皇女の涙に感じた事 下
「ロイド…説明が必要か?」
「察しはつくが、訊きたいな…」
ロイドの言葉に小さく笑みを見せ、視線をロイドからセナスティへと向ける。
「セナスティ…。お前は間違っている…」
「え?」
エルソアの言葉に目を見開いたセナスティ。
「…お前の父親の椅子?…なにを勘違いしている。この椅子は、我々、サムアル一族の椅子であり、略奪者の家系、エナ一族の椅子ではないのだ…」
「え?どう…言う事?」
セナスティの言葉にロイドが進み出し、再び肩を抱いた。
「どう言う事?今から200年以上前に、お前たちエナ一族が、我がサムアル一族から王族の座を奪い、そして、王族になった。」
「奪った?」
ロイドが声を出す。
「あぁ~そうだ」
「いや…まて、話が違うぞ。書物では…」
「そうだロイド。書物ではこう書かれてある。『サヌアル』一族の王政に反抗を示した一部の皇族が、アルフェルスに領地を構える、若くて勇敢なナセラナ・エナを筆頭にして戦を行ったと…。確かに、ナセラナ・エナは軍師にして、勇猛果敢な戦士であったようだな…。その者に玉座を奪われた我が一族は、時間を掛け、苗字を変え、歴史から消えて…。今に至っている。」
「だが、あの時の王政のやり方では…。」
「あぁ~、確かにな…。反省すべきは先祖の考えである…。人民に対しての過剰なまでの課税に迫害…。人間至上主義の考えは、その時からあったようだがな…」
「なら、反抗されても…」
「過去の話しだ、ロイド。私が、その思想を持っていると誰が言える?」
「なら…、あなたは…玉座を狙っていたのですか?」
クラウトの言葉に視線を向けた。
「狙っていると言う言葉は適切ではない。時期が来たのだよ…。祖先の悪しき考えや思想は、私にはない。私は、国の運営や国の未来を…考え、学び、そして、この国の発展の為に計画を練った。」
「計画を練った?」
クラウトが訊く。
「そうだ…。小さな島国で、刻々と変化をする世界に対抗するには、エナ一族では力が不足している。マモノとの共存…、争いの無い世界…、他国との親交に友好…。すべては夢物語だ…。いずれ、この国にある資源を求めて、海を隔てた国が攻めてくる。その時に必要なのは、優しさではない。強力な王が必要なのだ!我が一族は、家名を無くする事で償われ、時を経て、この場に立ち、新たなる時代に、この国を導く…。『サヌアル』ではなく…、『サムアル』一族として…、持つべきものに返す時…。いや…返してもらう時期が来た…と言う事だ。」
「この人間至上主義の考えは、あなたが首謀したのですか?」
「首謀?」
クラウトの言葉に目を細めて小さく笑う。
「ふふふ…。アルゼストとセルゼットの行動は、私も予想外だったが…。予想以上に踊ってくれた」
「踊ったって…」
セナスティがロイドから離れる。
「彼らは?」
「彼ら?…そこだ…」
その言葉に振り返ったロイドとセナスティ。
すぐさまにロイドが動き、窓辺にあるテーブルに乗せてある布をはぎ取ると、そこには、虫の湧いている顔が3つ並んでおり、今までかすかだった異臭が強烈に襲って来た。
口と鼻を腕で塞いだロイドの視界に、血色が無く、口と目が半開きになっている腐ったセラスナルの顔が入って来た。
ロイドの後ろで見ていたセナスティが、口を押さえて、膝から崩れ落ちるのに気付いたシスティナが駆け寄り、ロイドは振り返り2人を見てからエルソアへと視線を向けた。
「王妃も…お前が…」
その言葉に目を見開いたセナスティ。
「お…かあさま…」
「まぁ~、そうだな。彼女はいい女だったが…邪魔な存在だ。私にはセナスティさえいればいいと思っていた。その…」
「ロイド兄さん!お母さまって…、お母さまがどうかしたの?」
セナスティが立ち上がりロイドに詰め寄り、その肩を抱いたシスティナの手には、セナスティの痛みを伴った震えを感じ、思わず力を込めた。
「…すまなかった…セナスティ…。おれが守れなかった…。お前の母さんは…、自ら命を…」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
ロイドの言葉を最後まで聞かずに、叫んで崩れたセナスティは、システィナへと体を預けるように倒れ、同時に、床に座り込んだシスティナを見たアサトが動いた。
「お前が悪いんだ、セナスティ…。お前が…私の息子と婚姻を結んでいれば、もう少しは長く、エナやスティアス、セラスナルと一緒にいれたものを…」
「どう言う事だ?」
ロイドが目に力を入れてエルソアを見た。
「どう言う事?…それは、セナスティが、私の息子との婚約を破棄したからだ。」
セナスティは、エルソアの言葉を聞きながら小さく震え、抱きしめているシスティナの腕にしがみついており、その様子を見ながら進み出しているアサトは、台に乗せられている、腐っているアルゼストとセルゼット、セラスナルの首を見てからセナスティらへと視線を移した。
セナスティを抱いているシスティナが、目を潤ませながらアサトを見上げている。
「アサト君…わたし…どうしたのかしら…。セナスティさんの痛みが…体に入って来る……。この痛さは…つらい……。この感情は……。」
悲痛な表情のシスティナを見たアサトは、太刀の柄に手を乗せた。
…なんだ、この感覚は…。これって……。
胸だろうか、頭だろうか…とにかく、ごちゃごちゃになった何かが、アサトの体を駆け巡っている感じを覚えたアサト……。
その向こうにいるケイティらは、武器を手にして事の成り行きを見ており、その様子を見たアサトは、必死に寄り添っているシスティナを見てから、システィナの腕の中で震えているセナスティへと視線を向けた。
…なんだ、やっぱり変だ。この感情は……。
システィナがどんな痛みを受け取っているのかはわからないが、アサトには、別の感情が湧き上がっていた。
その感情は……。
玉座前のエルソアは、眉間に皺を寄せ、システィナの腕の中で震えているセナスティへと声を張り上げた。
「わたしの計画はこうだった…。お前が私の息子…、エルミアと婚姻を結んで、そ…」
「違うよ、父さん…」
エルソアの言葉を遮るように発しながら、黒髪の青年が、赤いマントをなびかせて、数人の兵士と謁見の間へと入って来た。
その声に視線を変えたアサトら一同とエルソアにクレミア。
すると、エルソアが目を見開き、クレミアが小さく一歩を踏み出した。
そこにいたのは……。
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