(編集済み)共通の話題(俺)『本物の姉妹のように』

 

「じゃあ、お兄ちゃんに三葉さん達。私はここで分かれ道だから……、皆さん気を付けて行ってきてね?

 ……あと三葉さん。学校でのお兄ちゃんをよろしくお願いしますね。色々とだらしない所があるとは思いますが、ご迷惑にならない範囲で兄をよろしくお願いします。」



『第1高校』と『第1女学院』の校区が分かれるちょうど分岐点。そこまでの道を、俺達兄妹に三葉先輩、それに親友の和樹を加えた計四人で、俺達は学校に向かっていた。


 そこで四人集まって登校する際、自然と男女の二グループで分かれてしまい、ある意味とても気まずいはずの二人を初対面ながら一緒にしてしまったのだ。


 だから、一体どんな会話をしていたのか、とても気が気ではなかったのだが……、意外にも、二人は終始ニコニコと笑顔で話をしており、何やら共通の話題か何かでとても盛り上がっていたようだ。



 そして、雫から謎のお願いをされた先輩は、別段それに眉を潜めるような事はなく、むしろ、心配性の妹を優しく嗜める、実の姉のように柔らかい笑顔でそれに応える。



「はい!勿論、私がしっかりとお手伝いします。今は体育祭の準備の時期ですので、それも含め、サポートをしていきたいと思っています。学校での相太くんは私にお任せ下さい!」


「ありがとうございます!三葉さんや和葉ちゃんがお兄ちゃんの近くにいて、色々サポートしてくれてると思うと、私すごく安心出来ます!だから……、家でのお兄ちゃんは私がサポートするつもりなので、昼間の間、学校でのお兄ちゃんは三葉さんや和葉ちゃんにお任せしますね……?」



 すると、何故だか二人で俺の手伝い、もとい、サポートという名の俺を管理する話について、雫と三葉先輩はまるで本当の姉妹のように息ピッタリな様子で笑い合い、そんな物騒な事を話し合っている。


 そして、そんな風に二人寄り添って歩き、雫が先輩を見上げるようにして話し掛けるその様子は、こちらも見ていて、安心する事が出来るのだが……。


 しかしながら、その話し合っている内容自体は、何だか俺にとってとても不穏な会話のように聞こえてならない。



「(和樹に『自分の事は自分でする!』って言った手前、あんま、サポートばっかりして貰うのは情けないような気がするけど、でも、折角二人が意気投合してるからなぁ……。

 初対面でここまで仲良く出来るっていうのも珍しいって言うか、とてもありがたい事なんだし。その話の内容がどうであれ、あんまりそれに対して、水を差すような事はしない方がいいのかな……?)」



 そうして俺は、その話の行方を黙って見守る事にしてそのまま歩いていた所、ざわざわと、周りの生徒達がにわかに騒がしくなる。


 俺は何だ?と思い、周りのざわめいている生徒達の話に、聞き耳を立ててみると……。



「ねっね!あれって……、大岡さんの……なのかな?」


「えっ……?う、うーん?確か大岡さんには1年の妹さんが1人いたような?ほら、あの小さくてお姉さんに似てすごい可愛い子。でも、あの子も可愛いし、もしかすると、大岡さんって三人姉妹なのかも……?」


「でも、あんまり顔は似てないけから、もしかすると、大岡さんの親戚の女の子とかなのかも?勿論、確証とかはないけど……。」



 まさかの、本当の姉妹か親戚の女の子だと周りからは思われているのか……、雫と三葉先輩を中心に、俺達グループ(主に雫と先輩)がものすごい注目を集めていた。


 しかし、当の本人達は周りのざわめきなど気にも留めていないのか……、二人別れ際にもかかわらず、とても楽しそうな様子である。



 すると、そんな二人を横目に、隣を歩く和樹が俺の事を小突きつつ、周りにも聞こえるような声で俺の事を冷やかしてくる。



「おいおい、相太。お前の大切なが、憧れの大岡先輩に取られちゃってるぞ?それも周りが言うには……、なぜか新しい二人目の妹として。

 いいのか?ここは妹ちゃんの、大事な雫ちゃんを先輩から取り返さないと!」


「いや、取られちゃってるってお前……。まあ、俺から見てもホントに姉妹みたいに見えるし、これはこれで別にいいんじゃないか?

