100ポイントでデート

「日曜日に出かけないか?」

 彼女を思い切って誘ってみた。すると――


『デートをするならば100ポイント減少します』


 とSNS経由で俺のスマホにメッセージがあった。一体どこから見ているのだろう?

 まさか、かぐやが報告しているのか? でも、彼女はスマホを持っている様子もない。しかも、俺が言葉を発した直後だ。

 ずいぶん早いな、と思いながら『了解』と返事をした。俺は、100ポイント程度でデートをできることを安く思った。


 日曜日に一緒に出かけたが、彼女の存在は他人の目には見えないことが判明した。

映画を観ても遊園地に行っても、彼女は見えないので、鑑賞料も入園料もかからない。

存在しない人と話すことは、むしろ気楽だった。彼女は俺に危害を加えないし、とても平和だった。

話すことがなくなっても、沈黙すらも気まずくはない。


 見えない人と話をしている俺は、はたから見たらおかしな人かもしれない。

 でも、人にどう思われようと、この時間はとても心地よいものだから手放したくはなかった。

 彼女の体は透き通っているため、手を触れることもできない。もちろんあちらの意志で何かに触れることもできない。


 彼女は、痛みとかケガとか暴力には無縁な人だ。

 そして、あまり感情を見せず、正体もわからない謎の少女は、俺の孤独を埋めてくれる唯一の存在だった。


 俺は今まで人と本気で付き合えていなかった。でも、危害を加えてこないこの少女は癒しになった。

 彼女の前では、自分らしくいられたし、格好をつけることもしなかった。不思議な存在に荒んだ心が助けられたように思った。


「このまま俺が死ななければ、ずっと付き合ってくれる?」

「もちろん。そもそも私、人間でもないですし」

「それは、幽霊ってこと?」

「いえ、私は生神です。死神の反対にあたる存在です。元々は、昔話のかぐや姫をしていましたが、今は死にたいと思っている人に寄り添う仕事をしています」

「昔話か……どこかに、桃太郎とかもいるってこと?」

「えぇ、桃太郎などメジャーな昔話の登場人物は、今は神様のお仕事をしています」

「じゃあ、あの館主は神様ってこと?」

「あの方は神の一人ですが、悪魔のようなこともする冷血な人だと聞いてます」

「竹取物語……教科書に載ってたな。信じられないけど、君が言うなら――8割は信じるよ」

「あとの2割は信じてくれないのですか?」

「君は謎だらけだし、君が俺をどう思っているかわからないから、多少警戒はしているよ」


 少し意地悪く言ってみた。彼女は少し悲しそうな顔をした。 

 かぐや姫という人は美人で求婚する男が皆、悲惨な目にあったという話を教科書で読んだことがある。


 いわゆる悪い女なのかもしれないと不安に思った。

 彼女がかぐや姫かどうかもわからないけれど、ここにいる「かぐや」は高飛車ではなく、とても優しい。

 得することも損することもない無益な嘘をつくとは思えなかったので、心の中ではかぐやのことを信じていた。


「君はいつまでここにいるの?」

「わかりません。あなたが必要としてくれる限りおそばにいます」

 俺の中で探求心が生まれた。

「なぜ、ねがいの館なんて作ったのだろうね?」

「大昔から館はあったそうです。それによって、幸福になった人も不幸になった人もいるそうです」

「君は歳をとらないの?」

「ええ、この世に生存しているわけではないので、ずっと見た目は変わりません」

 

 それにしても不思議な話だ。

 この事実を公表したら、すごいことになるだろうけれど、彼女は俺にしか見えないから、誰も信じてくれないだろう。

 きっと館も彼女もこの世には実在しないものなのだろうと解釈していた。

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