第15話 だから…あなた達を、狩る! 上

 「エ…エルミア…」

 「バカな!」

 エルソアが目を見開いて呟くように言葉にしている傍で、クレミアが声を張り上げて前に出て来た。

 「確かに殺したはず…。なぜ…」

 エルミアはクラウトらの間を抜けて、赤い絨毯の上を進み、エルソアの前に立った。

 玉座前には、黒い巨漢の2体。

 デスベアとナンバー4が鎮座しており、その周りにも黒いモノと黒い姿の兵士、そして、ピノにキノクニエが事の成り行きを見ていた。


 「確かに義兄貴あにきには、あの時、刺されて海に落ちた…」


 クレミアは思い出していた。

 結婚を破断されたエルミアが、父親の軍に対して拒否を見せ、その事を相談されたクレミアが、エルミアの処刑を申し出て、この王都の北西にある岩場で、彼の胸に剣を突き刺した事を…。

 だが、あの時に海に逃げたエルミアだったが、数時間かけて船を出して捜索したが、見つからなかった事で死んだものと判断をしたのである。


 「お前!」

 エルソアがクレミアへと声を荒げる。

 「…確かに、海に落ちた。胸に突き刺した剣の血だって、他の奴らが…」

 「もう…どうでもいい!」


 エルソアは、目の前にいる実の息子エルミアを見た。

 「確かに、俺はあの時に刺されたよ。でも…助けてもらったんだ…。この…」

 「おや…じ?」

 エルミアの後ろから太めの男が進み出て、腐った首の方向へと進み出した。

 その様子を一同が見ている。

 「…なんで…。」


 「彼は、セルゼット氏のご子息、オルベルク…。幼馴染だ…。彼に助けられた…。この事態に憤りを持った彼の説得で、この国まで来たんだ。彼が親父と話すと言って…、最悪、父親を…、父さんがやったのか?」

 エルミアの言葉に目を細めたエルソア。

 「…どうして…」

 「どうしてもこうしても、あの女が黙ってお前とけっ…」

 「だから違うんだ!婚約を破棄したのは俺なんだ!」


 エルミアの声が謁見の間に響き、セナスティが、息を整えながら、システィナの腕から体を動かした。

 「ありがとうシスティナさん…わたしは、大丈夫…」

 ゆっくりとシスティナが支えられて立ち上がったセナスティ。

 その様子を見たエルミアが小さく俯く…。


 「ごめん…セナスティ…、僕が弱かったから…」

 エルミアの言葉に目を細めたアサトは、エルミアを見てからセナスティを見た。

 セナスティは、大粒の涙を見せながらシスティナに寄りかかっている。

 アサトの傍に、ドレスの裾を切り、短くした姿のアリッサが防具を付け、盾と剣を手にして就いた。

 クラウトの傍にはセラがおり、タイロンとジェンスが並び、その前には、目を血走らせているケイティがいて、メルディスとポアレアがロジアンとロスを守っている。

 その傍では、ニヤニヤしながらクレアとライザが装備を整え終え、キエフが大きく深呼吸をしている傍で、グラディウスらが、謁見の間の扉の向こうに押し寄せている、黒いモノらと黒い兵士を見ていた。


 「…僕が弱くて…。君を守りたかった…」

 「なにをバカの事を…、お前の想いは、はまやかしだ!小さい頃から教えていただろう。この国は、我が家の名を付けた国にして、世界と対等に戦うと!」

 アサトはエルソアへと視線を向けた。

 「黙ってこの女と結婚をしていれば、こんな事を企てなくても良かったものを…。お前は黙って、その時が来るのを待っていれば、お前はいま…」

 「バカな事を言っているのは父さんじゃないか!」

 エルミアの言葉に目を細くするエルソア。


 「…父さんの話しは、子供のころから聞いていた。計画も…知っていた。そうなる事に、子供のころから、僕は抵抗があったけど、かあさんが喜んでくれるなら…と思っていた…。そんなかあさんが死んで、僕は…思ったんだ。本当にそれは…ダメだって…。出来ないって…。やっちゃいけないんだって…。それなのに…あの軍を見た時に、現実を見た気になった…。どこまで付き合えばいいのかわからない…。僕は、僕を利用して、人が死ぬことが怖くなった…。でも…。一つだけ…、計画とはいえ、セナスティと合わせてくれた父さんや母さんには感謝している。僕は、心から人を愛し、守りたいと思えた…。その人…セナスティに合わせてくれた事…。」

 エルミアの言葉を聞きながら、アサトはシスティナの横を通り、玉座前で会話をしているエルミアとエルソアへと進み、アリッサが、システィナの傍に立った。

 その姿を見ているシスティナの目には、涙が浮かんでいる。


 眉間に皺を寄せて、怒鳴りだしたエルソア。

 「愛だなんて…まやかしだ。我々に必要なのは、名を残す事だ。お前の爺さんも言っていただろう。祖先の恨みは、王位の奪還。そして…、名をこれから後々に受け継ぐこと…」

 「聞いていた…」

 「なら黙って…」

 エルミアは、エルソアの怒号に負けないような声を張り上げた。

 「黙って、愛している人が、殺される所を見ていろって言うのか!」

 「あぁ~、そうだ!それでこそ我が家系に代々受け継がれてきた信念であり、家訓なのだ!女なんて、子供を産むだけの動物で、女はセナスティだけでないんだ!」

 その言葉にアリッサが目エルソアへと厳しい視線を送り、アサトは小さく顎を引いた。

 「大事なのは、この国の王位に、我が一族が即位し、名を『サムアル』王国と変名して、統治し、次は…世界を…」


 「もういいです…」


 アサトの声が、謁見の間に響き渡り、その言葉に口を噤んだエルソアは、アサトへと視線を向け、一同もアサトを見た。

 アサトは振り返り、システィナに抱えられているセナスティを見てから、エルソアへと視線を向けた。


 「僕は、クラウトさんのように賢い訳じゃありません。だから家訓とか家系とか…何が大事で、何が大事で無いかなんてわかりません・・・でも・・・」

 「なら…口をはさむな!」


 「いえ…、あなたがさっき言った言葉には、さすがに不適切な言葉が混じっていた…。まぁ~、それは、僕らがここに来た理由にはなっていないから…。でも、あなたの考えは、どうも……、僕はイヤです。ここが…もやもやします…」

 胸の辺りを擦って見せたアサト。

 「イヤ?」

 「はい…。なんか…。とりあえず、僕らがここに来たのは、今の王の話しを聞きに来たのです。」

 「話?」

 眉を上げて、見下ろしたエルソア。


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