(編集済み)開かれた扉の先は『デジャブを感じる人と場所』
「……ふぅ。これで午前の授業は終わりか。ようやく昼休みになった事だけど……、どうしよう?今朝のお礼も言いたいし、先輩をお昼ご飯にでも誘おうかな?」
昼休みの始まり。午前中の授業をいつもよりボンヤリと聞いて過ごしていた俺は、休み時間を告げる鐘の音を聞きつつ、今朝初めて妹と対面して仲良く登校してくれた先輩の事を思い浮かべてそう呟いた。
今朝の不思議な組み合わせは、妹、雫の要望により実現した……、特に予定のなかった先輩の紹介だったのだが、先輩と雫の相性がよかったのか、二人は終始仲良さげに話をしていたのだ。(それこそ姉妹に見える程に)
なので、結果的に仲良くしていたが、いきなり初対面の妹を先輩に押し付けてしまった事実は変わらないので……、その謝罪の意味も込めて、今日は自分から三葉先輩をお昼ご飯に誘おうかと思ったのだ。
「(……とは言っても、先輩にも用事があるだろうし、予約もなく誘いに行って大丈夫なのかはよく分からないけどな。そもそも先輩は上級生だし、気軽に声を掛けてもいいのかな?上下関係を気にするようなタイプじゃないし、気にし過ぎかもしれないけど。)」
そして、どうしようかと逡巡しつつ、とりあえず教室の外に出て、廊下をボンヤリと歩いていた所ーーちょんちょん。『ん?』
「あっ……お兄ちゃん、じゃなくて……相太さん。こんにちは……です。今から……お姉ちゃんに会いに行きますか?」
「おっ!こんにちは和葉ちゃん。そうだね。少し迷ったけど、三葉先輩に会いに行こうかな。今朝にも先輩にはお世話になったから、そのお礼と感謝を言いに行きたいんだよ。
それで和葉ちゃんはどうしたの?もしかして、和葉ちゃんも先輩に会いに行く所?」
「は、はい……。私、あんまりクラスに友達がいなくて……、お姉ちゃんとよく食べてるんです。でも……相太さんがいるなら、ご一緒に……どうですか?」
「う、うん。友達がどうっていうのは置いておいて、その……。一緒に食べようか。それじゃあ……、先輩を呼びたいし、これから二人でお昼を誘いに行こうか?」
そうして、俺はバッタリ会った和葉ちゃんと廊下で合流し、再び先輩のいる二階の教室へと向かうのだが……、隣を歩く和葉ちゃんが俺の服の袖を軽く摘むように掴んでいて、多少は歩きにくいが、その様子は見ていてちょっと可愛らしい。
そして俺は、可愛らしい小動物のような和葉ちゃんを連れて、その道中に注目を集めながらも、何とか先輩の教室まで辿り着いた。
そこで、教室から出てきた女生徒、恐らく三葉先輩の同級生と思われる先輩に声を掛けて、三葉先輩をこちらに呼んで貰う。
すると、その女子の先輩はハッとした顔をして、俺とその後ろに隠れている和葉ちゃんを交互に見比べた後、何やら興奮した様子で教室の方を振り返って……。
「ねえねえ!大岡さん!あなたに可愛い後輩くんと妹ちゃんが来てるよー!しかも、あなたの妹ちゃんが懐いてるって事は……。もしかして彼が例の男の子なの?」
「はい?突然何を言ってるんです?
