第2話 ピンクのスライムは頭がいい



ワタクシめの一日は、起床時必ず各地てんでに存在する同個体からの報告を受信し選別を行い我が主に伝達する仕事から始まります。

この城の中で、新たな主と直に話をした最初の魔物種はワタクシ、ピンク個体のスライムで御座います。他色のスライムとは少し違い記憶力、伝達能力に長けているという特殊ステータスを持っているため数が少ないのです。それもありワタクシ達は各地に散らばり近辺の変化や変動についての交信を行って参りました。その能力を新たな魔王様の側近様に見出され現在の仕事を戴いている訳にございます。城勤めのため頂戴したのが「ピース」という固有名称。有り難き幸せ、とぺちょりと頭を下げた時には側近様が。


「おっけー、頭はそこなのな」


と軽い感じで仰って下さりました。なんとスライムジョークの通じる博識な側近様でワタクシめはとても感動致しました。

話が逸れましたな。本日の伝達業務の話題に戻しましょう。


「側近様、お早う御座います」

「お、この時間から来るとはちと報告多めか?」


ぺちょりと頷けば、側近様は2度3度頷いて、じゃ聞こうか。とワタクシを抱き上げて下さいます。報告の際に用意された特等席があるのです。それが執務室の机の隅に置かれた敷物。側近様が業務を行いながらワタクシの話に耳を傾けられるちょうど良い場所なのです。お恥ずかしい話ではありますがワタクシはあまり高いところまで登れる腕力、いえスライムとしてのスタミナがありません。なのでこうして抱き上げられ、ぽちょりと敷物に下ろして頂くという手間をかけてしまうのです。


「いつもありがとうございます」

「いんやー、お前が居なきゃ伝達業務が滞る。何より淫欲の効能が薄いお前らスライムのピンク個体でなけりゃ執務室までに色狂いでバイオハザード案件だからな」


助かってるんだぜ?と人懐こい笑みを浮かべ、側近様、カンタ様は、今日もよろしく頼むわ。とも続け、登り始めたばかりの朝日を背に浴びながら朝餉に手をつけ始められます。

いつものやり取りでは御座いますが、掛けられるお言葉につい涙、いえ自身の液体が溶けだしそうになってしまいます。その気持ちを伝えた何時ぞやか、食事の手を止められぱちょぱちょとワタクシの頭部を揺らし、にっかりと快活に微笑まれたのを覚えております。その様なことを思い起こしつつ本日最初の報告するためワタクシは口、いえ伝達可能な部位をぷるぷる小刻みに震わせ始めたのです。



ピースという名前は、ピンクのスライムを捩りつけたものだ。

捻りはないがわかりやすくもある。この城のピンクのスライムはピースだけだからだ。


魔王を殺した俺達に要されたのは、帰る場所だった。

だが、異世界転移した俺は当然ながら、そしてルカの生まれた研究所に戻るのも得策では無いのは明らかで。更には彼の体質能力が災いして城の外に出れば発情したモンスター共の餌食になる。

丸一日2人して途方に暮れながら城の中を探索していれば、魔王の執務室と地下の研究楼を発見するという収穫があった。

ルカの解読によれば、新化族に関する研究を魔王独自に行っていたらしい。資料を読み進める内にルカは涙を零し始め、最後には悲鳴にも似た声を上げ泣き崩れた。


魔王は、妖精族にされた妻を取り戻さんと動いていたのだ。


研究楼はとても小さく、まるで独房の様な狭さで、様々な鉱石が転がり、調合薬は整頓されていた。ルカ曰く、どれも魔術で使われる魔鉱石と呼ばれる宝石で、調合薬は術式を組む際に使われる薬品ばかりなのだと言う。

一番多く積まれている魔鉱石に触れた彼はほろほろと涙を落としながら、一際涙を零し、嗚呼、と言葉を作った。


「ボクの居た研究所にも、コレが在ったよ」


触れてはならない、ときつく言われて居たらしい。が、その鉱石の正体は魔王の研究資料に答えが出ていた。

新化族特有の体臭である淫欲香の原因、種族の血に含まれる淫魔力を微量ながら緩和させる魔力を持つ石。研磨し光度を上げれば、その琥珀色を陽の光に当てれば黄金の稲穂を思わせる輝きを放つ。そして純度が上がり余分な物が取り除かれることにより魔力も増す。正しく魔王の呟いた、「至高の宝」だった。

それが、人間達が殺せと声高に詰っていた存在の見つけた、希望の光。一つだけ机に磨かれ美しい姿となった琥珀色の宝石を手に取り松明の灯火に翳せば、激昂したあのルカの眼色を思い出し背筋が凍った。


「あの。」


第三者の声が、研究楼に響いた。落ち着いてる声色だが、ルカでも俺のものでも無い。しかし、モンスターならばこの範囲であれば既に様子が可笑しい筈。その様子もない。声は、机の裏からだった。

ぴちょ、ぴちょ、と音を立てながら石畳の床を這いずる者が姿を現せば、それはピンクで半透明のスライムと呼べそうな生き物だった。やけに弱々しい感じで出てきて俺達は警戒する事も忘れて顔を見合わせた。



「・・・貴方様方が、新たな魔王様ですか」



ピンクのスライムはどうも魔王が死する時に記憶が1度リセットされてしまうらしい。ピースが魔王の研究にどれほど貢献していたのか、それは研究資料にも記されてはいなかった。

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佐久間 寛太は成人である。 崎岸ささき @sakashita008

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