ふたご星

雨月 葵子

ふたご星

 ある時、一つの星が生まれました。でもその星は二つになることにしました。

 それぞれに違う試練を誓い、離ればなれになります。

 一つの星は皆のために光ることを誓い、もう一つの星は遥か遠くまで続く宇宙を知ることを誓いました。


 皆のために光る星は、多くの星にとって親の愛情のように温かく、あたりまえの存在になりました。

 迷子になっても、その星の光をたよりに帰ってくるのです。

 そして皆に愛されました。

 けれども皆のために動けない苦しみがありました。


 宇宙を知るために旅にでた星は、一人であることも気にせず、あっちに行ったり、こっちに行ったり、色んな星とすれ違いました。

 独りぼっちの旅は険しいものでした。

 けれども旅先で得たものは何にも変えられない宝物でした。


 二つの星は元は一つの星だったことを知りません。

 けれども「何かが足りない」と感じていました。違和感を抱きながらも二つの星は生きていきます。


 旅を続ける星は偶然に、一つの星を見つけました。

 とても純粋に光る星を見るのは初めてでした。

 その星の光は遠くからもよく見えるので、目印にして旅を続けました。


 皆に慕われる星は、通り過ぎる一つの星を見つけました。

 なぜかとても気になりました。

 通り過ぎた星は一人で戦っているようです。

 そして、密かに見守ることにしました。


 それから月日は流れて、二つの星はそれぞれ別の星と恋をしました。

 二つの星が成長するために必要なことでした。

 愛とは何かを知るのです。

 相手を大切に想う心、想われる温かさを知りました。


 何よりも光り輝く星が恋をしたのは、気弱な星でした。

 今にも消えてしまいそうな輝きでしたが、その光に惹かれたのでした。

 消えてほしくない、という思いでその星に寄り添いました。

 おかげでその星は少し元気になりました。自然の流れで二つの星は恋をするのでした。

 幸せな思いだけではなく、互いに思う甘い苦しみも知ります。

 自分が苦しむより大切な存在が傷つくことに耐えられず、涙を流しました。


 旅を続ける星が恋をしたのは、いつも楽しいことを考える星でした。

 お祭りやイベントに二つの星は一緒に参加しました。

 一人ではできなかったことをたくさん体験します。

 今まで独りだった星は、新しい世界にドキドキ、ワクワク。とても新鮮でした。

 けれど、今までずっと独りだったので、楽しい星についていけないこともありました。

 二人でいると疲れてしまうのです。


 そのころ、光り輝く星は自信を失くしていました。

 大切な星とすれ違う生活をしていたからです。

 光が弱くなったのを感じた旅する星は、言葉を送りました。

「あなたの光は何よりも美しい」と伝えます。

 メッセージを受け取った星は元気になりました。自分の信じることを大切にしようと心に誓うのでした。


 あるとき、一人で旅を続けていた星は病気になりました。

 旅を続けることができなくなり、ふさぎこんでしまいました。

 その異変にすぐに気づいたのは見守っていた星です。

 早く元気になりますようにと祈りを込めてメッセージを送ります。

「君の言葉が好きなんだ」

 旅を続ける星はきらきらと輝く言葉を落とすことがありました。


 想いと一緒に言葉を受け取った星は、少しずつ旅を再開しました。

 その途中で大きなリンゴの木を見つけました。

 そこで初めて休むことにしました。疲れをずっとため込んでいたので、一度疲れをとり除くことにしたのです。


 休んでいると、今まですれ違ってきた星がお見舞いにやってきました。

 いつもみんなのお願いをきいてきたおかげでした。

 その時、自分は独りではなかったかもしれないと思いました。

 旅は一人でも、大切に思ってくれる星はたくさんいたのです。

 その中でも声をかけ続けたのが皆のために光る星でした。


 二つの星は互いに励まし合うようになりました。

 それぞれの心が、互いに特別な存在だと認識します。

 記憶はなくとも、魂で惹かれ合うのでした。

 友情でもなく、愛でもなく、二つの星の繋がりは星座のようなものでした。

 宇宙にとって、どちらも欠けてはいけない存在になりました。


 気弱な星は突然、皆のために光る星に別れを言いました。

「あなたは私にだけ寄り添っていてはだめになる」

「そんな。僕は君の光が好きなんだ」

 気弱な星は涙を流しながら言います。

「あなたといたら甘えてしまうの。それではだめなの」

「どうしてだめなんだ」

 それ以上、気弱な星は話すことはなく、去っていきました。

 皆のために光る星は、救えなかったと悲しみ、再び自信を失くしました。


 自信を失くした星は黙って厚い雲に隠れてしまいました。

 皆は目印となる光を失い、慌てました。

 迷子になる星があとを絶ちません。

 旅を休んでいた星は、隠れてしまった星を探すことにしました。


 まずは隠れた星を見た星はいないのか聞いて回りました。

 最初に訪ねたのは恥ずかしがり屋な星でした。

 顔を真っ赤にして目を合わせません。

「皆のために光っていた星を見なかった?」

「み、みみみみ見て、ないと、思うわ」

「そうかぁ。もし見かけたら教えてね」

「……」

 恥ずかしがり屋の星は、顔を下に向けたまま、頭をさらに下に向けました。

