第13話 さぁ~、王に会おう… 上

 「あれ、本当に持つのか?」

 正門の検疫所にて、検疫を受けているアサトら一行。


 馬車の横で待っているアサトに、ジェンスが愚痴を吐き始めた。

 「…ってか、なんで俺たちが持たなきゃならないんだ?俺はともかく、お前はリーダーだろ?」

 その言葉に笑って返すアサト。

 「ここまで巧妙にしなければならないのか?」

 「クラウトさんは、争いのないようにって…」

 言葉を発しているアサトの前を、兵士が目を細めて見ている。


 アサトらの後ろでは…。

 「なんであたしが侍従なの?チームのリーダーだし、金髪より色っぽいし…ってか、クラウト君は、金髪が好きなの?そう言えば……」

 クレアも独り言をブツブツと言っており、その隣のケイティは、眉間に皺を寄せて、兵士を睨んでいた。

 そんな2人の姿を、心配そうな表情でシスティナが見ている。


 「武器は持ってないな。」

 「ハイ」

 アサトとジェンスの傍に来て、下から上をじっくりと、顔を隠した兜の向こうにある、青い瞳で兵士が訊き、答えたアサト。

 その隣では、苛立ちの表情を見せながらジェンスも答え、少し目を細めた兵士は、後方へと進んで行った。

 ケイティとクレアのぶっきらぼうな返事が聞こえる。


 …ほんとに大丈夫なの……


 ロイドが兵士と話をしているのが、小さく聞こえてくる。というか、ロイドも一応、兵士なんだけど……。

 「王に直接お会いしたいと…」

 「王に?」

 「ハッ、彼らはそう言っておりました。どうやら他国では、上位の貴族であり、貿易に関しても発言権を持っている者達のようで、王から直接、貿易に関しての条約を結びたいと、書簡を手にして伺っているとの事です」

 ロイドの話しにクラウトへと視線を向けた兵士は、クラウトとアリッサの首に巻かれているスカーフへと視線を持って来ると、小さく考えていた。


 …あれ…まずいのか?それとも?


 アサトが思っている間でも、ジェンスの愚痴は止まらず、見かねたケイティが傍に来て、ジェンスをたしなめている姿があった。


 「まぁ~、一応、早馬は出すが、城に入れるかは、城の門番に聞け、ここは王都への入り口だからな…」

 兵士が後方にいる者に耳打ちをすると、兵士は素早く動き、近くに止めていた馬にまたがり、大通りを駆けあがり始めた。


 …あっ、なんか効果があったのかな?それに、馬を走らせられるんだ…。


 兵士は一度、スカーフを手に取ってから小さく頷き、クラウトを先頭に検疫所を通らせ始め、その向こうには、馬が駆けて行く姿があり、その大通りは、デルヘルムの大通りの2倍はある広さがあって、馬車の往来も見受けられた。

 城に入る門の手前に駐輪場があり、そこに馬と馬車を係留させておけると言う事である。


 ロイドがアサトら使用人役らに、合図を送り進み始め、巨大な壁に設置してある鉄で出来た扉を過ぎて、街へと入った。

 通り抜けた壁は、厚さは3メートルはありそうで、高さは見あげる程に高く、しっかりとした作りである。


 門を過ぎて大通りを進む。

 大通りに面している建物は、ほとんどが3階建て以上の建物であり、しっかりとした石造りの建物にガラスの窓がついている。

 10階建ての建物も至る所に見えており、煙突なども空に向かって聳えている姿も見えた。

 大通りは南口と言われ、北には城があり、東側は、工業区域のようである。

 南口周辺が商業区域と居住区があるようで、西側が、旧市街と言われ、現在は、貧民が住む区画とされていたが、全部が貧民区域では無く、西地区の北側や東側には、一般居住区も存在しており、再開発の声も上がり始めている区域であった。

 カルファの診療所はそこにあり、確かに、作りも風景も殺風景で少しばかり汚れている感じがあった。


 大通りの向こうには、小さいが城の上部がちらりと見えており、馬車はゆっくりと城を目指して進んでいる……。


 …キングス・キャッスル内…


 謁見の間の入り口で、早馬の知らせを聞いた、宮殿衣装に身を纏ったドミニクが、目を細めて小さく頷いた。

 「摂政、王への伝達です」

 「わかった。王には私から話す、君は持ち場に戻りたまえ…」

 ドミニクの言葉に、小さくかしこまった兵士は振り返り、長い廊下を進み始め、その姿を見ながら考えた表情のドミニクは、背中側にある扉へと向き、小さく開けた。

 

 「どうした?」

 中から声が聞こえる。

 その言葉を聞いたドミニクは、一度振り返って、後方を確認した後、謁見の間に入った。

 

 黒い防具に身を纏っている者らが、まっすぐに、玉座に向かってしかれている赤い絨毯の脇に、均等な空間を開けて並んで立っており、壁際には、聖職着を着込んだ女性が、同じく、均等な空間をとって並んで立っている姿があった。

 太い石で出来た柱が均等に並ばれており、ガス灯と言われる灯りがゆらゆらと謁見の間に光を与えている。


 窓辺の方向には、白いレースのカーテンが風に揺れ、奥の方には、一人の男が何かを見ている背中が見え、その男に向かって、小さく一礼をしたドミニク。


 「フーリカ大陸から使者が訪れたようです」

 「使者?」

 男の声が、広い謁見の間に響いた。

 「どうやら、貿易の条約を結びたいらしく、書簡を持参しているとの事です」

 「…そうか…。貿易か…。この国の発展には不可欠だが…。」

 「新国王の即位の前に、確約が欲しいのでは?書簡にサインをするだけなら、私が…と言いたいのですが…」

 ドミニクの歯切れの悪い回答に、小さく耳を傾けた男の姿があった…。


 「なにか…あるのか?」

 「えぇ。書簡の他にも…あなたにどうしても、直接お渡ししたい、があると…」

 ドミニクの言葉を聞いた男は、小さく顎を引いた。

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