第14話 皇女の涙に感じた事 上

 「セナスティ!」


 謁見の間には、宮殿衣装をまとった男が、遠くに見える玉座手前で、両手を広げている姿があった。

 ひっそりと静まり返っている謁見の間には、彼以外の姿は見受けられない。


 「エ…エルソア?」

 セナスティの声が王の間に響き渡った。


 優しい風が謁見の間へと注いでおり、レースのカーテンがゆっくり揺れている。

 謁見の間には、エルソアの他に、数人の王国兵士らしかおらず、辺りはひっそりとしていた。


 「なぜ…あなたが?」

 「よかった。数分前にクーデターを鎮圧した!」

 彼の言葉にロイドの目が細くなり、クラウトが眉間に皺を寄せてメガネのブリッジをあげた。


 「…鎮圧…って…」

 アサトは謁見の間を見渡すと、ジェンスの向こうに、入って来た扉の壁側に積まれた黒いモノの亡骸と、神官であろう女性の亡骸が、積まれているのが見えた。

 「あれ…」

 その言葉に視線を向けたタイロン。

 「…あれは…」


 ロイドは辺りを見渡しながら進み出し、エルソアの傍まで進んだ後方で、クラウトは辺りを見渡しており、何が起きているのかわからない表情で、一同が謁見の間を見渡していた。


 「ビッグベア…、よくセナスティをここまで連れてきてくれた」

 ビッグベアは、表情を変えずにエルソアを見ており、その後方ではアサトらが箱を降ろしている。

 「鎮圧したって本当?」

 セナスティの言葉に小さな笑みを見せた。

 「あぁ~、それが証拠に、ここにいた謎の軍の者らを…」

 視線をアサトが見ていた方向へと向け、一同も視線を向けた。

 積まれている亡骸は、確かに黒いモノの遺体であり、他にも見た事の無い衣装を着ている女性の遺体が積まれている。

 「彼らの計画は、君を、この玉座まで連れてきて…」

 「彼ら?」

 ロイドが兜を取り、その顔を見たエルソアは目を見開いた。


 「…ロ…ロイドか……、お前はどこに居たんだ。この鎮圧には、お前の助けが…」

 エルソアの言葉を聞いているアサトの傍に、ケイティが近寄って来た。


 「アサト…おかしい…」

 その言葉にケイティを見ると、ケイティは積まれた遺体を見ている。

 「おかしい?」

 「うん…黒いやつらの額にある刻印が消えてないし…。傷も見えない…」

 「え?どういう事?」

 「頭を攻撃しなきゃ、あいつらは止まらないはずだけど…。その痕跡がみえない」

 「影になっているんじゃないの?」

 「……」

 アサトの言葉に表情を強張らせたケイティ。


 「それにしては…、ここに居る兵士らの行動がおかしくないですか?」

 クラウトの言葉に、周りにいた兵士長らを見ると、キョトンとした表情でエルソアを見ていた。

 「まぁ~、この表情から言っても、この状況に戸惑っている…と言う、わからない表情だな…」

 ロイドの言葉に兵士長がエルソアを見た。


 「将軍たちは……」

 その言葉に小さく笑みを浮かべる。

 「抵抗したので首を刎ねた。君たちのクーデターは終わったのだ…」

 エルソアの言葉に、愕然とした表情になり、膝から崩れる兵士長。

 「…なら…」

 「あとは女王であるセナスティが…」

 「え?」

 エルソアの言葉に、目を見開いたセナスティが進み出る。


 「まって…どう言う事?セラスナルは?弟が…」

 「殺されたよ…」

 エルソアの言葉に口を押さえたセナスティ。

 その様子を見ていたクラウトが、そばにいるアリッサに耳打ちをし、その言葉に小さく頷くと後方へと進み出す。


 「女王って…」

 「ムリも無い。不測の事態を考えて、摂政だったオルテア様とわたしとで、女系王族の後継を申し立て、承認を得ている。父親であるスティアスも了承をしていた」

 「…どうして…」

 セナスティの肩を抱いたロイド。


 「お前の話しは、府に落ちないが…。なら、セナスティを玉座に?」

 「当たり前だろう!正当な王の後継者だから…」

 エルソアは小さな笑みを見せた。


 その表情を見ているクラウトが言葉を出す。

 「皇女を女王と認めているのですね…。その言葉には偽りは無い…のですね?」

 鋭い視線を送るクラウト。

 「当たり前じゃないか…。彼女を…」

 エルソアの言葉を遮って、クラウトが言葉を並べる。

 「女王にする…、なら、城の周りにいる者らは…、あなたが招集したモノではないと言うことですね?」

 クラウトを見たエルソアは、謁見の間から見える外へと視線を移した。

 そこは西を向いている窓で、その場からも距離があり、平原の状況は分からない。


 「さぁ~、アルゼストかセルゼットの軍ではないか?」

 「そうですか…」

 メガネのブリッジを上げて答えたクラウトの言葉に、視線をむけたエルソアに、厳しい表情で言葉を発した。


 「まぁ、それなら、彼らの誰かに問いただせばいいだけですが…、そう言えば…あの軍を率いているのは、クレミアと言うモノらしいです。彼を捕まえて問いただせば、おのずと答えが出てくる…」

 「…」

 小さく顎を引いて、メガネのブリッジを上げたクラウトを、黙って見ているエルソア。


 「そうだな…、それで、王を殺した張本人も分かると言う事だな……」

 「ロイド、何が言いたい…、もしかして、私を疑っているのでは?」

 エルソアの視線が、クラウトの言葉を肯定したロイドに向けられ、目を細めて見ているロイドは、クラウト同様に小さく顎を引いて見せた。


 「府に落ちない事は沢山あります。ここに進んで来ている内に、ここから誰一人、クーデターが終わった事を知らせに、外へ向かった者の姿を、少なくとも、私は確認していない…。増してや…、そこに積まれている遺体の数に対して、この広間にいる兵士らは…。」

 広間に居る。シダの紋章が入っている防具を着込んでいる兵士は、アサトらを引率して来た兵士長と、他10名。

 「…どう考えても、あなたが一人で、あの者らを殺し、積んだ…としか、考えられない…。」

 クラウトが、積まれている遺体へと指をさしている傍で、アリッサの言葉を聞いたアサトらは箱を開け、壺を取りだし、武器に手に取り、配り始めていた。

 エルソアの表情が厳しくなる。


 「それは…今さっき……。やはり私が…、首謀者では無いかと思っているのか?」

 「いや…。そう断言する事はできません…。証拠が無い…ただ…。この状況があまりにも…」

 クラウトの言葉にエルソアは小さく息を吐き、言葉を遮るように声を張り上げた。

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