クラス代表の選出『謎理論による代表決定』

「……では、うちのクラスからは借り物競走と大玉転がしにクラス代表の方が参加して貰います。それ以外の細々した競技には各自割り当てられた通りの参加をするとして……。

 一応聞きますけど、誰かクラス代表としてどちらかに出たい人はいますか?もしいなければ、他推もしくは望月先生の独断で決めて貰う事になりますが……。どうですか?」



 ーー体育祭を目前に控えた一限前のHR。相も変わらず説明から何までをクラス副委員長である辻本に丸投げして、自由気ままに過ごしている望月先生合法ロリを置いておいて進める、俺達のクラスが参加する体育祭の種目決め。


 今年度の体育祭は例年とは違いかなりの規模になる為、各クラス代表戦と個人参加種目の2種類で構成されていて、そのクラス代表戦の人選を今から決めようとしているのだ。


 そして先程辻本が言ったように、個人参加種目の方は学校側からそれぞれ割り当てられた競技が個人ごとにあり、そちらは自動的に決定されるので話し合いを行う必要はない。



「(とは言っても……。やっぱり、誰も好んでクラス代表なんか立候補しないよなぁ。そもそも参加する競技が借り物競走と大玉転がしっていう何とも言えない競技だし、クラス代表戦っていうのがどんな形式のものかイマイチ分かってないんだよなぁ……。)」



 クラス副委員長の辻本がその説明を軽くしてくれたのだが、朱音先生の又聞きの情報であった為かその情報が所々で曖昧なのだ。


 分かっている事で言えば、クラスの代表が指定されている競技を行いそのクラスが所属するチームにポイントが加算される事。


 また、クラス代表達を集めたグループでのチーム対抗戦もあるらしい事くらいだ。


 とまあ、このように不確定な要素が多いクラス代表を、わざわざ好き好んでやりたがるような物好きはいないという訳である。



「あっ、あとこのクラス代表は男子2名、女子2名をそれぞれ選びます。明確に男女の規定はないけれど……。ここは平等を期す為です。

 それで……。誰も挙手は無しと。では、これから誰が代表かを男女で話し合って貰います。分かっているとは思いますけど、誰かに押し付けてみたいのは無しですからね?

 もし、そんな事の予兆が見られたら、望月先生の強制指名にやり方を変えますから。」



 案の定、少し待っても誰の挙手もなかったので、テキパキと辻本が進行を進める。


 やはり、クラス1出来る女であると名高い辻本だけあって、無理矢理ではなくちゃんとした話し合いによって代表を決められそうだ。



 そして、男子はクラス委員長の西田。女子は引き続き辻本を中心に代表の選定を行う。



「うーん、何だかんだで体育祭で活躍出来そうな奴が代表の方がいいか?このクラスの男子なら体育会系に入ってる奴がそれなりにいるし……。そこから一人を選んで、もう一人は運動部以外からでいいよな。何つーか、辻本の言う所の平等を期す的な感じで!」



 教室内で男女に分かれて話し合う事になったのだが、いつもは少々頼りない西田が意外なリーダーシップを発揮して話をまとめる。


 恐らく女子の方も似たような物だと思うが、体育祭で活躍出来るであろう運動部からとそれ以外の文化部、無所属からの一名ずつを代表とする事で決まった。



「それで……。ああ。やっぱり一人は和樹で決定か。サッカー部の一年でレギュラー入ってるくらいだし……。まあ、妥当な人選か。

 でっ、もう一人の文化部、無所属からの代表は……。やっぱりみんなやりたくはないよなぁ。そもそも体育祭自体乗り気じゃない奴が運動部以外では大半だしな……。」



 俺はそんな事を呟きつつ、運動部以外の代表選出の話し合いを遠巻きに眺める。


 ちなみに俺も部活に所属していない為こちらの話し合いに参加しなければならないのだが、運動部の方の代表が誰になるかに注目していたので、あまり参加出来ていなかった。



 すると、こちらの方の話し合いでも少しだけ進展があったのか、軽音部(同好会)所属の佐藤が突然、謎理論を元にした『誰が代表に相応しいか。』の演説をし始める。



「みんな聞いてくれ!俺達、運動部以外の奴らは基本的に目立つ事があんまり好きじゃないし、正直言って体育祭自体に乗り気じゃない奴の方が多いとは思う。

 でも、だからと言って……。俺達非体育会系からは代表を出さない訳にはいかない。そして、どうせそのような代表に選ばれてしまえば否応無しに目立つだろうし、その結果や見え方によっては、他からの批判の矢面に立たされる事もやむを得ないだろう……。」


