(編集済み)落ち着かない通学路『我が家の妹さま』

 

「「じゃあ母さん(お母さん)行ってきます!!」」


「はいはい、二人とも行ってらっしゃい!何だかんだ言って、二人とも仲良しなのね〜。まっ、母親としては兄妹仲が良い方が断然いいとは思うけどね……?」


「「な、何言ってんだよ(言ってるの)……母さん(お母さん)。そんなんじゃないって!俺達は(私達は)!!」」


「まっ……、あんた達がどうだろうとどっちでもいいけど、私もそろそろ行くから、早く学校に行きなさい?二人とも、気をつけて行ってらっしゃい。」



 ーー朝の登校の時間。


 昨晩、色々と恥ずかしい思いをして、二人してあの後……、あまりお互いに話し掛ける事が出来なかった俺達二人は、特に何か話し合った訳ではなかったが、自然と今日も昨日同様に一緒に登校する流れになっていた。


 そして昨日の事があり、朝からぎこちなかった俺達がそのまま一緒に登校しようとしているのを見て、母さんが意図せずそれを指摘してしまった為、結果として……、俺達は昨晩の恥ずかしい気持ちをお互いに思い出してしまったのだった。


 そのため、俺達二人は母さんからの『仲良し』との発言に過剰に反応してしまい、逆に母さんからは苦笑いで、兄妹揃って軽くあしらわれてしまうという有り様だ。



「(いつもならこれくらいの話、笑って流す所なんだけど……、何だか昨日の事もあって、ちょっと気恥ずかしいんだよな。いくら肉親とは言え、他の人からそんな風に指摘されてしまうのは……。

 まあたぶん、さっきは勢いで否定してしまったけど、世間一般的に言えば、俺達は『仲良し』の部類に入るんだと思う。クラスの弟妹持ちの奴らの話を聞く限りな。)」



 自分でも変な話なのだが、昨日の事があるまで普通だった俺から雫に対する気持ちが、なぜだか、普通の女の子に対するそれ。異性に対する恥じらいのような……、そんな心情になってしまっているのだ。


 気恥ずかしく感じるけど、離れたくはない。そんな……、妹に対して抱くには、あまりにも変でおかしな気持ち。


 だけど、それが今の俺の本心であり、一時的とは言え、雫を変に意識してしまっているのは紛れもない事実だ。



 なので、この手の話に過剰に反応してしまうのも、今だけは仕方のない事であり、雫に何とも言えない距離感を作り出してしまうのは、どうしようもない事なのだ。


 そうして母さんから指摘されて、少しだけお互いを意識した俺達二人は、まだ登校もしていないにもかかわらず、心身ともにかなりの体力を使ってしまったのだった……。




 ・

 ・・

 ・・・

 ・・

 ・




 ーーー待ち合わせ場所にてーーー


「そういえば、昨日言ってたけど……。もう、三葉先輩に会う事は…大丈夫なのか?

 昨日はあんな事があったから、ほとんど、会ったって気はしないんだろうけど……。」


「うーん……。まあ、大丈夫だとは思う。昨日のアレは私の気持ちの問題だし、三葉さんは何にも悪くないからね。

 それに……、あの時、お兄ちゃんを止めて先に行ってくれた事には感謝してるし、何より和葉ちゃんのお姉さんなら……、絶対いい人だって信用出来るからね。」


「お、おう……。お前がそう言うなら俺も安心だ。(何だ?この和葉ちゃんに対する異常に高い信頼感は。)

 と、とりあえず、ここで待ち合わせしているから……、ちょっとだけ待っとこう。向こうももうすぐ来るはずだから。」


 そうして、二人少しの間雑談をしながら歩いていたら到着した、今朝の集合場所。昨日はあんな事があった為、行くのかどうしようかとかなり迷っていたのだが……。


 思い掛けず雫本人からの強い希望があり、再びそこへと決まったーー昨日と同じ、寂れた商店街の集合場所。


 そこに辿り着くまでは雫との雑談であんまり意識していなかったのだが、いざそこに着いた所で、俺は改めて大丈夫なのかと、少しだけ心配になってしまう。



 だがまあ……。改めて雫にその事を尋ねてみても、やはり、先程と同様に『問題ない』との返答があった為、このまま二人で先輩が来るのを気長に待つ事にする。


 内心、『早く先輩に来て欲しいような、そうでもないような?』と言った、何とも言えない複雑な心情ではあるのだけど……。



 そして少しすると、背後からタッタッタと、誰かがこちらに急いで駆けて来るーーそんな子気味の良い音がする。


 そのため、俺はその音の方に振り向き、それが先輩かを確認しようとしてーーバンッ!



