生きる事も正義 中

 「こりゃ…ミュム様の力が必要だな…」

 呟くメルディスを見るケイティ。

 その目の前には、すでに黒いモノの姿が押し寄せてきていた。…と…。


 メルディスがロングソードを振り出そうとした瞬間に、目の前を灰色の何かが通り過ぎ、黒いモノらをなぎ倒し始め、その向こうでは、黒いモノをタイロンが盾で弾き、大剣を突き出そうとした瞬間にも、メルディスと同じ光景が、目の前を通り過ぎた。


 「なに?」

 ケイティが目で追うと、そこには、黒いモノの頭を齧りとった銀色の毛を持つ大狼の姿があり、低いうなり声を発しながら黒いモノらを威嚇していた。

 その大狼に武器を突き出した黒いモノ。

 その黒いモノ攻撃を避けると、再び広場内を駆け始め、その動きに触発されたように、もう1頭の大狼も広場内を駆け始め、蹴散らされる黒いモノは、上方や後方へと飛ばされ、または、大狼の口に銜えられたモノは、激しく左右に振られて、首を切断されていた。


 「セラ!」

 通りから現れるキエフにセナスティ、そして、システィナにセラ。

 キャンディが後続の黒いモノの頭を刎ねている姿が見えた。

 大狼は、低い姿勢から黒いモノへと突き進み始め、足元をすくっては倒しており、その倒れた黒いモノの額に、ジェンスとタイロンが刃を突き立て、その近くでは、ビッグベアが大剣を振っている。


 「あれは…召喚獣」

 噴水の壁に座っていた少女が、噴水の壁に立ち上がり、なぎ倒されている黒いモノの間を進む大狼を見て言葉にした。

 「ピノ、召喚獣だと?」

 キノクニエがフードの奥からピノと言われた、綿帽子を被った少女を見上げた。


 ピノは辺りを見渡してから、路地から出てくる一団に目を止め、その中の銀色の長い外套を纏っているフードを被ったセラに視線を止めた。

 「召喚士がいるよう…。なんで?」

 肩から下げていた小さなバッグを漁り、そばに置いていた銀色のロッドを手にしたピノは、バッグから石を取りだしてロッドにはめ込んだ。

 「…面白そうじゃない…」

 石を装着したロッドを高々に掲げたピノ。


 「…6世代にわたった力に勝てると思っているの?オオカミごときで…」

 ピノはロッドをゆっくりと落とした。


 「漆黒の闇に封じられし、偉大なる力よ、我の力となれ…」

 ロッドの先についている黄色いひし形の石が煌々しく輝き始めると、黒いモノらが集まっている場所に直径10メートル程の金の輪が現れ、その輪の弧に文字が描かれ、円の中がゆらゆらと金色の波が立ちだし、その中から黒い鼻先が現れた。


 その姿は、ゆっくりと輪の中から、大きく金色の鬣をもつライオンの顏が現れると、輪の淵に白い爪を突き立てて輪の中から這い出てくる。

 一見大きなライオンに見えるが、背中には、体よりも大きな翼が折りたたまれており、体が輪から完全に出ると同時に、その翼を大きく広げて見せた。


 「キ…キマイラ!」

 遠くで姿を見たメルディスが声に上げ、その言葉にライザとケイティが、同じ方向へと視線を移した。


 キマイラは、息を吸い込んでから、建物と空気を揺るがすような咆哮を上げ、その咆哮に、建物のガラスが何枚か割れる音と共に地面が揺れ動く感覚が、広場にいたモノすべてに伝わっていた。


 「あっちにも召喚士…」

 セラがロッドを強く握る。

 その姿を見たシスティナは大きく息を吸い込んでから、長く吸った息を吐きだした。

 「今は、逃げる事を優先しましょう」

 セラを見ると指先を高々に上げて始める。


 キマイラの出現に大狼たちは顔を向けて、舌を出して荒い息を何度か見せると、ギンが最初に動き出し、続いてシルバもキマイラに向かって駆けだし始めた。


 「体の大きさが違うのよ…。捌いてしまいなさい!!」

 叫んだピノの言葉にキノクニエが目を細める。


 「なんだ!なんだ?あの化け物は!」

 キマイラを見て、クレミアが目を大きく広げて見ている。

 クレミアもピノが召喚士である事は知っていたが、その力を今まで見た事が無く、召喚したモノの巨大さに目を大きく見開いて見ていた。

 キマイラの大きさは、体高5メートルはあると思われる。鼻先から尾の先までの長さも10メートルほどであろうか…。

 出て来たせいで、数体の黒いモノの多くが下敷きになり、機能を停止している様子も見受けられていた。


 「キマイラ、あっちの召喚士と仲間を殺しちゃいな!」

 子供のような声が広場に響くと、その言葉にキマイラは路地に立つセラらへと視線を向けた。とその時!!


 「…?」

 キノクニエが何かに気付き上を見ると、目を細めた。

 キノクニエが見た空には、無数の光が拡散を始めており、その様相がかわろうとしている瞬間であった。

 キマイラが動き出すと同時に、キノクニエがロッドを高々に上げた。

 「…これは…。ちょっとまずいかもな…」

 キノクニエの言葉に、ピノとクレミアが視線を移した。


 「はぁ?なにがまずいんだ、じじい!」

 その言葉に瞳を細くしたキノクニエは、上げたロッドを大きく払って見せる。


 「降り注いで!」

 今度は、システィナの声が広場を駆け巡ると同時に、光が鏃に変化し、落下を始めたが、キノクニエが振った杖の動きに合わせて、大きく空中で何かが衝突したと思った瞬間、流れるような、幾重にも広がる閃光が広場全体を明るく照らし出すと、上空から重い爆風が広場へと駆け下り始め、その爆風に黒いモノらが次々と弾き飛ばされる光景が見え、間を置かずにケイティ達にも押し寄せてきた。

 爆風に巻き込まれたケイティは、レアを抱きしめながら転がると、勢いをつけて立ち上がり、そのままセラ達へと走り出した。


 「みんな、逃げるよ!」

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