解決の糸口/(閑話)妹との日常『空白の1年/妹離れ出来ない兄』
「成程……。じゃあその
それで今は吹奏楽部の部長をしているけど、昔程の熱量では音楽と向き合ってないと、そういう話なんだな?同じく吹奏楽部の人が話していた噂の話では……。」
引き続き、ファミレスの窓際テーブル席。後から来た雫と合流し、巴さんがいる経緯を説明して、雫が持っていた
意外な事にかつての水無瀬さんは自身のライブを開く程、音楽に対して熱中していた人物であり、今も吹奏楽部で音楽を続けてはいるが……。今は昔程の熱量を持ってはおらず、ただ楽器の扱いが一番上手という理由だけで部長をしているだけのようである。
また、それに伴い去年まで続けていたライブなども開く事は無くなった為、彼女自身、もう音楽に対してそれ程の興味も熱意もなくなっており、ただ惰性で音楽を続けているのでは?と、噂になっているようである。
そして、その話を聞き終えた巴さんは雫に感謝の言葉を伝えつつ、雫の話を聞いての率直な感想を彼女は述べる。
「ですが……。なぜその水無瀬さんの名前を聞いて、相川くんと芦谷さんを避けてしまう程に
それとあの子にどのような関係があるのでしょうか?恐らくあの子の知り合い……。もしくは、友人の関係であると思いますが。」
「そうですね。俺もそれは思いましたね。もしかして何ですけど……。未来さんって音楽をされている方なんですか?それか音楽に関わる知り合いや何か繋がりがあったりとか?するんでしょうか……?」
これは水無瀬さんの話を聞いた時から俺も感じていた疑問だ。音楽に熱中して、ライブを開く程の人との縁とは一体何なのかと。
そして真っ先に考えられるのは……。未来さんが実は音楽をしていて、それが縁で二人は仲良くなったというものである。
そのため、俺は確認の意味も込めて巴さんにその関係の繋がりについても尋ねてみる。
「未来が音楽……?えっと……。小さい頃からの習い事で歌唱を少し嗜んでいましたけど、今は特に習い事をしていませんし、あまりあの子に音楽のイメージはありませんね?」
「そうですか?かなり前にはなりますけど、未来先輩が音楽室にいたのはよく目にしてましたよ?実際歌ったり、何かを演奏したりしてる所は見ていませんけど……。確かあれは去年くらいでしたっけ?ちょうど昔の音楽室を新調するタイミングで、吹奏楽部も合唱部も他の場所で練習していたような気がします。」
「そ、そうなんですか?私はその時は新しく高校に移った時なので、あの子の行動を把握していなかったのですが……。今思出だしてみると、部活などに特に加入していないにもかかわらず、少し帰りが遅かったような?」
すると、またしても雫からの情報でちょうど未来さんが中学3年生。そして、巴さんが高校に入学して間もない頃に未来さんは新調予定であった音楽室で目撃されていたようだ。
そもそも、なぜ雫が音楽室の未来さんを確認していたのか疑問だったが……。聞く所によると、改装前の空き教室状態であるのをいい事に生徒達がそこを溜まり場として使用するのを避ける為、定期的に生徒会役員が見回りに似た活動を行っていたようである。
そして、その当時中学2年生であった雫ともう一人の子がよく未来さんをそこで目撃していたようで、巴さんの妹である上に問題行動などを起こすはずもない未来さんを、特に注意などはせず見逃していたそうだ。
「(となると……、やっぱり水無瀬との繋がりはその『音楽絡み』で間違いないか?
巴さんの知らない。ほとんど空白の1年は未来さんをどのように変えたんだろうか?これに関しては直接水無瀬さんに会って、話を聞くまではよく分からないけど……。あれ程まで動揺するって事は、未来さんとその人の間で何か大変な……。それこそ、取り返しのつかない何かがあったのかも知れないな。)」
やはり、噂話やその当時の話を他人から聞くだけではよく分からない事が多い。
ーーその当時、未来さんと水無瀬さんの間に何があったのか?