「痛っ!な、なんだ!?」


「おっす!相太!おはよう。」


「へっ?か、和樹……?何で?」



 振り返った俺がその人物を確認しようと振り返るよりも先に、俺の肩を勢いよく叩いてきた和樹は、俺が抗議の声を上げようとするのも、その無駄に爽やかな微笑と朝から元気過ぎる挨拶によって無効化してくる。


 そして、俺の隣にいた雫も突然の和樹の登場には流石に驚いている。



 ……と言うか、そもそも何でコイツがこんな所にいるんだ?和樹の家はもっと学校の近くのはずなんだが……?


 すると、俺の感じた疑問に感づいたらしい和樹は、それを俺が尋ねるよりも先に、自分からその疑問について答える。



「ああ、俺がここにいる理由だろ?その不思議そうな顔は。まっ!別に対した理由じゃないが、単純に姉ちゃんに会いに行ってただけだ。ほら……、あの生活感ゼロの俺の姉ちゃん。お前も知ってるだろ?あの姉ちゃん、長期間放っておくと家の中が簡単にゴミ屋敷になってしまうって事。」


「あー、こよみさんの事か……。それは何て言うか……、ご愁傷としか言えないな。朝から色々とお疲れ様、和樹。

 でも、何で今日はお前が?確か暦さんの家にはお前の母親がーー香織かおりさんが直々に、その様子を定期的に見に行ってるんじゃなかったっけ?ほら、女の一人暮らしは不安だからとか、何とか言って……。」



 確か俺の記憶が正しければ、和樹の姉である暦さんはこの春から大学生になった、俺らの三つ歳上のお姉さんだ。


 高校の時は暦さんも和樹と同じ実家暮らしで、その当時はよく見かけた人だし……、なんなら、俺も含め三人一緒で登校した事がある程のそこそこ見知った人だ。


 なので、そんな暦さんの性格や行動は、俺も見て聞いて、ある程度把握しているつもりなのだが……、これが中々に、ひとクセもふたクセもある人物なのである。



 すると、俺と和樹の話を聞いていた雫はイマイチその話について行けなかったのか、俺の服の袖をちょこんと掴み、こちらを上目遣いで見上げて問い掛けてくる。



「ねぇ、その暦さんって……、和樹さんのお姉さんなんでしょ?意外と真面目で器用な和樹さんのお姉さんなら、そんな風に家がゴミ屋敷になんて……、なるものなの?それとも、大学生の一人暮らしになって……?」



 雫は恐ろしく真っ当な正論を言って、まだ見ぬ暦さんの片付けが出来ないダメっぷりを疑問視しており、ある意味で、片付けなどを雫に任せっぷりな俺も……、少しだけその言葉に肩身の狭い思いである。


 そして、そんな雫の言葉を聞いた和樹は半笑いで俺の肩を叩きながら、少し冗談めかした様子で雫に話し掛ける。



「まあそうだよね、雫ちゃんはかなりしっかりしてるから……、うちの姉ちゃんみたいな人間が信じられないってのも、仕方ない事だと思うよ。実際、俺もマジで血の繋がりを疑ったくらいだし。でもそれ言ったら、相太だって片付けを雫ちゃんに任せて、あんまり出来ない所なんて、片付けられない姉ちゃんと同じじゃないかな……、なんてね?

 ほら、相太も大学生になって、もし一人暮らしなんかするようになったら、もしかすると……、もしかするかもよ?」


「そうですね……。確かにお兄ちゃんは自分で掃除とかしませんし、それ以外にも洗濯なんかもしませんから。

 そう考えてみると……。そのお姉さんのような人がいてもおかしくはないですね。少し軽率な発言でした。もしお気を悪くされたのなら申し訳ありません。……でも、和樹さんの指摘に関しましては心配ご無用ですよ?」



 すると意外にもあっさりと、俺の片付けが出来ないとの判定と追加の俺のダメ情報までを暴露してくれたーー我が家の家事担当であるところの雫さんは、その真面目な性格故に和樹に対して素直に謝りつつも……。


 何やら、最後に気になる一言を和樹に言って、『ふふふ。』と、どこか不敵に微笑む。



「(何で、自分で言うのもアレなダメっぷりなのに……、雫はこんな得意げに大丈夫って言ってるんだ?何かちょっとだけ、嫌な予感がしてるけど……。一応、その理由を聞く事にしよう。雫が変な事を和樹の前で口走らないのを大いに期待する事にして。)」



