(編集済み)相対する二人の生徒会長『やっぱり相性が最悪だった二人』

 

「あっ!来た来た~。やっほ~相太くん!ちゃんとアタシとの約束通り……、と一緒に来たみたいだね~。

 それと……。久しぶりだね、麗奈ちゃん。元気にしてた~?アタシ、環ちゃんは見ての通り元気だったよ!」


「こんにちは、。私が高校の生徒会長になってからはアナタに会った記憶はありませんが……、元気でやってましたよ?それでわざわざ私と……。相川くんを呼びつけたのは何が目的ですか?確かに今日も体育祭に向けた準備はありますが、まだ時間的には余裕があるはずですけども?」


「まあまあ、落ち着いて!そんなにカリカリしてたら……、可愛いお顔が台無しだよ~?

 それに、そんなにキツイ性格だってバレちゃったら……、とかに幻滅されちゃうかも?なんて……。っね?」


「……あなたにだけは言われたくないです。あと、そんなどうでもいい嫌味を言いたかっただけであれば、私達はもう帰りますが?」



 入っていきなりの応戦という名の舌戦。たった今、『第一女学院・生徒会室』に到着した俺は、目の前で繰り広げられる言葉の応酬の数々に、辟易とした心持ちでその行く末をただ見守る事しか出来ないでいた。


 ーーとは言え、こうなる事は何となく予想出来ていた。それでもここに彼女を連れて来たのは……。正直な所、俺が彼女とまた話をするためのきっかけ造り、その助けにでもなればと思った事は否定出来ない。



「(まあ……。そのきっかけを造ってくれたのが、猫井生徒会長でなければ特に不安を感じる必要はなかったんだけどな。明らかに麗奈の事を意識してるっていうか……、送られた文面からして、これ以上ないってくらいの挑発が含まれてたしな。流石にそのほとんどを麗奈には見せなかったけど。)」



 しかし、こうして二人で言い争う様子を見ると、俺の軽率な考えで対面させたのは、あまり得策ではなかったのかもしれない……。



「ま、まあ……。黛さん、一旦落ち着いて?猫井会長も変に黛さんの事を煽らないで下さいよ……。そもそも、俺が頼んでついて来て貰ってるんですから、あんまり黛さんの事をからかわないで下さい。」


「うん?別にアタシからかってなんかいないけど~?まっ!ここは相太くんに免じて、あんまり麗奈ちゃんで遊ばないであげるか〜!しょうがないな〜。」


「はい?あなたに遊ばれた覚えはありませんけど?ホント……、あなたは嫌味な人でしたよね。一体私の何がそんなに気に入らないのか……。」


「……へぇ?自分がアタシから気に入られていない自覚はあったんだ?それを自覚しているのに、まったく自分からは歩み寄る気がないなんて……。ホント、のそういう所がアタシすっごくだなぁ?」



 ーーなんだろう。薄々感じていたのだが、猫井会長と麗奈との間では、良くも悪くも何か特別な繋がりがあるようである。


 それこそ俺が麗奈と知り合うよりも前。もしかすると、幼馴染みと世間では呼ばれる位の、ずっと前からの関係なのかもしれない。



 しかし、そんなバチバチな様子を見て、二人の会話から蚊帳の外にある所の俺は……。



「(猫井会長。怖っわ!完全に素の会長出ちゃってるし……。間延びした口調もやめてる所とかホントに怖いな……。しかも、呼び方も『麗奈』って呼び捨てにしてるし、最初のは完全にお遊びだったって事か。)」



 でもまあ、この会長を見たのは初めてでもないし、猫井会長の事だから……、何も用がないのに俺達を呼んだなんて事ないだろう。


 だとすれば、俺が今すべき声掛けは……。



「二人とも一旦は落ち着いて下さい。もここに言い争いに来たんじゃないでしょう?……それに、ここに来る前に伝えましたよね?体育祭を成功に導くためにお互い協力して下さいって、それなのにこうして言い争って……。ホントにこれがお互いに協力する姿勢だと思いますか?」



 俺は二人に向けて少し強めの言葉で自制するよう促すと、徐々にではあるが攻撃的な視線を緩めて、最終的には「ふん……。」と双方そっぽを向いて、とりあえずの応戦の姿勢を解いてくれたのだった。


 そして、少しだけ落ち着きを取り戻した二人は、意外にも子供っぽくそっぽ向いたままではあったのだが……、それぞれ遅れながらに謝罪の意を口にする。



「……ごめんなさい。私も熱くなり過ぎました。あらかじめ言われていた事なのに、強く猫井会長に当たり過ぎていたわ。を含め、アナタにもごめんなさい。」


「うん、こっちもごめん。アタシもちょっとムキになり過ぎたよ。他のメンバーが居ないとはいえ、少し気が抜けていたみたい。ホントに……ごめんね。」



 やはり、二人ともお互いに熱くなり過ぎた事を自覚しているのか、最後には二人とも素直になって謝罪の言葉を口にした。


 そして、何だかお互いに気まずい様子であった二人だが、その後、事務的な話をしているうちに、いつの間にかこちらに来た時のような……、あくまでも仲良くはないが、そこまで険悪ではない雰囲気にまで戻って話をする事が出来るようになっていた。