なぜ音楽に関して、聞いている限りではある程度繋がりが感じられる未来さんの事を、その姉である巴さんが知らないのか?など、色々と不明瞭である点が残されている。
「では……。とりあえず、今日はこのくらいで終わりにしましょう。あまり巴さんを遅く帰らせる訳には行きませんし、もしよろしければ……、俺が家の近くまで送ります。
色々と不明な点がありますが、今日ここで話した事が
「巴先輩、お疲れ様です!ここは兄の言った通り、お会計はこちらで持ちますので……。また今度お話ししましょう!ではでは!」
「……そうですね。あの子の事は心配ですけど、ここで頭を抱えていても仕方ありませんね。お二人とも今日はありがとうございます。
帰りの手配は済んでますので……。お気遣いありがとうございます。……それでは。」
そうして、俺と雫は巴さんに別れの言葉を告げ、また進展があれば連絡する事を伝える。
しかしながら、女性一人の夜道は危険なので声を掛けさせて貰ったのだが、まさか送迎の手配がされているとは……。
詳しく聞いていないが、やはり巴さんも未来さんも良家のお嬢さまなのかもしれない。
その後、俺と雫は少しの間ファミレスに滞在を続けて言葉を交わし、雫が食後のパフェを食べ終えたのを確認してから帰路に着く。
相変わらず、未来さんの事で色々と考えてしまうタイミングはあったが、今日の巴さんと雫の話を聞いて、解決の糸口が少しだけでも掴めたような気がするのだ。
ーー次は水無瀬さんに会う事で、より未来さんについて知る事が出来るだろう。
そうすれば、未来さんの抱える『何か。』と、それに付随する問題の全容も把握する事が出来るのかも知れない。
もしそれがどんな内容であっても、俺はみんなが笑顔でいられるような……。そんな選択をしたいとそう思えるのだった……。
ーーー帰宅後、雫との日常ーーー
「ふぅ……。ようやく家に帰ってきたけど、食後の運動とは言っても、町内一周を歩くのは中々に疲れるな……。
風呂は雫が先に入っていいぞ。俺はテキトウに時間を潰してから入るからさ。」
「そう?じゃあお言葉に甘えて……。あっ!でも、お兄ちゃん。ソファーに寝転んじゃダメだよ。あまり汗かいてないとは思うけど、外での作業もしてるし、もしかすると、汚れちゃうかもしれないからね!」
「お、おう。じゃあ座って待っとく。別に俺がいるからって早く出ないで大丈夫だから。ゆっくり温まってこいよ。」
「……うーん?何々?何でお兄ちゃんは私をお風呂に長く入らせようとしているの?
もしかして……。また女の子と通話でもしようとしてるの?妹に隠れてコソコソと?」
「い、いや!人聞きの悪い事言うなよ……。ただ、今日は先輩と話せてないから電話しようとしただけで……。べ、別に普通の事じゃないか?ほら、お前も夜に友達と話してる事あるだろ?それと一緒と言うか……。」
ーーファミレスからの帰宅後のリビング。俺と雫は『このまま帰るよりも少し運動してから帰ろうよ。』との雫の一言により、軽くウォーキングをしてから帰宅していた。
そのため、思った以上に帰る時間が遅い時間になり、帰ってからする予定だった三葉先輩とのLINEでのやりとりを満足に出来ないと悟った俺は、帰宅後すぐには風呂に入らず、通話をする事で先輩との会話をしようと画策をしていた訳なのだが……。
雫への会話の誘導が下手だった為か、現在俺はジトーっと雫から疑わしげな視線を向けられており、非常に気まずい状況である。
しかし、俺の苦し紛れの言い訳が良くなかった為、『ふーん、私と同じただの友達との通話ねぇ……。』と、何か含みを持たせるような
「へぇ?じゃあ、私も生徒会の関係で知り合った男友達と通話でもしよっかな?お兄ちゃんはただの友達であれば……。妹に隠れて通話してもいいんだもんね?
