生きる事も正義 下

 ライザの声に飛ばされているジェンスとタイロンが立ち上がり、ケイティを先頭にライザ、メルディスが走っている姿を見てから、横で苦悶の表情を浮べているビッグベアを立たせると、進み出したジェンスは、タイロンにビッグベアを預けて後方を警戒しながら進み出した。


 上空に張り巡らかされた爆雲は広場を覆い始め、広場全体が薄暗くなり出している。

 「…あの子は…。もしかして……」

 キノクニエは、ケイティらが路地に到着する姿を見ながら言葉にした。

 「なに?」

 ピノの言葉に顎を小さく引いたキノクニエは、フードを外し、白髪になっている長い髭を撫でなら考えている表情を見せ、撫でている手の甲には、青い刻印が、はっきりと描かれていた。


 「ギン・シルバ!戻って!ジャンボとシスへと分かれて!!」

 爆風と爆圧に、四肢の膝を折って伏せているキマイラの足に、牙を立てているギンとシルバにむかい叫んだセラのちかくにケイティが来ると、立ち止まらずにもと来た大通りへと進み出し、それを追って、メルディス、そばにいたシスティナを抱えたキャンディが動き出した。

 「ごめんなさい…」

 システィナの言葉に笑みを見せたキャンディ。

 「あんた…ほんと凄いね!!」


 ギンとシルバは、キマイラから離れ、指示通りにギンはタイロンの方向、シルバは、システィナの方向へと駆け出し、その様子を見ていたセラは、再び声を張り上げる。

 「ジャンボ、熊を乗せて!!シスも!!」

 セラの叫びに、タイロンは近くに来たギンの背中にビックベアを乗せ、シルバはキャンディの傍に行き、システィナを背中に乗せて大通りへと駆け出し始めた。

 大通り入り口で、ジェンスとキエフは広場風景を見て警戒をしており、その傍ではセナスティとセラが大通りへと進み始めた。


 「後ろを見ちゃダメ!そのまま逃げるよ!」

 ライザが叫びながら大通りへと進み、タイロンが後を追い、広場に遅れがない事を確認したジェンスは、黒い刃を持つロングソードを一度、広場に向けてから、大通りへと踵を返したように振り返り進み出すと、キエフも後を追い始めた。

 前方を進む仲間を見たセナスティは、悲痛な表情を見せ、遠くであったが、その表情を見たビッグベアは、小さな笑みを見せて、安心させようとしていた。


 ジェンスがセナスティに追いつき、一度振り返ってみると、伏せていたキマイラが起き上がり出している姿が見えた。

 「…あんなデカいの…。俺達でどうこうできるレベルじゃないっつぅ~の!…セラは、なんでオオカミだったんだ?」

 「セラさんは、ゴリラさんを出しているから、オオカミで精一杯なんだって…だから…」

 「そう言う事か!なら逃げようぜ!」

 セナスティの言葉にセラらを追い始めたジェンス。

 その姿を見たセナスティは、一度、広場中央にいるクレミアとピノ、キノクニエへと視線を持っていった。


 訝し気な表情で辺りを見渡しているクレミアと、綿帽子を下げて目を覆っているピノの姿があり、顎を引いているキノクニエの姿を確認した。


 「皇女!」

 最後方を進んできたキエフの言葉に、小さく瞳を閉じたセナスティは、息を吐きだし、小さく頷いてみせた。

 「…あの人たちは…誰なの?」

 セナスティの言葉に首を傾げたキエフ。


 ケイティらが入って来た出入り口に着くと、そこでは、ポアレアが、扉を塞ぐ準備をしていた。

 「逃げるよ!」

 ポアレアに叫びながら出入り口を出たケイティは、林に向かって進み、その後に、システィナを乗せたシルバとビッグベアを乗せたギンが通過し、キャンディとセラが通過をしてから、少し間を開けてライザとメルディスが来ると、メルディスがその場に立ち止まった。

 タイロンとジェンスが、出入り口に着くと、ジェンスが留まり、後方を確認し、タイロンは出入り口を通って街の外に出ると、セナスティとキエフが現れ、ジェンスが少し手前で剣を構えて辺りを見渡した。


 その先には、大きな巨体のキマイラに黒い巨体が2体。


 「…なんか…勝てる気がしねぇ~」

 呟くように吐いたジェンス。

 「なら逃げるぞ!」

 メルディスが言葉を発しながら外に飛び出し、作り笑いを見せながら振り返ったジェンスもその後を追い、全員が出た事を確認したポアレアが出ると扉を閉め、その締めた扉の前に遺体を置き始めるメルディス。


 「おぃ、何しているんだよ」

 「お前たちの正義は分かるけどな…。今はその正義を掲げている場合じゃない!」

 ジェンスの言葉に、メルディスが遺体を置きながら返している傍で、ポアレアも遺体を置き始め、その動きを見ていたタイロンとキエフも手伝いだした。

 「手伝え!どこまで持つかわからないけど!」

 ポアレアの言葉に動き出したジェンス。

 遺体を扉前に2メートル程積んだら、その場を後にした。


 扉を叩きつける音が聞こえる。

 その音は、時間を掛けずに破壊音となったが、すでにジェンス達は林近くについていて、止まったジェンス、メルディス、ポアレアの3人は、遺体を放り投げている黒いモノの姿を見ていた。


 「…俺たちが生きる事も正義だからな…」

 メルディスが言葉を発しながら林の中に進み出し、ジェンスの肩に手を当てたポアレアも林の中に進み出した。

 遺体の山を越えて外に出た黒いモノは、ジェンスを見ており、ジェンスはロングソードを黒いモノに向けると、小さく深呼吸をしてから林の中に入って行った……。

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