話してみて(上坂京香サイド)
私は、昔から教師になるのが夢だった。
だから今は最高に幸せなんだ。
教師になって担当のクラスを持って、自分なりの授業をする。
他の教員がやってない様な授業を。
「上坂せーんせ。今日二人で飲みに行きませんかー」
この人は副担任の前島翔太先生だ。
この人と知り合って一ヶ月程しか経ってないのに十回ほど飲みに誘われている。
そして毎回断る。
今だって私の日本語研究室に誘うためだけにきてる。
だって行きたくないし、この人はなんか信用出来ない感じがする。
「すいません。今日は行きたい場所があって」
嘘ではない。
だって早く家帰りたいし、飲みに行きたくないし。
「そんなに僕と飲みに行くのがやなんですか」
はい、なんて言えないわよね。
「すいません、今日は早く家に帰りたくて。別に嫌だとかそういうのは無いですよ」
大人の余裕みたいでいいかしらね。
よくやったわ、自分!
「そうですかあ!宅のみがしたかったって事なんですね!じゃあ今から行きますか」
よくやってくれたわね、自分。
本気かしら?
本当にウチに入れるの?
本気で嫌なんだけど。
「えっっと、家には今日知り合いが来るので」
やばい。
嘘がミルフィーユ状になってるんだけど!
ダメよ!
この人が家に来るなんて絶対阻止しないと!
「京香先生♪ここ、おーしえて」
研究室のドアを開け生徒が入ってきた。
渉くんか!
なら、
「今日はこの子に勉強を教えるんで忙しいんです!」
突然入ってきた渉くんを無理矢理使っちゃった。
ごめんね、でも察して!
「はい、京香ちゃんに勉強教えてもらう約束してたんで」
京香……ちゃん?
なんで、ちゃん付けで呼ぶの?
「従姉妹なんですよ。ねー、京香ちゃん」
なるほど、そういう事ね。
それなら乗ったわ!
「えぇ、でも学校ではちゃんと「先生」って呼ばないといけないでしょ」
「そういう事なら今日は諦めます。では、また今度飲みに行きましょう」
前島先生はそういうと研究室から出て行った。
私はテキトーに手を振りテキトーに返事した。
ほんと、今は渉くんに感謝しないとね。
「ありがとう、渉くん」
「どういたしまして、京香ちゃん」
「こら、先生って付けなさい」
「なら、「京香先生」でいい?」
まぁそれなら別に先生って呼ばれてるし。
この学校のルールで先生って付けないといけないだけで私はなんと呼ばれても良いんだけど。
「えぇ。それなら良いわよ」
「よしっ!じゃあ今日先生、この部分教えて欲しいんだけど」
この子は優しいし頭も良い。
こうやって聞きにきてるけど多分この子の分からないフリをしてる。
なぜかはわからないけど。
でも、先生なら先生らしく教えるべきよね。
「それは前の文にヒントが書いてあるわよ」
「……」
「どうしたの?」
「僕さ」
吹奏楽部の演奏が聞こえる。
外から陸上部の掛け声が聞こえる。
渉くんの声が聞こえる。
「先生の事が好き」
私は、私の心臓の音しか聞こえなくなった。
止まる事は美しい ダンチ @koutttz
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