 そして、俺は雫が浮かべる得意げな微笑みに一抹の不安を抱きながらも、一先ずはその『俺がダメでも大丈夫な理由わけ』とやらを、そのまま黙って聞く事にした。



「いや、別に俺は大丈夫だよ。俺もちょっと雫ちゃんをからかっただけだから……、こちらこそごめんね。姉さんがだらしないのは事実だし、それを指摘されても俺は怒らないよ。

 それよりも……、俺の話が杞憂って言うのはどうして?俺としては……、むしろそっちの方が気になるよ!」


「えっ?理由って……、そんなの決まってるじゃないですか?お兄ちゃんが家事全般がダメなら、……、それで十分だし、適材適所じゃないですか。

 まあ、私にも都合が悪い時はあると思うので、その時は……、お兄ちゃんの手を借りる事もあるとは思いますけどね。そこは臨機応変にと言いますか……、そういう感じで。」



 すると、少しだけ興味深げな和樹が相変わらずの爽やかな笑みを浮かべながら、雫にそう問いかけた所……。


 当の雫は事も無さげにそう言うと、なぜだか俺の手を取って、きゅっと自身の方にその手をしっかりと抱き寄せる。


 加えて、その手を取った雫は兄妹としては有り得ない程の距離感に、その整った顔を急接近させてニコッと微笑み……。



「まあ、私達はこのようにとてもという事で……。別にお兄ちゃんが家事全般にだらしなかったとしても、私がいるからそこは無問題という事になりますね。

 ですから、和樹さんの懸念は起こり得ない事なので、心配は無用という訳なんです!」


「へ、へぇ……。それはまた……、かなりぶっ飛んだ発想だね。ま、まあ……、ある意味でそれが一番の正解っていうか、色んな意味で究極の真理かもしれないね。……うん。きっとそうだ。妹さえいればそれで……。」


「いや、和樹も何か悟ったみたいな表情で諦めないで!?てか、雫も!俺も今後は出来る限り家事をもっと頑張るから!それに頼る事があるとは言ったけど……、自分でも出来る事はなるべく自分で頑張るから!なっ?」



 何て言うか……、色々とマズイ感じの話の流れになってきたので、俺は慌てて二人の会話に割って入り、若干引いた様子の和樹となぜだかドヤっている雫の二人に、それぞれ『色々と落ち着いてくれ。』と話し掛ける。


 話の内容が少々アレな所もあるが、何より、これ以上この会話を続けさせれば、色々と和樹の中での俺に対する評価が、乱降下しそうな気がしたからである。


 いくら中学からの腐れ縁であっても、コイツからの不名誉な評価を受けるのは、何としてでも避けなければいけないのだ。



 すると、何とも言えない空気になった俺達のもとに、先程以上にたったった!と、急いでこちらに駆けてくる、背後からの足音が俺の耳に聞こえてきてーーガバッ!



「すいません!遅れました!お二人とも!まだ時間的には大丈夫だとは思いますが……。早速ですが行きましょう……か?って、あれ?なぜこんな所に一年の榎本くんが?もしかして、相太くんのお知り合いなのですか?」


「あっ、はじめまして……、大岡先輩。ちょっとだけこっちの方に用事があって……。それを終えて歩いていたら、偶々ここで相太に会ったんです。それで今まで話をしていて。

 あっ!それと……、先輩のお察しの通り、俺と相太は中学からの同級生で……。ついさっきまでです。今からは……、彼とは仲良くしていきますので、の知人としてよろしくお願いします。」


「いや、普通にこれからも親友としていてくれよ……、和樹。まあ、俺もだらしない所とかを徐々に直して、あんまり雫の世話になり過ぎないようにするからさ……。

 ……とっ、おはようございます。先輩。和樹コイツとはさっきの説明の通りなので、仲良くして貰えるとありがたいです。それと……、妹の雫とも、よろしくお願いします。」



 そうして、少し遅れて到着した三葉先輩と、はじめて先輩と面と向かって会話をした和樹の会話を隣で聞きつつも、俺はとりあえず……、和樹と雫の事を先輩に紹介する。


 和樹は自分で説明した通り……、まあ、親友のくだりは置いておくにしても、先輩とは完全に初対面の関係のはずだし。


 そして雫に関しても……、ほぼほぼ初対面と言っても過言ではないような……、そんな関係性だ。恐らくだが、先輩にとってもそれと似たような認識だろう。



 と、このようにーー今朝の登校には、色々と想定外の和樹との遭遇や思わぬ雫からの自己主張などがあり、色々と驚くべき事が多くあったが……、とりあえず。いつもとは違うこのメンツで俺達は、引き続き学校に向けてその歩みを進める事になるのだった……。

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