第355話 蠢く優生機関
俺は単独でホワイトウルフの群れに突っ込んでいく。
まずはリーダー格のウルフを認識することが重要ではあるが、今の所分からない。相手もかなり狡猾のようで、俺がどれがリーダーか探しているのに気がついているようだ。
次々と襲いかかってくるホワイトウルフたち。
俺は冰剣を使うこなく、
『キャン!』
と、鳴き声が聞こえてくるが、他のホワイトウルフたちは果敢に攻めてくる。どうやら、数匹削ったくらいで引くことはなさそうだった。
「アリアーヌ!
「えぇ!」
「分かったよ!」
「うん!」
そして、三人の魔術が発動する。暴風によって次々とホワイトウルフたちが吹き飛ばされていく。その中で一匹だけ、逃げようとしている個体がいた。
よく見ると、他のホワイトウルフよりも毛並みが良く体も大きい。
「──こいつか」
俺は一気に距離を詰めていくと、リーダー格のホワイトウルフが喉元に噛み付いてくるのをサッと躱してから打撃で吹き飛ばした。
静寂。
残りのホワイトウルフたちは統率を失い、綺麗に散開していく。どうやら、戦闘はスムーズに終えることができたようである。
「レイ。流石ですわね」
「うん!」
「いやぁ、やっぱりレイは凄いね! 僕の記憶にまた素晴らしい1ページが追加されたよっ!」
三人が近寄ってくる最中、俺は一人で思案していた。
このホワイトウルフたち。微かな
普通に考えるならば、これも演習の一環と考えるのが道理。
ただ、この雪という異常気候に加えて、人為的な魔物の操作。何か、大きな意志が後ろで蠢いているような気がした。
去年はグレイ教諭による干渉があった。今年もまた干渉してくるのは、流石にアビーさんが許しはしないだろうが……学院側だって万能ではない。
どんな異常事態にも備えておくべきだろう。
いざとなれば冰剣の力を使うことも辞さない。
ザックに見られることになったとしても、構わない。
仲間の命以上に大切なものなどありはしないのだから。
「レイ。どうかしましたの?」
アリアーヌが心配になったのか、声をかけてくる。エリサとザックも俺のことをじっと見つめていた。
ここでいたずらにみんなを心配させても仕方がないだろう。俺は今回の演習はどこかおかしいかもしれない、という点を胸に留めておく。
「いやなんでもない。戦闘も終わった。今のうちに、先に進んでおこう」
そして俺たちは、さらに先へと進んでいくのだった。
◇
「あらま。一瞬で終わったみたいね」
ビアンカ=ラルフォードは単独でレイの様子を見ていた。厳密に言えば、鳥の視覚を魔術で支配して見ている、というのが正しい。
今回の演習はビアンカたち
既に
現状、世界で唯一、
レイの兄のしてきたことは、
「さて、さて。どれほど力が戻っているのか、試して見ましょうかね。あ……でも、取り巻きを狙ってみるのも面白そうね」
ニヤリとビアンカは笑みを浮かべる。
確実に魔の手は迫りつつあった。
「うーん。貴族の女か、エルフの女か。どっちにしましょうか」
ビアンカの性格を端的に表すならば、残虐非道。ホスキンズ家とも懇意にしているが、全てはただ利用するためである。
ネイト=ホスキンズに過度に干渉しているのも、全てはステラ=ホワイトとの確執を生み出すためである。
常にあらゆる可能性を考慮して種を蒔いておく。それが、ビアンカの手法である。
「うーん。やっぱり、三大貴族が良いかしらね」
じっとアリアーヌのことを見つめる。
アリアーヌ=オルグレンのこともまた既に調べはついている。レイを中心にして起きている魔術革命とも言うべき現象に、アリアーヌもまた絡んでいる。
今後の可能性を考えるならば、ここでアリアーヌを消しておくのも悪くはない。
ビアンカはニヤリと笑って、そう決めた。
「さて、まずは準備からね」
ポケットから紙を取り出すと、器用にそれを人の形に整形していく。その姿はまるでアリアーヌのようだった。
ビアンカの魔術は他者を操作するというものである。
もちろん、無条件に発動できる魔術ではなく、しっかりと一定の条件をクリアしなければならない。
しかし、一度発動してしまえば、かなりの猛威を振るうことになる。今まで、他者を操作することによって幾度となく惨劇を繰り返してきたのだ。
「さぁ〜て。レイ=ホワイトはどんな行動に出るのかしら」
【WEB版】冰剣の魔術師が世界を統べる〜世界最強の魔術師である少年は、魔術学院に入学する〜 御子柴奈々 @mikosibanana210
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