「……えっと、ただの体育祭の話だよな?」


「そして、そんな数多くあるであろう批判の中でも最も傷を負う批判は何か!?そうだ!からの批判が一番俺達を傷付ける!」


「いや……。そんな状況なら、女子に限らず誰からとか関係なく傷付くだろ。てか、佐藤の熱量のこもり方からして実体験なのか。体育祭に嫌な思い出あり過ぎだろ……。」



 何やら文化部?かは怪しい佐藤の悲しい演説を前にし、俺はそれらに対して、思わず冷めたツッコミを入れてしまう。


 しかし、そんな俺の冷めたツッコミに対して気にするような佐藤ではなく、尚も彼は謎の演説を俺達の前で続けている。



「そこでだ!!この中で一番が代表になるのはどうだろうか!そうすれば、女子からのヘイトも初めから緩和されるはずだし……。何よりそうすれば!女子達から批判を受けずに済むからな……。」


「ああ……。やっぱり悲しい理由だったんだな。てか、モテるモテないかが批判されるのとそこまで関係あるか?って、おい!そんなに泣くなよ。……普通に鬱陶しいだろ。」


「酷っ!そんな冷たい事言うなよ!相川!お前だって女子からの冷たい視線を向けられるのは嫌だろう?しかも、今回の体育祭は女子校と一緒だって言うじゃないか!そんなの俺らが足引っ張ろう物なら袋叩きに会う未来まで見えるだろ!いや!絶対にそうなる!」



 正直アホらしいと思っていた佐藤の演説なのだが、思いの外他の奴らには刺さる部分があったらしく、『そうだよなぁ。俺達に現実は厳し過ぎるよな。』などと言って、うんうんと力強く頷いて佐藤を皆で慰めている。


 そして、何だかよく分からないまま佐藤の意見が採用されてしまい……。俺達、非運動部の代表はその中で一番モテる男子が選ばれる事になったのだった。…ホントに何で?



 しかし、佐藤の言う一番モテる男子を代表にするのはいいのだが、そもそもどうやって一番モテる男子を選ぶのか?それが問題だ。


 そして、案の定と言うべきなのか。今度はそのモテる男子が誰なのかで議論している。



「えっと……。そのモテる男子って俺達の中では誰になるんだ?そもそもモテてる男子って彼女がいる奴はどうなんだ?特定の一人にはモテてるんだろうけど、それって単純にその人が特別だった可能性だってある訳で……。

 実際の所、どう言った基準でそれを選べばいいんだ?あっ、ちなみに俺にはマイプリティーエンジェルな妹がいるから、両想いな俺はモテる男子と言っても過言では……。」


「はいはい。後藤が『クソキモ兄貴』って毎度罵られてる妹ちゃんのは、モテてるって言わないからな?モテてるってのは……。特定の相手から好かれて、それでいて他の人からの言い寄られているような奴の事で……。」


「そんなマンガみたいな奴いるのかよ。後藤みたいに『クソキモ』って罵られる事はあっても、そんな色んな子から言い寄られている奴なんて……。あっ……!?」


「そうだよな……。プリティー過ぎる妹を持つ勝ち組の俺でさえこの体たらくなのに、そんなアニメの主人公みたいな奴が俺達の中にいる訳ーーって、あ、相川じゃないか!?」



 すると、わちゃわちゃと言い争いをしていた男子達は、クラスメイトで超絶シスコンの後藤のモテる発言に否定的な意見を述べていたのだが……。奴を否定している途中でなぜだか俺の方にどんどんと視線が集まる。


 そして、彼らはカタコトのように『可愛い妹』『超絶美女な元カノ』『アイドル顔負けの先輩』などと言って、こちらにジリジリと見えない圧を感じさせながら近づいて来る。


 てか、この話し合いは運動部以外だけのはずなのに、男子連中のほぼ全員が嫉妬のこもった視線をこちらに向けて来るのは何だ!?



