音楽が全ての生き方(序章)『冷めた瞳と音楽』


「……初めまして。私は第一女学院中等部3年生の水無瀬 聖みなせ ひじりと言います。霞さんからのお願いなのであなたに会いましたが……。それが大した用事でなければ私は帰ります。」



 ここは第一女学院の空き教室。芦谷 霞あしや かすみさんに呼ばれて到着したその教室には、俺を敵視するような視線を向ける女生徒が一人、こちらをギロッと睨みつつ待機していた。


 しかし、開口一番こちらに敵意剥き出しな所を見ると、このように会って話をしてくれるだけまだマシなのかもしれない。


 とは言え、これが本来の反応と言うか、俺が想像していた女子校での反応はこの子のような敵意剥き出しの反応だったので……。


 歳下の子にこのように言われても、特に気に障るような気持ちにはならなかった。



 それよりも俺が気になっているのは……。



「それよりも……。霞さん。芦谷さんはどこに行ったんだろ?水無瀬さんがここに待機してるって連絡があって、すぐ向かうからってメッセージ送られてきたんだけど……。まだ到着していない感じなのかな?」


「な、無視ですか!?霞さんは遅れるもしくは来れないかもしれないって言っていたので、霞さんを待たなくても大丈夫です。

 それより!用件は何ですか!霞さんは詳しく話をしてくれなかったので私モヤモヤするんですが?あと!何度も言いますが、その内容が大したものでなければ帰ります!」


「えっ?あっ、ごめん。えっと……。まずは会ってくれてありがとう。霞さんに言われたからかもしれないけど……。そこは本当に。

 それで……、俺が聞きたいのは水無瀬さんと未来さんの関係について聞きたいんだ。同じ一女の高校1年生、橘 未来たちばな みくさんって知ってるよね?その子との事を聞きに来たんだ。」


「…………。」



 俺は水無瀬さんを無視するような形になってしまった事を謝罪しつつ、霞さんは来ない可能性を聞いたので、早速本題を切り出す。


 すると、それまでの敵意を向けていた様子から一転、スンとどこか冷めたような雰囲気で窓の外に目を向けたかと思うと……。



「……それで、私に何を聞きたいんです?言っておきますけど、私はまだの事を許してませんからね。だから、早く仲直りしろなんて……。そんな事言われても、私は絶対に謝りませんから。」



 水無瀬さんは俺の方は見ずに、頑として自分は譲らないと言って、未来さんの事をまだ許していないとそう吐き捨てる。


 事情はほとんど聞いてないが、彼女が未来さんにかなり怒っている事だけは明らかだ。


 とりあえずは、彼女と未来さんとの間で何があったのか……。それについて彼女から話を聞く必要があるだろう。



「あの……。俺は二人の間でどんな事があったのか詳しく知らないんだけど……。

 未来さんは水無瀬さんに何をしたの?それが分からないから……。今日は水無瀬さんに直接話を聞きに来たんだよ。」


「ふん。別に聞いても面白くない話ですよ。

 昔、音楽が全てでそれしか出来ない女がいて、それが変に馴れ合いを求めた結果……。ただ裏切られたってだけの。そんなつまらない昔話。それでも聞きたいですか?」



 水無瀬さんはそう言って自嘲気味に微笑み、俺にそれでも聞きたいかと問い掛ける。


 そのためにここに来たので、話は勿論聞かせて貰うのだが……。今回な目的である未来さんとの関係以上に、俺個人としては水無瀬さんの過去についての話も気になっていた。


 この年齢でこのように擦れてしまう原因とは一体何なのか?それを知りたいと思う。



 そのため俺は彼女の言葉に頷き、二人に何があったのかを尋ねてみる。



「……そうだね。俺は聞きたい。未来さんの事もそうだけど……。君自身の事も。」


「……変な人ですね。わざわざ私に会いに来て他人の話が聞きたいなんて。

 まあ、いいですよ。それよりも話をする前にあなたの名前を聞かせて下さい。私の話をあなたにするんですから、あなたの個人情報もこちらが聞いてもいいでしょう?」


「確かに……。ホントに今更だけど自己紹介させて貰うね。俺は第一高校の相川 相太あいかわそうたって言います。霞さんから聞いてるかもしれないけど、水無瀬さんと同じ第一女学院の中等部の3年生に雫って名前の妹がいるよ。」


「あいかわ……しずく?それってもしかしてだけど、生徒会副会長の相川であってる?何か賢くて可愛い子だって聞くけど……。」


「う、うん。多分だけどその相川であってると思う。て言うかアイツ……。中等部で賢くて可愛いで有名なのか?ま、まあ……。身内贔屓にしても可愛いとは思うけど。」


「何それ。まあ、今はその子の事はいいです。それで……。私はあなたに敬語を使った方がいいですか?私としては今のままの方がやり易くていいんですけど。」


「それで大丈夫。そもそも俺と一年しか違わないし、あんまり先輩って感じもしないだろうからね。呼び方は水無瀬さんが好きなように呼んでくれて構わないから。」


「では……。そのままの呼び方で『あなた』と呼ばせて貰いますね。とりあえず自己紹介はこれくらいにして……。早速ですけど本題に入りますか。あなたもそこまで時間の余裕がある訳ではないでしょう?」


「え、あっ……。うん。そこまでの時間の余裕はないかな。でも、俺の呼び方が……。」



 ーーそうして、水無瀬さんに簡単な自己紹介を終えて、ようやく俺は彼女の話を聞く事になったのだが……。なぜだろうか?


 本人は特に意識していないようなのだが、水無瀬さんからは自然な流れで『あなた』と呼ばれ続ける事になってしまった。


 とは言え、ここで彼女の腰を折って呼び方を訂正するのは気が引けるし……。何より、自分から好きに呼んでいいと言った手前、水無瀬さんからの呼び方を指摘しづらい。



 そして、俺が水無瀬さんからの呼び方に困惑している間にも、彼女は自身と未来さんの過去について語り始めていて……。


 どうしよう……。この状況ではある意味どうでもいい呼び方の指摘はしづら過ぎる!



「(ま、まあ……。これからも水無瀬さんに会う事はあるだろうし、今すぐに指摘しなくても大丈夫だよな?彼女は俺よりも歳下だし、ここは歳上の余裕で見逃すとしよう。

 そんな事より今は水無瀬さんの話の方に集中だ。そのためにここに来たんだから。)」



 その後、水無瀬さんの話に耳を傾けた俺は二人の過去について知る事になる。



 ーー時間は一年前の第一女学院へと戻る。

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