第7話 生きる事も正義 上

 「…許さないからね…その子に手を出したら…」

 ケイティは唇を噛みしめてから言葉にすると、振り返った男は、眉をあげて嘲笑を浮べ、膝を使って上下に小さく動いて見せた。


 「ははぁ~、そう言う事ね…、俺は…」

 ライザが男を見上げており、その表情を見るように振り返った男は、ライザと目が合うと、小刻みに動かしていた体を止め、舌なめずりをしてみせると、嘲笑をしまい込んで目を細めてから、おもむろにライザを蹴り飛ばした。

 その痛さに目を見開いたライザは、レアを抱え込みながら小さく蹲り、レアはライザの腕の中で男を見上げた。


 タイロンとジェンスが起き上がる音が聞こえ、斬れた場所を庇いながらビッグベアが片膝を立てており、その前にいたケイティは、ライザが蹴られた瞬間に駆け出していた。


 メルディスが、辺りを見渡しながらライザに駆け寄るが、デスベアが進み出しており、その動きに剣を構え、ケイティがデスベアの横を通り抜けて、男へと剣を突き立てたが、、その動きに男は、小さくその場から離れて交わし、口角を上げて見せた。

 その表情を見ながら、ケイティはライザの元に進んで、ライザからからレアを受け取り、抱きかかえて男を見上げる。


 「やれやれ…子供が子供を守ってどうするんだ?その子は俺の趣味なんだよ!渡せよ!」

 デスベアを伴い、男がケイティらの傍に進み出す。

 「はぁ~?何言っているの?この子の母さんを殺したくせに!」

 「人間様の国で生きるマモノはいらない…、生きていたとしても、下の世話係だ!!あの女が、まだ若いならともかく…。もう子供産んでいるなら…」

 「はぁ~、あんたはバカなの?」

 「おいおい…。バカなのはお前じゃないのか?あぁ~、うっとおしいな…。いいや、その女も殺せ!男は言語同断…。次期皇太子の命で、処刑だ!ははははは…、トラの子は…、小さいから…いいや、そいつも殺してよぉ~し!」


 「ナニ?」

 タイロンの言葉に、ケイティの目の前にいたデスベアが大きな剣を振り上げた瞬間……。


 「クレミア公、準備は出来たぞ…」

 しゃがれた声が、一瞬の緊張が走っている場にとどろいて来た。

 その言葉にクレミア公…、ケイティ達の前にいる男は、デスベアの前に腕を出して、振り降ろす行為を制止させた。


 「…あぁ~、デスの力はよくわかっているからな…、こんな奴らは…」

 クレミア公はしゃがれた声の方へと体を向け、その行動にケイティ達も視線を移した。

 広場の噴水の壁に綿帽子の女の子が座り、その隣でローブを目深に被っている者がこちらを見ている。

 「キノクニエ、いいぞ。起こせ!」

 クレミアの言葉に小さく動いたフードは、手にしていたロッドを高々に上げ始めた。


 「この街で、最低3000は増える…。どうせお前たちはここで死ぬからな。いい事を教えてやる…。俺たちはこれから王都へと向かう、その軍…60000…。国王軍の兵士を足すと…200000にはなるな…。俺は、その軍の大将。建国の暁には、軍事大臣の命を受ける…あぁ~、そうそう、そして…皇太子だ!次期、国王。…そんな俺に…バカとは……」

 ケイティは、胸を張っているクレミアの背中をを見上げてから、真っ白な瞳を、ケイティらへと向けているデスベアへと移した。


 「…なにをするつもり?」

 ライザの言葉に振り返ったクレミアは、しゃがみ込んでライザと視線を合わせた。

 「こいつらが、使えるかどうか…お前たちで試す」


 ケイティらとクレミア公の間にデスベアが持っていた大剣が割り込んだ。

 「短剣で俺を殺そうとしてもだめだ…それは、反逆を意味する…。わかるな?チビ!」

 大剣の上に見えるクレミアの目は細く、ケイティを捕えてあった。


 「おい…」

 メルディスの声が後方から聞こえ、その声に反応を見せたケイティは、メルディスを見ると、広場を見ていたのが分かり、その視線を追うと、広場に横たわっていた遺体がまばらに動き始め、生気のない軽い音を立てながら起き上がり始めた。


 「うそだ…ろう…」

 タイロンが盾を持ち直し、ジェンスがロングソードを構え始め、ビッグベアは、大剣をかざしているデスベアから視線を外さず、メルディスに抱えられてライザが立ち上がった。


 「やっぱり…呪術師ね…」

 「あぁ~、凄いな呪術って…。」

 ライザの言葉に立ち上がったクレミアは振り返り進み出し、ケイティの目の前にあった大剣も、それと同じくして上に移動をした後、クレミアの後を追うように進み出したデスベアの姿が見え、その周りでは、遺体となって横たわっていた者らが、まばらに立ち始めている様子が見受けられ、次第にクレミアの後ろ姿も、溶け込むように見えなくなった。


 抱きついているレアを見たケイティは、小さく笑みを見せた。

 「大丈夫…、おねぇ~ちゃんが守るから…。そして、…仇は、おねぇ~ちゃんが取ってあげるから」

 ケイティの言葉に大粒の涙を流し始めたレアは、力強くケイティに抱き着き、その感触を感じると、レアを抱えながら立ち上がるケイティ。


 広場中央の噴水に向かって進んでいるクレミアとデスベア、ナンバー4の姿があり、周りの遺体も、ほとんどが棒立ちの状態となっていた。


 立ち上がった黒いモノの間を通り抜けたクレミアは、綿帽子を被っている少女の前に立ち、小さく口元を歪め、綿帽子の少女の隣にいるキノクニエに視線を移してから振り返り、立っている黒いモノの向こうに、垣間見えるケイティらへと視線を移すと、膝を小さく揺らしながら大きな言葉を発した。


 「殺せぇ~~」

 クレミアの言葉に、棒立ちになっていた黒いモノらが、一斉にケイティらに向かって進み始めた。


 「まじかよ!」

 タイロンが叫びながら盾を持ち上げた。

 「武器を持ってない!大丈夫だ!」

 ジェンスがロングソードを構え始め、傷を庇いながらビックベアが大剣を振り出し、ケイティとレアの前にライザが立ち、その横にメルディスがロングソードを構えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る