近くて遠い存在『戻らない時間と遠ざかる彼女』
「まあ、結論から先に言うと……。相太くんと麗奈はアタシ達生徒会のメンバーと一緒に運営兼雑用をしてもらう事になったんだ。こっちの生徒会と麗奈達の生徒会が共同で運営をしつつ、要所要所で他の足りてない部署に手伝いをしに行く……。そんな予定かな。」
「えっ?でも……。それだと俺はなぜそこに?黛さんは生徒会長ですし、生徒会同士一緒なのは理解出来ますが……。なぜ俺までそこに一緒なんでしょうか?」
「うーん、それはその方が面白そうだから!って、言いたい所だけど……。一応ちゃんとした理由もあるんだよ?
そうだね〜。知っての通り、ウチの高校って古くからある女子校でしょ?だから相太くんには、ウチの純粋な女子達に男の子が無害な存在だって事をアピールして欲しいんだよね。そのために、相太くんには運営サイドで一緒に頑張って欲しいな。」
猫井会長からの説明。現在俺は会長の呼び出しにより、元彼女兼第1高校生徒会長である麗奈と一緒にこちらを訪ねていて、先程までいた中学生徒会会長である西円寺さんとそれを追いかけて来た妹の雫が出て行くのを確認してから、今回こちらに呼び出された事の主な理由である役職についての説明を猫井会長の口から聞いている所であった。
しかし何と言うべきか……。猫井会長は運営兼雑用係として頑張れと言うが、それは別に俺じゃなくてもよくはないだろうか?
そもそも、俺がここに男一人呼ばれた理由も中学生徒会のメンバーである雫の兄だからという理由だけだし……、あながち、猫井会長が楽しむ目的で呼ばれたという可能性も無きにしも非ずというのが俺の予想である。
「(何て言うか、俺で楽しむというよりも、俺に誰か……。それこそ三葉先輩や麗奈を押し付けて、その反応を楽しんでいるように思えるんだよな。まあ、麗奈に関しての猫井会長は反応を楽しんでる以上の何かを感じざるを得ない様子だったけど……。
ただ嫌がらせをして、困らせたいだけという訳でもなさそうなんだよなぁ……。)」
さっきの攻防も隣で見ていた訳だが、猫井会長は何かしらを麗奈に気付かせようとしていた……。そんな風に思えるのだ。
確かに、猫井会長は事ある毎に麗奈に嫌味やからかうような発言を多数行なっていたのだが……、そもそも彼女が本当に嫌い相手であれば、その相手すらしないように思える。
その真意はよく分からないが、少なくとも傍から見た俺には、猫井会長がただ麗奈を嫌って嫌がらせをしている訳ではないと、そんな風に感じたのだった。
でもまあ……。今の麗奈との気まずい空気を解消するのに、ある意味ここで一緒に活動するのはいい事なのかもしれない。(俺の場違い感がすごいのだが……。)
「ま、まあ……。そういう事なら頑張ります。あんまり目立つようなタイプではありませんが、俺は俺の出来る事を精一杯やろうと思います。その……。運営でも雑用でも!」
「うんうん、素直なのはいい事だね!アタシは相太くんが目立たないようには思えないけど、きっと必要な時にはしっかり目立って活躍してくれるとそう思えるよ。役割によっては一緒に活動する事もあるだろうし、体育祭成功に向けて改めてよろしくね?」
「あっ、はい!よろしくお願い……って!な、何で急に手を掴んでくるんですか!」
「ん?何って……。普通によろしくの握手をしてるだけじゃないか。そんなに動揺してどうしたの?もしかしてだけど……、相太くんはアタシに手を握られて照れてるのかな?」
すると、精一杯頑張ると宣言した俺に、目の前の猫井会長は突然手をキュッと掴んで、こちらを覗き込むようにして俺の顔を見上げて、よろしくの握手とやらをしながらニヤニヤと俺の事をからかってくる。
正直、至近距離でかなりの美少女な猫井会長に上目遣いで見上げられるのは心臓に悪いし、何より柔らかい彼女の手のすべすべとした感触が非常に照れ臭い。
とは言え、不幸中の幸いは、雫と西円寺さんがここにはもういないという事である。
もし二人がまだここにいれば、歳上のというか……。雫の兄としての威厳もへったくれもなくなるからである。(そもそも俺に威厳があるのかも怪しいけど……。)
すると、そんな状況を見かねたのか、隣に座っていた麗奈が猫井会長の手をパッと俺から引き剥がしてくれる。
「あの……。ホントに何をやっているんですか?相川くんが迷惑に思っているので、その手を離して下さい。あなたは女子校の生徒会長ですよ?このような、見る生徒によっては誤解を生みかねない真似をして……。あなたは一体何を考えているんですか?」
「そうだね〜。アタシは自分の興味あるものには必要以上に絡みたくなっちゃうんだよね。だから、相太くんには物理的に絡んじゃった……みたいな感じかな?