「あっ、はい!今朝のお礼を言っていなかったので、それを含めてお昼のお誘いです。えっと……、何か用事とかは無かったですか?突然のお誘いなので、他に用事などがあればそちらを優先して欲しいですけど。」
「いえ!勿論、ご一緒させてもらいます。急ぎの用事などは特にありませんからね。わざわざ、教室まで誘いに来てもらってありがとうございます。和葉もありがとう。」
そして、女子の先輩。
急激に真那加さんへの興味を失った三葉先輩は彼女の質問には答えず、あくまでも俺達にしか興味がないといった様子で、快く食事のお誘いを承諾してくれたのだった……。
しかし、俺からすれば三葉先輩の塩対応の理由や真那加さんとの関係がよく分かっていない為、正直、いつもの先輩の優しい様子からすると……、困惑が大きい。
なので、多少言葉をぼかしつつ、真那加さんとの関係を三葉先輩に尋ねる事にした。
「あのー先輩?その…真那加さん?とはどういった関係なんですか?正直、何が何だか分からないんですが……、あんまり無視するのは少々可哀想かと思いまして。」
「そうだ!そうだ!大岡さんは私にだけ冷たい!いっつも取材する私を無視して……。それでもあなたは血の通った人間かー!ここは後輩くんに免じて私の質問に答えてよー!」
「はぁ……。これだから真那加さんは面倒なんです。いいですか、相太くん?この手のゴシップ好きの変な人には関わってはいけませんよ?無い事無い事。根も葉もないどころか、そもそも木すら存在してない事を触れ回るような人もいるんですから。
優しい相太くんには少し難しいかもしれませんが……、優しくする相手はちゃんと見極めないと後々に苦労しますよ?」
「あっ!大岡さん酷い!後輩くんに変な事教えちゃダメなんだー!いくら私が新聞部で『学園の姫たち』の特集を組んでるからって……、そんなに邪険にあしらうなんて酷いよー!断固待遇改善を要求します!」
すると、俺の擁護する声に同調する形で真那加さんは声を挙げると、ぶーぶーと文句を言いつつ、彼女は三葉先輩に面倒な絡み方で自身の待遇改善を要求していた。
しかし、そんなダル絡みに対しても、三葉先輩は全く気にしていないといった様子で軽くスルーをしていて……、何だかんだで二人の関係性が、そういう心配するような関係でないという事が理解出来た。
まあ……、軽くあしらわれているだけなので、一概にいい関係とも言えないのだが。
とは言え、休み時間は有限なので、ここは三葉先輩に乗っかって、真那加さんを無視させてもらう事にした。確かにこの人は少し面倒な人なのかもしれないから。(それに面倒な事で有名な新聞部らしいし……。)
「じゃ、じゃあ……。お昼を食べに行きましょうか?先輩、和葉ちゃん。今日も場所は屋上でいいですよね?……で、では!俺達はこれで失礼します!」
「……し、失礼します……!」
そうして、俺が真那加さんに向き直って別れの言葉を一方的に告げると、俺の背後に隠れていた和葉ちゃんも加勢するようにして一緒に別れの言葉を重ねて告げる。
もしかすると、和葉ちゃんのこの警戒感からして、和葉ちゃんにも真那加さんの取材という名の魔の手がすでに伸びていたのかもしれない。三葉先輩もそうだが、和葉ちゃんも先輩に負けず劣らずの美少女で妹だし。
だが、この手のタイプの人なので、しつこく食い下がるかと思ったのだが……、意外にも、無理にこちらを引き留めるような事はなく、『バイバーイ!』と変わらず笑顔でこちらに手を振ってニコニコしている。
やはり、面倒な所はあるもののどこか憎めない、そんな人なので、三葉先輩も険悪な様子はなく対応しているのかもしれない。正確には何も対応していないのだが……。
とにかく、俺と先輩と和葉ちゃんはそのまま真那加さんと別れて、昼食をとるために屋上へと向かった。
前来た時もそうだったが、うちの学校の屋上は昼休みは意外に人が少なく、静かに話をするにはもってこいの穴場スポットなのだ。
なので俺は、これでゆっくりと話が出来ると、屋上の扉を開けてーー困惑した。
「なんだろう……。このデジャブは……。」
「うーん、なんでまたキミ達がここに?結構あるスポットの中でも、ここは人が少ない方なんだけどね?」
「相太……なの?ど、どうして……?」
なぜなら、開かれた屋上にはもう既に先客がいて……、その先客がまたしても長谷川先輩と麗奈の二人であったからである。
ーー再びの麗奈との出会い。今度は前とは違う関係として、新たに麗奈とは仲良くしたいものだと俺はそう思った。
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