思わぬ来客と初めて知った妹の日常『初対面でも好感度MAX?』

 

 ーーコンコン!バタン!!


「はーい!ちょっと待ってね……。『失礼しますわ!』……うん、知ってたよ。キミはいつも通りに待てない子だね?何て言うか、キミにはもうちょっと落ち着いて欲しいかな。響子きょうこちゃんは最高学年で、中学生徒会の会長なんだから……。ねっ?」


「畏まりましたわ!環さ……。じゃなくて、たまき生徒会長さん!中学生徒会はわたくし、西円寺 響子さいえんじ きょうこにお任せあれですわ!でも、いきなり扉を開けちゃったのは良くなかったので、そこはごめんなさいですの。」


「うん、素直でよろしい。そうして、しっかりと周りの人の話を聞いて、みんなと協力して頑張っていこうね?……っと、ごめんね。この子はアタシの後輩の子で、と同じ中学生徒会で会長をしている子だよ。」


「ご紹介に預かりました。わたくしが『第一女学院・中等部』の生徒会長、西円寺 響子さいえんじ きょうこですわ!体育祭の短い間とは言え、わたくしも運営のお手伝いをさせていただきますので、以後お見知り置きをお願いしますわ。」



 ーー突然の足音が聞こえてきたかと思うと、数回のノックを経た後に勢いよく扉を開けて部屋に入って来た女子生徒。


 図らずしも、彼女の登場によってその場の空気を一転する事が出来た為、一体誰が勢いよく入って来たのかと……、思わず、俺と麗奈がその子に目を向けてみたのだがーーこの元気な子はホントに誰なんだろう?



 すると、そんな疑問を他所に進む二人の会話を盗み聞きした所、この子は中学の方の生徒会。それもそのトップである生徒会長であると知る事が出来た。


 そして天真爛漫な様子のその子、自己紹介によると西円寺 響子さいえんじ きょうこちゃんはまさかの『ですわ』口調で話をしていて、不意に俺達の方に顔を向けると、彼女は意外にも丁寧な口調でこちらに挨拶をし、それぞれにスッと握手を求めて来たのだった……。



「(正直、突然の登場に驚いたけど……、中学の生徒会のメンバーであれば、雫もお世話になっているだろうし、ここは仲良くしておきたい所だよな。でも……。ここって女子校だし、あんま露骨に近寄り過ぎると怖がられるかもしれないよな。ううん、雫以外の女子中学生は難しいな……。)」



 しかし、差し出されたその手を無視する事も出来ないので、ここはソフトタッチでもいいので握手をして、こちらに多少なりとも友好的な印象を持ってもらおう。


 そして、差し出された手に恐る恐る近づいて、その手を優しく握ろうとこちらも手を伸ばした所、ガシッと逆に西円寺さんの方が前のめり気味にこちらに近づいて来て!?



「お初にお目にかかりますわ!相太!いつも雫さんにはお世話になっていますの!わたくしの自己紹介は……。そうですわね。中学3年生の生徒会長でまだお付き合いした殿方はいらっしゃらないという事でしょうか?俗に言う『カレシ募集中』なので……。どうぞ、よろしくお願いしますわ!」


「うぇ!?よ、よろしく?それと……。こちらこそ初めまして、俺は相川 雫あいかわ しずくの兄で高校1年の相川 相太あいかわ そうたです。

 その……。カレシがどうのっていう発言は一旦は置いておくとして、妹の雫とはこれからも仲良くしてもらえたら助かるかな。だから、今回は妹ともどもよろしくね?」


「まあ!やはり妹さん想いの素晴らしい殿方なのですね!相太お兄さまは!聞いていた通りのとてもお優しい方なのですね!わたくし、少しだけ雫さんが羨ましいですわ。わたくしも、自身の事を思ってくれるお兄さま……。と言うよりも、わたくしだけを想ってくれる愛しの殿方が欲しいですわ!」



 圧倒的な信頼感。なぜだか俺は、西円寺さんとは初対面のはずなのに、とてつもない信頼を謎に彼女から寄せられていた。


 しかも彼女は、中学生特有のどこかキラキラした目でこちらを見るので、容易に『そんな事ない』と否定する事が出来そうにない。



 ーーしかし、どうしてここまで初対面の俺が信頼されているんだ?聞く所によると、それには雫が関係しているようだけど……。あいつ、俺の事を何て説明しているんだ?



「(さっき西円寺さんは『いつも聞いていた通り』って言っていたよな?まさか雫の奴、学校で俺の事を日常的に話してたりするのか?あんまり、家ではそんな感じを見せていないけど……。そのまさかなのか?)」



 そのため、俺は普段の雫に対する興味からか、別に今ここで聞かなくてもいい雫の日常について彼女に尋ねてしまう。



「えっと……。西円寺さんでいいかな?これは俺の純粋な興味で、勿論話したくなかったら別に話さなくても大丈夫なんだけど……。普段雫って、学校でどんな話をみんなにしてるの?女子校だから俺には分からない話も多いとは思うけど、その……。何についてよく話してるとかはないかな?ま、まあ……、特になければないで全然いいんだけどね?」


「あっ、西円寺でも響子でもどちらで呼んでいただいても構いませんわ。それで……、雫さんの普段ですか?それは先程も申し上げた通り、相太お兄さまのお話をしてくれますわよ?あまり教室では聞きませんが……。生徒会のメンバーの前ではよくお話している印象ですわ!何だか、いつも大人びている雫さんがわたくし達にだけ心を開いてくれているように感じられて、みんないつも楽んで聞かせてもらっていますのよ?」