何て言うか、相太くんはアタシ達とは近くはないけど、遠くもない存在だからね?それが分かるからこうして大胆になるのかもね。」
「……そう、ですか。とにかく、今後は必要以上の接触は避けて下さい。もしもの事を他の生徒から誤解されてはいけないので。
あと、この後にあるミーティングまでにやる事があるので……。私はこれで。」
「ん。視聴覚室は先に空いてるからどうぞ。みんなに配布分の資料はわんちゃーーじゃなくて……、犬神委員長から受け取ってね?
まあ……。ミーティングまでは時間があるから、好きに過ごして貰って大丈夫だよ。」
「……では、失礼します。」
そうして、猫井会長と麗奈は一言二言を交わした後、麗奈は一足先に生徒会室を後にして、猫井会長はこちらに背を向けたまま、窓の外を黙って眺めている。
そして、その間に猫井会長が俺に退室を促すような事は無く、俺は完全に出ていくタイミングを逃してしまっていた。
何となくではあるが、麗奈がこうしてミーティングまでの時を待たずして出て行ったのは、俺が何かしら関係している事は理解出来るのだが……。正直、今の会話だけではその全容を掴む事は出来そうにない。
なぜなら、そもそも俺は麗奈と猫井さんの関係からして全く知らなかったから。それまでの交流、いつからの知り合いなのかなど。最愛の彼女であったにもかかわらず、何も。
それでは、先程の言葉の意味もなぜ麗奈が先に席を外してまで、猫井会長の話を聞いていたくはないのか……。それについて知っているはずがないし、分かる訳もない。
だから俺は……。それ以上深く考えるような事はせず、ただ彼女が話し始めるのをジッとその場で待ち続けるのみだ。
こちらに話す気があるから、彼女は俺に退室を促さなかったとそう思えるから……。
ーーそれからしばらくして、猫井会長は「ねぇ……。相太くん。」と言って、ゆっくりとその重い口を開いた。
「相太くんは……。麗奈の事どんな女の子だと思ってる?これまで麗奈と付き合っての印象でもいいし、勿論、あの子と別れてからの変わった印象でも大丈夫だよ。」
「えっと……。なぜ今それを?確かに麗奈の印象は別れてから少し変わりましたが……。
なぜ、俺から見た麗奈の印象が関係してくるんですか?それは……。さっき麗奈に言っていた話と何か関係あるんでしょうか?」
「そうだね。そこも少しだけ関係してるんだ。第三者の意見というか……、あの子の事を誰よりも近くでちゃんと見ていたであろう、キミの意見が聞きたくてね。」
ジッとこちらを見る視線。その真っ直ぐで俺の心の内側を見ているような……、そんなこちらを見透かす彼女の視線に、この質問には茶化さず真面目に答えなければいけないと、なぜだかそう思えたのだった……。
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