方陣のようなものが描かれており、そこから光が出ているのがわかった。


 「なぁ、拓真。これさ異世界とやらに召喚される流れじゃないのかな?足下の魔方陣っぽいやつの光も強くなってきてるし、逃げれる気もしないんだけど……。」


 拓真も俺のその言葉を聞き、自分の足下を確認して諦めたように溜息をした。


 「確かにそれっぽい、というかそうとしか考えることの出来ない状況だけどな。お前に巻き込まれるのは、普段の事だと言えばそれで終わるかもしれないが、まさかこんな事にすら巻き込まれる事になるとはな……。」


 そんな拓真の態度に、俺はついつい楽しくなってしまった。こいつは口では巻き込まれるのを嫌がっていると言うが、なんだかんだでこいつも楽しんでいるのは、長い付き合いなのでわかっている。素直じゃない幼馴染みに、俺はいつもと同じように言った。


 「せっかく、面白い事になりそうだからさ。一緒に楽しもうぜ!」


 俺がそう伝えるのと同時に、光がさらに強くなり目も開けていられなくなる。


 これから俺と拓真によって描かれる物語は、どのような結末になるのだろう。皆が好きなハッピーエンドで終わるのか、それとも全てを失うバッドエンドで終わるのだろうか。


 それは誰にもわからない。ただ、叶うことなら幸せな物語で終わってくれることを心から望んでいる。


 ――――――光が収まった時、その場には何も無く。その場で起こった事は誰に知られることすらなかった。

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