 ほら、実の妹の和葉ちゃんも含めて、『お姉さんとその妹』みたいな、何か仲の良い家族の会話みたいで……、何だかすごく微笑ましい光景に見えないか?」



 なので、俺は和樹からの冷やかしとも言えぬ指摘に、別段慌てるような事はなく、自身が抱いた感想をそのまま和樹に伝えてみた。



「っえ?あ、ああ……。な、成程……、そういう意味か!」



 するとなぜか、俺からの返答を聞いた和樹が一瞬ポカンとした後……、何やら、とても慌てた様子でそんなおかしな事を言いだす。


 なので、俺は和樹のそんな様子に「いや、何がなんだよ?」と、至ってシンプルな疑問を和樹にぶつけてみた所……。



「いや……、お前が大岡先輩と雫ちゃんを家族みたいって言うから、実際にお前が先を見据えているのかな……なんて。

 それにお前さっき、大岡先輩の事を『』って言ってたし。」


「はっ?って、いやいやいや!な、何でそんな事になるんだよ!?その…家族みたいと言うか、何だか二人が微笑ましいって話だろ?そんな……、先の話だなんて……。」



 まさかの和樹が動揺していたのは、俺の『雫が先輩と姉妹みたいで家族のように微笑ましい。』と言った発言が、あろう事か先輩との将来的な関係性についての言及だと、先輩と家族になるとの宣言だと、変に勘違いされてしまったのだった……。



 すると、その話が聞こえたのだろうか?それを聞いたと思われる生徒達がざわざわと、にわかに騒がしくなり、何だ何だ?と、こちらに今まで以上に多くの視線が集まる。


 そして、二人で話しに夢中になっていた雫と先輩も、いつの間にか横目でチラチラとこちらの様子を伺ってきており……、正直、とても気まずい状況である。



 しかし、このような状況で上手い返しが思い付く訳もなく、この場をどのようにして収めるのかと、真剣に俺が検討し始めようとしていたーーそんなタイミングで……。



「ーー皆さん、そのように通学路で立ち止まってはいけませんよ。ここは公道ですから、我が校の生徒以外にも通行人はいるんです。

 なので、そのように立ち止まって通路を塞いではいる事態は……、我が校の生徒会長として、見過ごす事は出来ませんよ。」



 ふと、曲がりの角の先からそんな声が聞こえてきて、俺は思わずハッとそちらに目を向けてみると、そこにはこちらに目を向けて周囲の生徒に声を掛ける麗奈の姿が。


 そして、当然のように同伴するような形で麗奈の側に立つ、長谷川先輩の姿もこちらから確認する事が出来る。



 すると、そんな生徒会からーーひいては生徒会長からの忠告に、立ち止まってこちらに聞き耳を立てていた野次馬の生徒達は、少し戸惑った様子を見せたものの、最後にはしぶしぶといった様子で再び歩き始める。


 とは言え、野次馬を作り出していた元凶。その中心である俺達が、また別の生徒から注目され続けていては埒が明かないので……。



「ごめん、れい……じゃなくて、。このままここに居続けても周りの迷惑になると思うから……、俺達も早く行くよ。

 それと黛さんにだけ嫌な役を押し付けてごめん。でも正直、収集に困ってたから助かったよ。だから、その……。ありがとう。」


「いえ……、これも生徒会長としての務めですから。近隣の住民の迷惑について見過ごせなかっただけです。

 それに、私はそれほど嫌な役だとは思ってませんから。も……、先に行って貰って大丈夫です。では、榎本くん達も始業時間には遅れないように注意して下さいね。」



 そうして、俺はこの場をすぐに離れるという事を麗奈に伝えて、すぐにでもこの場の収集を図ろうとしてたのだが……、内心では麗奈の一連の行動にとても驚いていた。


 なぜなら、少し前の彼女であれば、このような学校外での生徒の行動。例えば、今回のように登校中の生徒達を注意する事など、余程それが酷いものである場合を除いて、そのような行動は殆ど見られなかったからである。


 基本的には他人に関わる事のない……。そもそも関わるつもりの無い彼女は、そういう意味では、世間一般の口うるさい生徒会長との認識からは程遠いはずなのだ。



 しかし、そんな彼女がわざわざ周りの生徒達を注意して、結果的に、俺の事を助けるような行動を取ってくれている。


 それは明確にこれまでとは違う。麗奈からの気遣いを感じられるような気がして、何だか、言葉で言い表せない嬉しさを感じる。



「(これは……、麗奈なりの俺への気遣いって、そんな風に考えてもいいのかな……?

 そんな風に考えたら、俺の思い上がりなのかもしれないけど……、気まずいだけの元彼氏から、友達くらいの立ち位置には戻れたって事になるのかな?この前の屋上での一件もあって、正直、今の俺と麗奈の関係は曖昧で不安定な状況にあるけれども……。)」



 そうしてドタバタと騒がしくも、不安だった三葉先輩と雫の初対面兼一緒に登校を無事?に済ませて、俺達はその後、雫と別れの挨拶を済ませて、再び、それぞれの登校への歩みを進めるのだった。


 だけどーーそれぞれの別れ際、雫が何も言わず、ジッと麗奈の事だけを目で追っていたのは、不思議と俺には印象的な光景に見えてしまったのだった……。

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