さぁ~、王に会おう… 下

 兵士とクラウトの会話を聞いていたアサトは、傍にいたケイティが目に留まった。

 その表情は、険しく眉間に皺を寄せている表情である。

 「ケイティ?」

 「…あいつだ…」

 アサトの問いに、唇を噛みしめたケイティ。


 クラウトの指示で、馬車から荷物を出してから、セラ、セナスティ、ビッグベアの順で馬車から降りて来ると、一同が配置についた。

 「皇女様の手錠を外した方が…」

 前手で手錠をしているセナスティを見た兵士長が、言葉をかけるが、ロイドが首を横に振った。

 「どんな経緯があるにせよ、この者はお尋ね者だから、このままでいい」

 「だが…犯罪者では…」

 「お前はどちらの方につくんだ?」

 ロイドの言葉に息を呑んだ兵士長は、そばにいた者らを一度見てから、ロイドへと視線を向けた。


 「こちらだ、私が案内をする!」

 その言葉に目を細めたロイド。

 兜の前を閉じているので、目だけしか見えないが、その表情は目の細さで分かった。


 言われるがままに進むアサトらは、城に入る。

 まずは、広いエントランスが迎えた。

 大きさは家が一軒入るかのように広く、中央には大きな階段が緩やかな傾斜で上へと延びており、その階段には金色の淵を持つ赤い絨毯が敷かれ、エントランス中央には、幅のある階段が見えた。

 階段下には、大きな鉢に花が生けられているのが見え、ガス灯が煌々と燃やされおり、3階までの吹き抜けで明るい場所であった。


 大きな硝子細工で施された窓が、壁いっぱいにあるのも分かり、そのエントランスの向こうにも通路が見え、向こうにも何かの建物も確認できたが、その建物が何であるかは、見当がつかなかった。


 エントランスから延びる通路が左右にあり、奥にも確認でき、扉も数個確認が出来た。

 辺りを観察しながら、アサトらは幅のある階段を登る。

 箱を持つアサトの向かいにいるジェンスは、眉間に皺を寄せており、その表情が、何を言いたいのかは分かった。


 …たしかに重い…。


 縦120センチ、横80センチ、高さも100センチはある箱を持っているアサトとジェンスは、箱の大きさと重さに階段を登るのがやっとであった。

 「組み合わせ…おかしくないか?」

 ジェンスが言葉にする。

 アサトは前を登るメルディスとポアレアを見てから、登って来るタイロンとキエフを見た。

 「確かに…」

 「なぁ~?あいつらは軽々持っているのは、それだけ力があるって事だ。背も高いしな…。おれとお前は、あいつらよりも頭1つ以上は小さく、腕の太さだって半分くらいしかないだろう?おかしいだろう」

 「まぁ~、言われてみれば…」

 「…ったく、あのクソ眼鏡!」


 …おいおい…。


 ジェンスの愚痴を吐き、聞きながら登り切ったアサトとジェンスは、左側にある通路へと進む道すがら、外の風景が見え、遠くに行進してくる黒いモノの軍が、王都の壁の前に並び始めており、小さく見える軍と思わしき塊が、3つほど黒く見えていた。


 …あれが、ジア・ドゥの軍とセナスティの軍…そして…謎の軍で、黒いモノの軍が、やっぱり敵か…。


 ジェンスも見ている姿が、アサトの視界にも入ってきていたが、急に折れた通路のせいで、窓はアサトの背中側になった。

 チラチラ見ているジェンスが見えていると、ジェンスの後ろに中庭が見えて来た。

 そこは、冬の準備が木々にされており、色々な者にも雪よけ用の木材が張り廻らかされていた。

 進む通路の先には、謁見の間であるはずであり、もう少しだろうと思っていた時に、先を進んでいたメルディスらが止まった。

 その先へと視線を送ると、作りの良い大きめの扉が見えて来た。

 謁見の間である。


 …さぁ~、王様に会おう…。


 ---王都を覗む丘では---


 「ほう…」

 ミュムは地面に立ち、王都、キングス・ルフェルスを取り囲む、高い壁の前に並びかけている黒いモノの軍の姿を見た。

 「凄い数ですね…」

 カムリが妹のサリと共に現れ、オークのイィ・ドゥらも、その光景を見ていた。


 「うん…ざっと…60000位はいるかな…それに…国王軍か…。戦うとしても…」

 何かに気付いたミュムは、視線を左側に向けると、そこには、白いマントをつけている者を先頭に、丘を登って来る兵士とマモノの姿が見えた。


 「あれは…。皇女の軍か…」

 「皇女様?」

 人形を抱いているサリが訊いて来たので、笑みを見せながら答えた。

 「うん…それに…」

 サリの向こうにも、青い防具に身を固めた兵士らの姿が見えた。


 「あれが…」

 その軍の手前で女性が手を振っているのが見えた。

 「ロイドさんの軍ね…」


 「ロイド?」

 再び、訊いて来たサリを見たミュムは、大きく笑みを見せた。

 「君たちだけではないんだ、前の王が亡くなってから、たまりにたまった者らが集結している。」

 「そうなんだ…」

 カムリはミュムの言葉を聞きながら、集まり始めている軍を見渡した。


 「あれも?」

 カムリが何かに気付き、西の方角へと指をさしてみせると、そこには少数だが赤いマントと防具を着込んでいる兵士らの姿が見えた。

 「…会えたみたいだね。そう彼らも…、…だと思う」

 ミュムは言葉を発すると、背中から靄の翼を広げると羽ばたかせて飛び、上空を旋回し始めた。

 それに気付いたキャンディが手を振っており、東側にいるジュディスも手を振って見せていた。

 そして西側にいるウルドとラニアも大きく手を振っており、その姿を確認したミュムはゆっくりとカムリの近くに降り立った。


 「4つの軍で…。20000かな…。あれを相手にするには、ちょっと手数が少ないな…。僕がいてもどうかな?って感じだね…」

 心配そうな表情で見ているサリに気付くミュムは、大きな笑みを見せた。


 「大丈夫だよ。城の中に行った者達を信じよう…」

 その言葉にミュムから王都へと視線を向けたサリと、その肩を抱いたカムリの姿がそこにあった。


 …再び、城内…


 謁見の間の扉前に立ったロイドは、後方を見ると、クラウトがメガネのブリッジを上げ、セナスティが小さく顎を引き、アサトはしっかりと顔を隠しているが、兜の奥に見えるロイドの視線を見た。

 アサトらの周りには、王国兵士が兵士長を先頭に10名ほど囲んでおり、ロイドは、兵士長に合図を送ると重々しく扉が開き、中に入り始めたアサトら一行の視界に入って来たのは……。


 「え?」

 思わず声に出したアサトであった……。

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