 頷いたと解釈して、次の星を目指します。


 次に訪ねたのは、いつも怒ってばかりいる星でした。

「ねえ、皆のために光っていた星を見なかった?」

「知らねえよ! 俺は忙しいんだ!」

「怒鳴らなくても聞こえるよ」

「知らねえよ! 俺は悪くない!」

 話しができそうにありませんでした。

 諦めて次の星を目指します。


 次に訪ねたのはしっかり者な星です。

「もし、皆のために光っていた星を知らない?」

「残念ながら知らないけれど、彼はそう遠くには行ってないと思うよ」

「なぜ?」

「彼は今まで移動したことがないからさ! 初めてで遠くまで行く勇気はないと思うよ」

「そうかもしれない。ありがとう」

 意外と近くにいるのかもしれないとアドバイスをもらいました。

 皆のために光っていた星がいた場所から探すことにしました。


 皆のために光っていた星がいた場所までやってきました。

 そこには涙のかけらが落ちていました。

「一人で苦しんでいたんだね」

 ぽつりとつぶやきがこぼれました。

「ん? 涙のかけらが道のように落ちている! これを辿れば会えるかもしれない」

 涙のかけらを拾い集めながら辿ることにしました。


 涙のかけらを拾いならが進むと月に出会いました。

「月さん、こんにちは! 皆のために光っていた星を見ませんでしたか?」

「こんにちは。彼なら先日ここを通って行ったよ」

「本当! 教えてくれてありがとうございます」

「それにしても、彼の涙は綺麗ね」

「そうですね。彼の心が綺麗だからだと思います」

 涙のかけらに光が当たると七色に輝きました。

 こんな綺麗な涙は見たことがありませんでした。


 涙のかけらを拾っていくと大きいな雲にたどり着きました。

 ここに隠れているのかもしれないと思い、大きな声で呼びました。

「ここに隠れているのはだーれ!」

 声の振動で雲が半分に分かれました。分かれた雲の隙間には隠れていた星が出てきました。

「やっと見つけた」

「見つけられちゃった」

 二つの星は初めて対面しました。


「どうして僕を探したの? 僕なんて何もできない。星ひとつも救えない」

「そんなことない。あなたの光がなくなって、みんな困っているよ」

 自分の役割を知っているはずなのに、皆のために光る星は素直になれません。

「あなたはどうしたいの?」

「僕は、彼女に伝えたい心があるんだ」

「なら今から伝えに行こう!」

「ええ! そんなことできないよ」

 縮こまってしまう星を一生懸命に背中を押します。

「伝えたいときに、伝えたい気持ちを言わなきゃ嘘になるよ!」

 そうして二つの星は気弱な星を探す旅に出ます。


「気弱な星がどこにいるか分かる?」

「うん。きっとあの丘にいるはず」

 二つの星はひまわりが咲き誇る丘にやってきました。

 そこには気弱な星がいました。

 気弱な星はひまわりに水を撒いているところでした。


 気弱な星は言います。

「何をしにきたの?」

「君に伝えたいことがあるんだ。」

「私は、ここでひまわりを見守らないといけない」

「それでもいい。僕は君と一緒ならどこでもいいんだ」

「あなたはみんなのために光らないといけない」

「だから、僕が光るなら君の隣がいいんだ」

 気弱な星は俯いてしまいます。

「僕は君と幸せになりたいんだ」

 皆のために光る星はそういうと、気弱な星を抱きしめました。


「よかったね」

 付き添っていた旅する星はそっと、その場を離れました。

「寄り添う星、流星となりてもどこまでも」

 言葉を残して、もう会うことのない別れを告げました。


 旅に戻った星はさらに遠くまで行きました。

 楽しい星と一緒に宇宙の果てまで続けました。

 どれだけの月日が流れたかも分からないほど旅を続けました。

 旅の途中で楽しい星は死んでしまいます。

「さよなら、私もあとどれだけ生きられるだろうね」

 一人になるのは久しぶりでした。

 一人分の寂しさを背負って旅を続けます。


 旅を続ける星も息が絶えそうでした。

「ああ、ここまでか」

 たどり着いたのは天の川でした。

 涙のかけらが川のように光り輝いています。

「涙。そうか、この川から私たちは生まれてきたんだ。戻ってきたんだ」

 天の川は星たちの母でした。

「ただいま」

 これが最後の言葉となりました。


「おはよう」

 気がつくと、目の前には皆のために光る星がいました。

「そうか。あなたも死んでいたんだね」

「うん。君よりずっと前にね」

「ああ、思い出したよ。私たちは一つの星だった」

「そうだよ」

 天の川で再会した二つの星は記憶を取り戻していました。

「君をずっと待っていたんだ。僕たちは一つの星。一つの星に戻ろう」

「うん」

 二つの星は抱きしめ合いながら一つの大きな光となって消えました。

 二つの星は一つになりました。

 母なる天の川は一つとなった星を大事そうに包み込みました。

「おいで、愛する我が子よ」



「ただいま」

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ふたご星 雨月 葵子 @aiko_ugetsu

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