(編集済み)それぞれに対して思う事『永遠にも似た沈黙は嵐の前の静けさ』

 

「……でっ、こうしてまた、ボク達は一緒にお昼ご飯を食べている訳だけどさ……。何か前と違くないかい?どういう心境の変化かは知らないけど、麗奈はちょっと相川くんを避け気味だし。三葉は……。ホントにどうしちゃったんだい?やけに麗奈に話を振るし、二人はいつからそんなに仲良くなったんだい?」


「そ、そんな事……。ないです!私が相太。じゃなくて、相川くんの事を避けてるなんてそんな……。ね、ねえ……私、避けてないわよね?少し緊張しているだけで全然。」


「そ、そうです!変な事を言わないで下さい!確かに麗奈さんに話し掛けていますが、勿論、他意はないですよ!?ただその……。麗奈さんには少し興味があって。」


「えっと、これは…デジャブじゃ…ない?」



 昼時の屋上。普段人気の少ないその場所を選んで、俺と三葉先輩と和葉ちゃん。その三人で会話をしながら、昼食を取りにいつかのように屋上まで来たのだが……。


 そこには予想もしていなかった先客。ある意味心の準備が必要な相手である麗奈と、先輩である長谷川先輩がそこにいたのである。



 しかし、長谷川先輩が指摘したように、今日の二人は先日とは様子が違っていて……。



「(何て言うか……。二人ともぎこちない感じなんだよなぁ。麗奈は新しい関係に戸惑ってる感じなんだけど、三葉先輩は……、ホントにどうしたんだろう?

 さっきは『興味がある』って言ってたけど、ただ麗奈自身に興味があるって意味なのか?正直まだよく分からないけど……。)」



 ……とは言え、先輩が麗奈に興味を持つのは個人的には嬉しい事なので、とりあえず、まだ距離を掴みかねている二人の間を取り持つ意味も込めて、俺は二人に向けて共通の話題を振ってみる事にした。



「そういえば……。ここにいる皆さんは、体育祭で何をする役割なんですか?俺と三葉先輩は実行委員のメンバーだから先日メールで連絡が来たんですけど、生徒会はどういった役割を行うんですか?」


「そう…ね。私達生徒会はあちらの生徒会と連携して、主に体育祭の『運営サイド』にまわる予定だわ。勿論、運営サイドと言っても作業の手伝いはするし。……そうね。一言で言えば、運営兼雑用係とでも言うのかしら?

 だから、正確な役職名などはない体育祭実行委員会の補佐という所ね。」


「そうだねー。あくまでボク達は生徒会の人間だから……、基本的には体育祭実行委員会のサポートって所だよ。あっちの生徒会の行動は分からないけど、こちらは恐らく向こうの指示を待つって所かな?」



 そして、少々芝居くさくはあったが……、あたかも今思い出したように、皆が共通して動くであろう体育祭についての話題を俺はみんなに向けて振った所、やはり、仕事の話になれば気まずさを忘れるのか、麗奈は落ち着きを取り戻して俺の質問に答えてくれた。


 それが事務的な話であるものの、やはりこうして再び麗奈と向き合って直接話をする事が出来るのは、俺としてはありがたいし、じんわりと心が温かくなって嬉しい。



 すると、その話題に先輩も興味が湧いたのか、こちらに向き直って俺に尋ねて来る。



「では……。相太くんは何の役割を割り当てられたのですか?ちなみに私は資材の運搬・設置の役割を割り振られたのですが、これは……。『作業班』ですかね?」


「あっ、そうなんですね……。俺はの方は確か……。『運営サイド』って連絡がありました。具体的な内容は書いてませんでしたが、もしかすると、黛さんや長谷川先輩達と同じ役割なのかもしれませんね。」


「そうなんですか……。それは少し残念ですね。もし作業が一緒であればそれを含めてより楽しめたとは思いますが……、決まったものは仕方ありませんね。ですが、もし麗奈さん達と相太くんが一緒の業務であれば、相太くんの事をよろしくお願いしますね?」


