さぁ~、王に会おう… 中

 「直接とは?さぞかし珍しいモノとかか?」

 「まぁ~、そうですね。聞いたところによれば。それは…。とにかく、あなたにどうしても直接、渡したいと言う事で、ほかの者が介入する事があれば、その者らを逃がし、貿易も何もなく…。この国を攻めると言う事です」

 「攻める…とは、乱暴だな…。」

 「まぁ~、それだけ実権を持っていると言いたいのでしょうが…、」

 「それで、なにをわたしに?その者とか、逃がすとか…。さぞかし…」

 唾を飲み込んだドミニクは、男の様子を伺いながら重く言葉にした。


 「皇女とビッグベア、それに…召喚士と言う事です。」

 ドミニクの言葉に降り返った男は、目を細めた。

 「…やはり…、死んではいなかったか…。その者が本当に皇女なのかどうか、イマイチ信じがたい話だが…。」

 「えぇ~、私も、そう思います。その事を踏まえて、何かの策略があるのでないかと思いますが…」

 「それで、お前はどう考える。」

 男の言葉に、ドミニクは目を細めて考えた。


 「嘘でも真でも、この謁見の間に入れてしまえば、どうにでもできるかと…」

 「…」

 振り返った男は、先ほど見ていた物へと視線を移した。


 「…時期的に限界だな。異臭がしてきている。…ちょうどいい、ここらではっきりさせよう。通せ!」

 男の言葉に小さく頭を下げたドミニクは、謁見の間から静かに出て行った。


 扉が閉まる音と共に、視線を小さく動かした男。

 「お前は、もしもの事態を想定して、例の場所で待機だ」

 玉座横にある通用口の傍にいた男は、オレンジを齧りながら細い眉をあげ、薄い笑みを見せた。

 「ドミニクの側近は終わりだ。事は最終段階にきている」

 「あぁ~、あいつは好きじゃなかった。俺はお前に雇われている。あいつより…」

 「金と領土、女、そして、爵位を与える…」

 その言葉に小さく眉をあげると、薄い笑みを見せてから、再びオレンジを齧りながら、その場を後にした。


 その音を聞いていた男は、口角を緩めて、笑みを見せた。

 その視線にあるモノは……。


 …再び、アサトら一行…


 第2の壁を抜け、高い建物が並んで立っている通りを抜けると、城門前の大きな広場へとについたアサトらは、潮風の香りを受けながら、広場の向こうにある、大きな橋の向こうの真っ白く高い壁に設置してある、大きな鉄で出来た扉に向かい、ロイドを先頭に、ロイドの仲間のライベルとクラウディス、ライザがついて、馬車の手前をクラウトとアリッサが進み、馬車の手綱をタイロンが持ち、馬車の脇をシスティナにケイティ、クレアとロジアンにロス。

 馬車後方をキエフとアサト、ジェンス、メルディスにポアレアが就いて進んでいた。


 ここまで来ると、誰も言葉を話さなくなっており、大きな扉を有する城門の向こうに見える、4つの高い塔へと視線を向けながら進んだ。

 広場はかなり広く、行き交う者らは兵士が多い。

 城門へと続く橋の前には、多くの兵士がおり、検疫を行っている姿が見え、その向こうの、鉄で出来ている大きな扉が少しだけ開くと、兵士が兜を脇に抱えながら橋を進んでくる姿が見える。

 辺りには、波の音だろうか、寄せては返し、流れて行く水の音が、優しく聞こえてきており、城の向こうに見える真っ青に晴れた空は高く、秋の深まりを感じさせている。


 近付くにつれて、城の大きさが分かって来た。

 まだはっきりとは言えないが、かなりデカい!!

 城門の向こうへとカモメであろうか、大きく響き渡るような鳴き声を発しながら、跳んでゆく姿が見え、高く聳え立つ城の周りを、飛んでいる白い鳥に混じり始めている。

 

 橋の手前に来た時に、先ほど橋を渡っていたモノが、先頭を進んでいたロイドへと話しかけていた。

 その話を聞いたロイドは、そのまま城へと進めと言われたようであり、真剣な表情で振り返り、指示を出した。


 言われるがままに、城へと続く橋を渡っていると、大きな門が重々しい音を立てながら開き、その門を抜けると、そこは拓けた場所であり、100メートルはあろうか、まっすぐな石を敷き詰めている道が延びており、その向こうに4つの高い塔を四隅に備えたレンガ色の城が目に入って来た。

 遠めだが、迫力がある。

 城へと続く道には、白い防具に身を纏った兵士が並んでおり、アサトらへと厳しい視線を送っていた。


 ロイドと話をしていた兵士と共に城の入り口まで進んだ時である……


 慌ただしく兵士が走って来たのに、アサトらが振り返った。

 

 ロイドと共に進んでいた兵士が、眉間に皺を寄せて、その兵士へと慌ただしく進み出し、馬車脇を通り、アサトらの脇を通ると、仁王立ちをして駆けてくる兵士を待った。

 「兵士長。敵襲です!」

 兵士長と呼ばれた男の前で、片膝の状態をとった、駆けて来た来た兵士。

 「報告です。東、西、南より、敵の軍と思われる複数の軍が、王都を囲み始めた!」

 「うろたえるな!黒い軍は我が国の兵だ!」

 「え?」

 小さく驚いた兵士。


 「クロ……」

 アサトのそばにいたケイティが小さく言葉し、その言葉にアサトは困惑の表情を見せた。


 「それが…、ほかにも!」

 「そうか…報告の通りだな…」

 兵士長は小さく笑みを見せて言葉にした。


 彼が考えていた軍とは違う軍が、接近している事は想定内ではある。

 前日から斥候より、東西南から進む軍の報告は受けていたのであり、しっかりと将軍からの指示は仰いでいた。

 「以外に早かったな…。それではクレミア様には、軍を王都外壁に展開させ、東西南より攻めてくると思われる軍への対応をお願いしろ!国王軍兵士は、戦闘準備を整え、持ち場に着くようにと伝えるのだ!」

 兵士長の号令に頭をさげた兵士は立ち上がり、駆け出して、その場を後にした。


 その会話を聞いていたアサトは、去ってゆく兵士を見て思っていた。

 …とうとう集って来た、黒いモノらはやっぱり敵なんだ…


 「お見苦しい所をお見せしました。申し訳ありませんな…」

 兵士長がクラウトの前に立つ。

 「いや、構いません。この国の実情は把握済みですので、戦ですか?」

 「まぁ~、そうなっても、わが軍は負けませんよ。もし戦になっても、この城にいれば安心です。」

 メガネのブリッジをあげたクラウト。

 「そうならいいのですが……」

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