「へ、へーそうなんだ。雫が……、俺の事を。(良かったー!生徒会のメンバーだけなら……、まだそんなに話は広まってないって事だよな?きっと!)」



 すると、それまで黙っていた両名。猫井会長と麗奈だが……、なぜだかそこだけは二人顔を見合わせて、片方はニヤニヤとそしてもう片方はどこかムッとした様子で、俺の事をそれぞれ意味ありげに見つめてくる。


 そしてその中のニヤニヤした方、猫井会長は面白いオモチャを見つけた子供のような目でこちらを見て、「ふ〜、色男だね〜!」などと、分かりやすく俺をからかってくる。



「やっぱり、雫は相太くんが大好きなお兄ちゃんっ子なんだね?しかも響子ちゃんも含め、相太くんが今はまだ知らないだけの、ファンの子が他にいるかもしれないし……、それも含めて、相太くんは罪な男だな〜。まっ!そこが面白いとこなんだけどね?」


「い、いや……。ファンとかちょっとよく分からないですけど。それに……。雫が俺の事を誇張して紹介しているだけで、実際にそんな事にはなりませんよ……。」


「そうなのかな〜?まぁ……。雫がゾッコンの相太くんなら、特に好感度が高くなくても普通に女の子達を落とせると思うけどね?」



 なんだろう……。猫井会長は一体俺に何を求めているんだろうか?正直、麗奈と別れてすぐな上、その元彼女である張本人がすぐ側にいる状況でわざわざ変な空気になるような事を言わないで欲しい。


 ていうか、そもそもの話ではあるが、雫が自身の個人情報を猫井会長にあまり伝えてこなかったのは、こういう状況を見越しての事だったのかもしれない……。



 すると、そんな猫井会長にからかわれる俺を見た西円寺さんは何を思ったのか、「もしかしまして、環生徒会長さん相太お兄さまの事をお慕いしていますの?」と言って、ポヤっと無垢な笑みを浮かべる。



「(……って、西園寺さんは一体何を猫井会長に言っているんだ!?その前の発言もそうだし、麗奈が俺の元カノだって事を知らないとは言え……、色んな意味で心臓に悪い事をする女の子だ……。)」



 だが掴み所のない人とは言え、猫井さんもイチ年頃の女性だ。仮にも男の俺を目の前にして『(俺の事を)慕っているのか?』と質問されて、『はい、そうです。』とは流石に返さないはず……。



「ん?そうだね……。(今まで会った男の子の中では)相太くんはかなり好きな方だよ?何と言っても、相太くんとその周りは見ていて飽きない面白さだからね?ぜひ今後とも、相太くんとは仲良くしたいと思ってるよ。だから……、アタシは今後も相太くんと仲良くするし、今よりずっと仲良くなるよねっ?」


「そうなのですね!相太お兄さま程の殿方はやはり多くの女性からお慕いなされているのですね!わたくしもいつか出会う運命の殿方について学ぶべく、今後とも相太お兄さまとは親しくさせていただきたく思いますわ!勿論、これまで通り雫さんとも!」


「うんうん。仲がいいのは良い事だよね?いつまでも、孤高を気取ってるとは大違いだ。ーーまっ!そんなどうでもいい事は置いておいて、今日は相太くん達を集合時間よりも早く呼び出したのは他でもない。今日から本格的に始まる体育祭の準備での、キミ達それぞれにある役割についての話なんだけど……。ん、どうぞ。」



 すると、ニコニコといつもの笑顔を貼り付けた猫井会長は色々とドキリとする事を言い、本題である体育祭の準備について話し出そうとして……。突然、先程のようにノックされたドアの方をチラリと見て、彼女はその扉の向こうの誰かに中に入るように促す。


 しかし、その扉の向こうの誰かは西円寺さんのようにすぐ中に入ってくる事はなく、ちゃんと外から「失礼します。」と、一声を掛けてからガチャリと部屋の中に入ってくる。



 そして、部屋に入ると同時にペコリと下げえいた頭を上げて、俺とはバッチリ目を合わせてーーって、えっ……?



「なっ、何で……。雫がここに!?」


「えっ!お兄ちゃん!?今日はもう少し遅い時間からこっちに来るんじゃなかったの?それに……。響子さんや環さんも一緒にいるし、もしかして今、何か大事な話し合いの途中とかだったり……する?」


「えっと……。ま、まあ、ただの世間話をしていただけだよ。ちょっとだけ普段のお前の話を聞いたくらいで、まだ大事な話し合いとかはしてないとは思う。」


「ん?普段の私についての話?どうして?」



 そうして、西円寺さんを訪ねて来た雫はここに俺がいる事を驚きつつも、やはりそれまで何の話をしていたのかが気になるようで、最終的には、半ば押し切られるような形で西円寺さんから聞いた内容を説明し、結果、妹のプライベートを白日の元に晒したとして雫の怒りを買ってしまうのだった……。


 ーーとは言え、雫が日常的に俺の事を中学生徒会のメンバーに話していると、俺がすでに知っていると知った雫の反応や赤面した顔を見ると、これくらいの不況を買うくらい安いものだと思えるのだった。

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