 すると、先程まで自身の妹への愛を叫んでいた後藤は、『あんな超絶可愛い妹から「お兄ちゃん♪」なんて呼ばれてるなんて……。羨まけしからんぞ!相川!』などと言い、ぎりりと悔し涙を流している。


 そして、皆がジリジリと詰め寄って来て怖いので、俺は言い訳混じりに自分がモテていない事を説明しようとするのだが……?



「ちょ!ちょっと落ち着け!い、妹とは仲良いけど……。別にそれだけだし。れい…黛さんとは色々あって今はもう別れたから!

 て言うかそもそもの話、俺が付き合えたのが奇跡って言うか……。まあ、先輩と仲良いのは事実だからアレだけど。」


「いや!これはもう。相川が俺達の代表になるしかないよな?どんな経緯であれ、美少女三人と仲良かった奴なんて、俺達の中には他は誰も……。あれ?何で俺は泣いて……?」


「クソ!俺も美少女な姉と妹と俺の事が大好きな超絶美女な幼馴染がいれば対抗出来たって言うのに……。神はなぜこんなにも不平等なのか!羨まし過ぎるぞ!相川!」


「「「「「相川許すまじ!!!」」」」」



 謎に団結を深めた男子一同の圧力もあり、俺はその後、仕方なく代表の一人に選ばれてしまった事を了承したのだった……。


 ちなみに、男子は俺と和樹。女子は辻本とバレー部で副キャプテンである柏 碧衣かしわ あおいだ。


 辻本はクラスの副委員長であり、彼女はその印象通りの文化部である放送部に所属していたはずである。なので、女子側の文化部の代表として名乗り出たようである。


 そして、もう一人の女子。かしわはバリバリの体育会系女子であり、一年で高校女子バレー部の副キャプテンに選ばれる程の運動神経と違い稀なるセンスの持ち主だ。


 その上、かなりの陽キャな女子である彼女は中学の時から自然と周りに人が集まるタイプの人であり、幾度となく話し掛けられてはその距離感の近さに戸惑ったものだ。



「おっ!そっちは和樹かずくんと相太そーたか!こっちはきゃなでぃーとウチだから一緒に頑張ろう!ウチはパワー系できゃなでぃーは頭脳系。和樹かずくんはイケメンで相太そーたは…バランス系?だから。きっと代表選でも力を合わせて活躍出来るよ!」


「はぁ……。碧衣あおいはホントに脳筋なんだから。まあでも、いいわ。どうせ出るならみんな活躍出来るといいわね。」


「そうだな!相太も俺も何だかんだで運動は得意だし、碧衣さんにも引けを取らない活躍をするって誓うよ!だよなっ!相太?」


「いやまあ、お前はそうかもしれないけど、俺も活躍出来るかなぁ。てか、かしわさんも和樹も距離近いから。和樹はともかく柏さんは離れてね?その……。色々恥ずかしいからさ。」



 ーーと言ったように、柏さんを含めて皆のやる気は十分なので、選ばれたからには俺も代表選を頑張るつもりなのだが……。


 如何せん、柏さんの距離感は色々とおかしいので、俺自身もこうして直接注意するなどして彼女の事を抑える必要がある。


 そして、言ってる側から『えー?ウチらの仲じゃん!』と若干不服気味ではあるが、自ら距離を取る事で何とか彼女を引き剥がせる。



「(……ホント、柏さんの距離感バグだけは早く直して欲しい。多少はその手の免疫があるから大丈夫だけど、健全な男子高校生にはしんどい距離なんだよな。)」



 しかも、本人は邪な打算などはなく、男女問わずにこの距離感なので……。


 女子は一定の理解を示して好きにさせているが、これが男子相手だとそうもいかない。


 彼女に近付かれて勘違いした男子達は数知れず、本人にその気がなくても、勘違いした男子がよく彼女に告白をするようで……。


 そんな彼女に近付くだけで周りの男子がピリピリしてしまうので、俺としてはあんまり近付きたくはない女子になっている。



 ーーまあ、俺が意識していれば問題ないけど、柏さんは急に抱きついて来たりするから。代表選とは別に注意しないとな……。


 俺はそんな事を考えながら黒板に書かれた参加種目を眺めて、もうすぐに迫った合同体育祭に思いを馳せるのだった……。

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