「えっ、えっと……。わ、分かりました?まだ、相川くんと同じ内容の仕事かは分かりませんけど……。」



 ……うーん。やっぱり先輩の様子が変だ。麗奈への対応に関してもそうなのだが、若干俺への接し方にも変化がある気がする。


 何となくではあるが、俺に対しての接し方が落ち着いたと言うか……、後方から俺を見守るようなそんな姿勢の変化が感じとれる。



 すると、その変化に何か思う事があったのか、長谷川先輩は「ふ~ん?」と呟き、どこか気持ちここに在らずと言った様子である。


 しかし、このまま黙っていては気まずくなるだけなので、とりあえず当初の目的である先輩への感謝の言葉を伝える事にした。



「そういえば……。先輩。今朝の事ですけど、ホントありがとうございました。突然先輩に妹を押し付ける事になってしまって、何のフォローも出来ずに申し訳なかったです。

 今日はそれの感謝を伝えたくて先輩をお昼に呼んだんです。その……。雫と仲良くしてくれてありがとうございました!」



 そもそも、俺が雫と先輩の関係を感謝するのもおかしな話だと思うのだが……、それでも、やはり俺は嬉しかったのだ。


 自分の大切な存在いもうとが恩人である先輩に認められ、仲良くして貰えるという事が。



「(こんな形での紹介にはなったけど、出会って間もない先輩が雫に会ってくれて嬉しいと思えるのは……、何だろう。やっぱり先輩ならきっと雫とも仲良くしてくれるだろうという安心感からなんだろうか?でも、雫を紹介したいと思えたのは紛れもなく先輩だからであって……。ふぅ、一旦落ち着こう。)」



 とりあえず、先輩に雫の紹介が出来て良かった。二人で一体何を話していたのかは分からないが、二人が急激に仲良くなっている所からすると……、きっと何かしらでもあったんだろう。


 そして、感謝の言葉を伝えられた当の本人である三葉先輩は、「いえ……。むしろ、私が仲良くして貰ったくらいですから!」と、やはりこちらに気を遣ってくれるという、優しさ全開のいい人っぷりである。



 そのため、俺はその優しい先輩の言葉に思わず笑顔になり、改めて先輩に雫を会わせてよかったと、心の中で再び先輩に感謝の念を伝えていた所……、何やら視界の端に映っている麗奈の様子が変だ。


 彼女は軽く胸の辺りを押さえるような仕草をしていて、どこか困惑したような顔でボソボソと何かを呟いている。


 ここからだとよく聞き取れないが……。もしかすると、会話の輪に入れず少し気まずいのかもしれない。(まあ、それで胸を押さえている意味は分からないのだが……。)



 すると、この何とも言えない空気の中、それまで特に口を開かなかった和葉ちゃんがちょんちょんと俺の服の袖を引いて、上目遣いで俺にコショコショと話し掛けてくる。



「……あの、相太さん。何だか皆さん……。少しだけ変じゃありませんか?お姉ちゃんは……なぜか、いつもより落ち着いてるみたいですが……。もしかして皆さんーー元気をなくしちゃったんでしょうか……?だって皆さん……結構時間経ってるのに、全然箸が進んでいません……。」


「うんうん……。って、えっ?そこ…なの?」


「えっ?違うん……ですか?でも、お腹がすいてないのなら……どうして……ですか?」


「うぇ!?それは……。どうなんだろう?」



 正直な話、俺にだってよく分からないのだ。三葉先輩と長谷川先輩の間には……、簡単には言い表せない深い溝のようなものがあって、どちらも何か思う事がある瞬間、それが今なのだろうとそう思えるのだが……。


 麗奈に関してはそれがどう言った感情なのか、それを理解する事は俺には出来なかった。……恐らく今の状況に関して、俺が関係しているかもしれないという事。ただそれだけしか状況として読み取れないでいた。



 そして、永遠にも感じる沈黙がその場を支配し、和葉ちゃんと俺以外に誰も何も話し出せずにいた所ーーシュポ!


 突如として、その場の空気も読まずに送られてきたLINEの通知に、図らずしも俺達は救われたのだった……。



 そうして、俺はある意味の救世主であるそのLINEの送り主に感謝しつつ、「すいません、誰かからLINEが来たみたいです。」と断りを入れてから、その送られて来た内容をザッとではあるがその場で確認する。



「えっと……。ん?いやいや……。えっ?」


「……どうしたんですか?……そんなにビックリするなんて……。変な内容でも……送られて来たんですか……?」


「ですね。何か良からぬ内容のLINEだったのですか?和葉だけではなく……、ぜひ私にも見せては貰えませんか?」



 すると、驚いた俺の後ろからは二人が覗き込むようにして、送られて来たその画面を見て……、「えっ!?」と、これまた驚いた様子で顔を上げて、二人顔を見合わせている。


 全然関係ないけど、二人して肩越しに俺の手元にある画面を覗き込むのは出来ればやめて欲しい。その……。背後が妙に気になってしまい色々と落ち着かないから……。



 ……話を元に戻すが、そもそもこのLINEに書いてある内容は、俺一人でどうにか出来るような内容は書かれていないないため、このLINEの送り主の要望を叶えるべく、俺はにある提案を持ちかける事にした。



「その……。黛さん?放課後、俺と一緒に、猫井生徒会長に会いに行ってくれないか?」


「……はい?今、何て……?」



 どうやら、救世主は救世主でも……、相手は悪魔のような相手。それもこれから波乱を起こそうとする予定である、その相手からの救いの手だったようである……。


 ーー精神的にも感情的にもしんどいから、いきなりの連絡はホント勘弁してくれ……。

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