 しかしながら、先程までの言い争いの影響が少し残っているのか……、今度は別の方向の話し合いが二人の間で行われていた。



「そういえば……、麗奈。最初は相太くんの事を『相川くん』って呼んでたのに、なんでさっきは『相太』って呼び方を変えたの?別に呼び方なんて、相太くんだって気にしないはずなのに……。どうして?」


「別に意図なんてなかったです。ただ、それまでの癖で咄嗟に読んでしまっただけで……。特に狙った呼び方ではありませんよ。何かを期待してる所悪いですが。」


「ふぅん?アタシは何で麗奈が呼び方を変えたのかを聞きたかっただけだけど……。まあそれは別にいっか。

 それはそうと……。今日ははいないの?確か三葉さんだっけ?何だかんだ、前回の様子からして、今日も相太くんに着いて来てると思ったんだけど……。どうしたの?」



 そして、何とも微妙なラインの話を猫井会長はしてきたのだが、流石にさっきの言い争いから冷静になった麗奈はそれを相手にしようとはせず、あまり口数多くは述べないでその質問を回避することに成功していた。


 だが……、それでも猫井会長は麗奈をどうにか揺さぶりを掛けたいと考えているのか、これまた微妙な空気になりかねない質問を麗奈にというか、敢えて麗奈に聞こえるようにしつつ俺にそう尋ねてくる。



「(なんだろうなぁ。二人とも決して仲が良いなんて事は言えないし、面と向かえば喧嘩するような関係なんだろうけど……。なぜか、猫井会長側は麗奈の事を本気では嫌っていないように感じるんだよな。どこか麗奈の行動や考えを探ってるっていうか……、わざと麗奈を煽る事を言って、その感情や言葉を吐き出させているようにも見える。)」



 確かに、先程言い争った際に猫井会長が言い放ったという言葉には気持ちが乗ってたし、それは気のせいではないんだろうけど……、本当にそれは、マイナスの感情から出ただけの言葉だったか?


 何となくだが、俺にはそれだけの言葉ではなかったように思える。何かがその後に繋がるような……、何か別の意味を込めたそんな言葉だったのかもしれない。


 まあそれも、勝手な俺の想像だけど……。



 すると何故だか分からないが、麗奈がこちらの手をちょんちょんと突いたかと思うと、「そ…相川くんから答えてくれない?」と言って、急に三葉先輩の動向についての説明役の代わりを俺に頼んでくる。


 しかし隣に並んでいるとは言え、急に麗奈からつんつんされるのは、色んな意味で心臓に悪いから止めて欲しい……。



「え、えっと……。先輩。三葉先輩は今日は来てないです。何か別に用事があると言っていましたよ?もしかして……。先輩に何か用事などがありましたか?」


「ううん、そんな事ないよ。今日は来てないのかなって思ってね。まさかとは思うけど、三葉さんと喧嘩しちゃったとかないよね?」


「何を期待していのか分かりませんが……。普通に先輩とは仲良くさせて貰ってますよ?でもまあ、今日の準備などには参加するそうなので……。いつになるかは分かりませんけど、後で合流するかもしれません。」


「うんうん。仲がいいのは良い事だね!キミ達が仲良くて何よりだよ〜。何と言っても、キミ達は見ていてホッコリするからね〜。」



 そして、俺は麗奈にお願いされるがまま、猫井会長に本日先輩がいない旨とその理由わけを伝えた所、冷やかすように先輩との不仲説を唱えたのだが……、それが間違いだと知ると、一転して俺と先輩の仲が良い事に安心したなどと、よく分からない事を言ってくる。


 正直、額面通りにその言葉を受け取れば、気にする必要のない猫井会長の冷やかし程度に感じる所なのだが……、今のこの状況でそれを聞けば、どこか別れた麗奈への当て付けのように変に勘繰ってしまうのだ。



 そのため、『何でこの人はデリケートな話をバンバン切り込んでくるかなぁ。』と、少し遠い目をしていたのだが、案の定と言うべきか、麗奈は何とも言えぬ様子で黙り込み、俺も『どうするんだよ、この空気……。』と、居た堪れなさが半端ではない。


 そして、俺も麗奈も何も言えずに二人押し黙っているとーータッタッタ!


 どこからか、誰かがこちらに駆けてくる足音が聞こえてきて……。

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