私も新しく仲良くなれるかもしれない友達と今から一緒にお話ししようかな?」
すると、明らかにこちらを試すようにそう言ってスマホを取り出すと、数多くのグループの中からアイコンが少年漫画の主人公に設定してあるトーク画面を開く。
そして、ソイツのトーク画面の右端にある電話のアイコンをタッチしようとしてーー
「……この手は何かな?お兄ちゃん?」
「……俺が悪かった。だから、その……。やめて欲しい。通話するのは。」
「ふーん?お兄ちゃんは私が男の子と通話するのが嫌なんだ?それはどうして?」
「どうして……って、うーん?何て言うか、俺がモヤモヤするから?」
俺は咄嗟に雫の手を止めており、気が付いた時には雫の行動を思わず阻害していた。
とは言え、雫の言う事は尤もであり……。俺には雫の行動を止める理由もなければ、さっきまでの自分の行いを棚上げにして雫を咎める事は普通出来ない。
しかし、それでも雫の手を止めてしまうのは、俺が雫の事を手放せないからであり、端的に言ってしまえば、その名も知らぬ男友達に嫉妬してしまったからに他ならない。
すると、そんな俺の歯に衣着せぬ物言いに雫はポカンとした表情を浮かべ、次の瞬間アハハ!と、満面の笑みをその顔に浮かべる。
「へぇぇ!お兄ちゃんは私が男の子と仲良くするのは嫌なんだ?それで私が通話するとモヤモヤするからやめて欲しいって事なの?」
「な、なんだよ……。別にいいだろ。可愛い妹に変な虫が付かないようにする兄がいたって。でも……。分かった。お前にだけダメなんて言えないし、お前に隠れて先輩に電話しようとした事は謝る。だから、せめてどこの誰に掛けるかだけは俺に教えて欲しい。」
そして、ニヤニヤと俺に尋ねる雫に、正直に感じた心情を口にして、交換条件を出して相手の情報を聞き出そうとして……。
なぜか目の前の雫が固まって動かない。
そのため、俺は大丈夫か?と思いつつ、無防備に立つ雫の頬をツンツンと突いて遊んでいるとーーハッと雫が意識を取り戻す。
そして、意識を取り戻した雫はほんのり顔を赤くして、『これだからお兄ちゃんは。』とぶつくさ呟きながら、俺のツンツンしていた指をギュッと掴んで止める。
「もう!お兄ちゃんはホント無自覚にそういう事言うんだから……。妹としては、そっちの方がよっぽど心配なくらいだよ。
……それとさっきのは嘘だから。このアイコンでもこの子は女の子で、少年漫画にハマってこのアイコンにしてるだけだからね?
だから安心して?たまに体育祭の裏方の作業中に声掛けられるくらいで、ほとんどは環先輩や犬神先輩が守ってくれるから。」
「そ、そうなのか?まあ、その……。今度からはお前に隠れるように電話とかしない。しないから……、その……。今から三葉先輩に電話してもいいですか?」
「……はぁ。ホントお兄ちゃんはホントバカ真面目なんだから。……別にいいよ。ただしあっちに掛けてもいいか連絡をしてからする事!時間が時間だし、あんまり長くなり過ぎてお風呂を冷ましたらダメだからね!」
「あ、ああ!そうする!今度こそ先に風呂入っててくれ。俺は先輩に連絡取るから!」
すると、雫は俺の言葉に軽く頷き、先に風呂に入るべくスタスタと脱衣所に向かう。
そして、脱衣所の扉を閉める手前、扉からヒョコッと顔だけを出して……。
「風呂から上がったら私も三葉さんととお話しするから、お兄ちゃんは二人分の飲み物を用意しといて待っててね!」
「分かったよ。ちゃんとお前の分も用意しとくから入ってこい。それと烏の行水は良くないから急がないでな。お前が入ってる間に通話を切るなんて事はしないからさ。」
そうして、雫が風呂に入ってる間に三葉先輩と通話をして、体育祭の準備の話で盛り上がり、その後合流した雫も含めた三人で他愛もない話をしてその日を終えるのであった。
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