ご乱心するケイティ姫 中

 少しだけ駆け上がっているように見える道は、まっすぐであり幅も広かった。

 後方から、何かを突き刺す音が聞こえたのに振り返ると、メルディスが先ほどの転んでいた黒いモノに、剣を突き刺している姿があり、その様子をケイティがレアの目を塞いで見ており、大剣を担いで、辺りを見渡しているビッグベアの姿があった。


 何百、何千と数えられない程の遺体である。


 その上を歩いている黒いモノらが、襲ってきたら討伐をして進んでいると、遺体の中から呻くような声が聞こえ、視線を向けると、片目がない女性が手を伸ばしていた。

 その姿を見たライザが近付き、彼女が言っている言葉に耳を近づけて聞いて、小さく頷き、こめかみに、迷いなく剣を突き刺した。

 その姿を見ていたジェンスは目を見開き、タイロンは息を呑んでからジェンスを見た。


 「これは慈悲って言うものだ…」

 「慈悲?」

 「そう~」

 ライザが戻ってくると、目を見開いているジェンスと視線が合った。

 「頼まれたのよ。殺してって…」

 「でも…」

 「彼女は、死にたがっていたの…」

 眠るように遺体の中で蹲っている女性へと視線を移したジェンス。


 「これは殺しではないが、命を奪う行為だ。命を奪う行為でも、色々な種類があるんだ」

 タイロンの言葉に息を呑んだジェンスは、後方から進んでくるケイティらへと視線を移すと、目を見開いているケイティの姿があった。


 「行くぞ!」

 タイロンの言葉に前を向くジェンス。

 呻いている声は彼女だけではない、至る所から、小さく唸るような声と共に呻いている声が、四方八方から聞こえてきていた。


 …セナスティサイド…


 林を抜けたセナスティらは立ち止まり、辺りを見渡した。

 辺りには、遺体が散乱しており、人、亜人、獣人にイィ・ドゥ、そして、黒いモノら…。

 少なくはない遺体の向こうに見える壁の向こう側からは、黒い煙が上がり、悲鳴や断末魔のような声が聞こえてきており、その様子に手で口を押さえた。

 キャンディとキエフを両隣に置き、後方には、セラとシスティナ、ポアレアが最後方で辺りを見渡している。


 街を抜けてくる住民の数もまばらになっており、セナスティらから見えるカギエナの正門には、いまだに多くの黒いモノの列が見えていた。

 「行きましょう!」

 深呼吸をしてから発したセナスティの言葉に、システィナが反応を見せた。


 「あの中は、大変な状況になっていると思います。行けば…」

 「わかっています。ありがとう。でも…行かなきゃならないと思う…。この現状を目にしなきゃ…。わたしはなにも出来ない…、感じないような……。」

 セナスティの言葉を聞いたキエフが小さく進み出すと、追随を始めたキャンディ、その動きを見たセナスティは、システィナに小さな笑みを見せ、セラがロッドに召喚石を付け始めた。


 すでに一つついている。

 その召喚石は、馬車を守るために置いて来たイモゴリラの召喚石であった。

 「セラちゃん?」

 「…大きいのは出せないけど…。シスも頑張ったから、わしも…」

 セラを見ながら小さな笑みを見せたシスティナは、召喚石のセットを終えるまでその場で待ち、セラが召喚石をセットしたのを見計らって一緒に進み始め、後方をポアレアが、ロングソードを肩に担いで進み始めた。


 そして、街の中では……。



 …ケイティサイド…


 しばらく進んだ先に大きな広場が見え、そこが、ターバンの男が言っていた、奴隷広場であった。

 『デルヘルム』の倍はありそうな噴水が見えていたが、水は立ち上がっていなく、噴水の前には、多くの遺体が並べられてあり、そこを闊歩している綿帽子を被っている小さな女の子とフードを目深に被って、木でできた杖をついている者の姿が見えた。


 しばらく様子を見ている。


 「1000以上だな…」

 タイロンが言葉にするとライザも遺体の数を数え始めたが、到底数える事ができない程の遺体であるのに、数えるのを辞めた。


 「何する気だ?」

 ジェンスが声を殺して言葉にしていると、悲鳴にも似た声が聞こえ、その方向を探ると、遺体が置かれてある広場に面している建物の前で、男がズボンを下げて、腰を振っている後ろ姿が見え、女性の拒否する声が広場に響いていた。

 男は、その声が聞こえないのか、無視をしているのかわからないが、躊躇なく強く腰を振っており、その近くには、裸の人間とイィ・ドゥの女性が横たわり、その下には、真っ赤な鮮血が流れてたまっていた。

 彼女らは動く気配が感じられなかった。


 おそらく……。


 男の傍には、黒い防具を着込んでいる巨体が2体、広場を見て立っている。


 「…おいおい…」

 その姿を見たタイロンが小さく言葉にすると、ジェンスは目を細めて男の行為を見ていた。

 「ガキんちょには、刺激が強い!」

 ライザがジェンスの頭をはたくと、ケイティが小さく笑っている声が聞こえ、その声に振り返るジェンス。

 「ガキんちょ!」

 ニカっとした笑みを見せたケイティ。


 「あいつはともかく…、あの帽子と杖…気になるな…、それに…なんだ、あのデカいの…」

 メルディスが言い、その言葉にライザも小さく頷いて見せた。


 黒いモノの他にも人間がいるようである。

 黒いモノと同じ防具や装備をしているが、兜は被っておらず、顔がさらけ出されている。

 紛れもなく人間族である。

 その黒い防具を着ている人間族の男らが、闊歩している綿帽子の女の子とフードのモノへと近づいて、何かを話している様子が見えたが、何を話しているのかわからない。

 男らは小さく頷くと、杖を持った者から何かを受け取り散らばりだし、黒い兵士らは、遺体の眉間に何かを置き始めている。

 何をしているのかは、遠くなのでわからないが…。


 「呪術師か…」

 ライザが声を殺して言葉にしている。

 「呪術師?」

 「あぁ~、分かって来た…。あの黒いモノらは遺体であって、あの者らが、呪術で動かしている…。だから…頭なんだ…」

 「なら…刺して殺しているのも…」

 「遺体に大きな傷を付けない為に…ってところかもしれない…」

 タイロンの言葉に返したライザの背中を、ケイティが小突き、その当たりに振り返る。

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