第6話 ご乱心するケイティ姫 上

 カギエナの正門へと、蟻の行列のように黒いモノが行軍しているのが見え、街を囲む壁からは、小さな出入り口が何か所か開け放たれてあるのが見えた。

 通常、その出入り口はカギで閉じられており、どの街の壁にもこのような出入り口が存在するとの事であり、緊急時にしか開閉されない扉は、鉄で出来ており、幅も2メートル程の大きさでかなり重いという話である。


 ジェンスを先頭にライザとタイロンが出入り口へとむかい、ケイティは、レアを抱いたままで、その隣にメルディスが就き、ビッグベアが最後方を、多くの遺体を避けながら進んでいた。

 おかしなことに、遺体はすべて刺し傷である。

 切り傷を負った遺体は、わずかしか見受けられず、遺体の表情も、目を見開いた状態の遺体や口を開けた遺体、苦悶の表情を浮べた遺体など色とりどりであった。


 出入り口近くにも多くの遺体が無造作にあり、また、壁沿いにも地面に血を飛び散らせた遺体が見受けられた。

 どうやら、城壁の上から飛び降りたのか、落とされたのかわからないが、上から落ちて亡くなった者の遺体である事は見てわかった。


 壁の向こうでは、未だに悲鳴や鉄がぶつかり合う音が聞こえる。


 タイロンを先頭にして、ジェンスとライザが就く形になり、少し離れた場所で、ケイティが3人の背中を見守っている。


 出入り口からは、いまだに数人の市民が逃げて来るのが見え、その中には兵士の姿や、腕を切り落とされた者の姿もあり、また、負傷している者や、負傷している者を抱えて進んで来る者の姿が見えていた。


 「おい!」

 商人らしき、頭にターバンを巻いている男をジェンスが呼び止めた。

 「中はどうなっているんだ」

 ジェンスの言葉に小さく息を呑む男。


 「…わからないが…とにかく逃げた方が良い!」

 「悪いな、そう言ってられないんだ。お前、花屋の近くの牢屋ってわかるか?」

 「あぁ~、中央奴隷市場にある牢獄だな。行けばわかる。そこは、街の中央にある広場で、花屋の隣に地下に向かう階段があるところだ。」

 「…簡単だな…」

 タイロンの問いに答えたターバンの男に対して、ジェンスが鼻を鳴らし、その姿を見たターバンの男。


 「昔は、ここで奴隷の売り買いが盛んでな。そこが競り場なんだ。競りにかける奴隷はみんなそこに集められるが……最近では、処刑場にもなっている。」

 「処刑場?」

 ジェンスが怪訝な表情を見せた。

 「あぁ~、奴隷も欲しいが、今は安値で奴隷を買い、そこで始末をして、指と言う指を切り落としている。奴隷で連れて行くのは、女、子供だけだ…。まぁ~夜のお楽しみと言う事でな…。男や老人は処刑されている。今はどうなっているかわからない」

 「…ったく…。お前は、なんでそんな事しゃぁ~しゃぁ~と言えるんだ?命がある者らなんだぞ!」

 「え?お前は知らないのか?この国の実情」

 「知っている…って気になっているけど!なんだ!それがどうした!」

 「金だよ!すべては金!!いい政策になった…とは言えないがな…。奴隷商人は、質より量を求める事になった」

 「あぁ?なに訳わかんない…」

 ジェンスの言葉を遮るようにタイロンが口を挟んできた。

 「気分が悪い!もう行け!!」

 その言葉にタイロンを見たジェンスは、眉間に皺を寄せているタイロンを見てから、しぶしぶターバンの男へと、行けと頭を振り、その動きに男は、一目散に林へと走って行った。


 「競りってなんだ?処刑って…」

 「金持ちが売り買いする事で、金に欲をかいた人間がする事…ってところだ…」

 タイロンの言葉に目を細めたジェンス。

 「奴隷…処刑って…」

 「それを阻止するために、今、動いているんじゃない!!」

 ライザはジェンスの背中を小さく押しながら答え、その言葉に怪訝な表情を見せるジェンス。

 タイロンが盾を持ち直して鼻を鳴らした。

 「行くぞ!」

 その言葉に進み出す。


 入り口から中を見たタイロンは立ち止まり、壁の内部を警戒する。


 黒いモノの影は数体見受けられたが、街の中のありさまに言葉を失い、立ち止まったタイロンの後ろからジェンスが中を見る。

 「うぁっ、なんだこれ!」

 「…」

 ジェンスと同じく覗き込んだライザが目を細める。


 ジェンスらの目の前には、道を覆いつくす程の遺体があり、その遺体は重なり合っていて、進むのも容易ではない状況であった。

 その上を、バランスを取りながら進む黒いモノの姿が見受けられる。


 「足場が悪いな…」

 「そんなこと言ってられない、行こう!」

 ライザが言葉にすると、タイロンは遺体を踏まないように進み始めた。


 足元を見ながら進むジェンスにライザ。

 死臭であろうか、なんであろうか…、色々な匂いが混ざっている匂いに、顔をしかめている3人に黒いモノが気付き、進み始めたが、足を取られて、その場に前のめりで転んだ。

 タイロンはその様子を、冷ややかな視線で見ているだけである。


 近づいてきたら戦闘である。


 ここは相手の出方を見ておく方がいいと思っていたので、横目で遺体の上をもがいている黒いモノを見ながら進む。

 「この街は、中央広場から放射線状に大きな道が続いている。この道を進めば着くと思う」

 タイロンの後ろからライザが言葉にする。

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