ママを助けて… 下

 「うぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 叫びながらジェンスが林から飛び出し、近くにいた黒いモノの頭へとロングソードを振り降ろし、その声に反応を見せるケイティとライザ、そして…子供のイィ・ドゥ。

 よほど驚いたのか、再び、ケイティの足にしがみついたイィ・ドゥの姿を見たケイティは、すでに目が潤み、愛おしさの崩壊寸前であった。


 「おりゃぁぁぁ、なんだおめぇ~ら!なんだ!ってきいてんだぁぁぁぁぁ!!」

 ジェンスは、何かが憑依したように、目に入ってくる黒いモノを襲っていた。


 「…ママは、どこにいるの?」

 優しくライザが言葉にすると、視線をライザへと向け、一度、遠くで暴れているジェンスへと視線を移してから、小さくケイティを見上げた。

 ウルウルした瞳のイィ・ドゥの手を掴んで優しく握りながら、足から離すとしゃがみ込んで視線を合わせた。

 「あのバカは…。一応、仲間だから大丈夫だよ。ママは…どこにいるの?」

 暖かな手の感触のケイティを見てから、指を街に向ける。

 「ママに逃げろって言われて…。お兄ちゃんもいなくなった…レア…。独りぼっち…」

 「レアって言うの?」

 ライザの言葉に小さく頷く。


 「…街の中か…」

 高い位置から声が聞こえ、その声の主はタイロンであり、その後ろでは、大剣を肩に担いで、辺りを見渡しているビッグベアの姿があった。


 「…助けてって言われたら…、助けるしか無いでしょ!」

 ケイティが立ち上がる。

 「ママってのが、どれか解らないだろう!どうするんだよ」

 タイロンが鼻を鳴らす。

 「レアちゃん…。ママのいる場所わかる?」

 ライザの言葉に小さく考えてから首を傾げた。


 その向こうでは、最後と思われる黒いモノを斬ったジェンスが、鼻息を荒くして辺りを見渡している姿があった。


 「レアちゃんは何歳?」

 ライザの言葉に返す。

 「5歳」


 「そっか、なら…、お兄ちゃんは?」

 「12歳…」

 「…ならお兄ちゃんは大丈夫だと思う。それで…」

 立ち上がったライザは街へと視線を移し、ケイティとタイロンも同じく視線を移していると、辺りを見渡しながらビッグベアも街へと視線を送る。


 壁の向こうでは、立つ黒い煙の量が増え、未だに、悲鳴や断末魔、武器と武器がぶつかり合う音や、爆発音が聞こえてきていた。


 「おぉ~い、行くのか?行かないのか?」

 視線の向こうで、街を指さしながらジェンスが叫んでいる。


 「…レアちゃん…もう一度行ける?」

 ライザはレアを見下ろすと、小さく顎を引いて、上目使いでライザとケイティ、タイロンを見た。


 「どうした…その子?」

 レアの後方からメルディスが声をかけてきて、その後ろでは、ポアレアが倒れている黒いモノらを観察している。

 振り返ったレアは、メルディスを見るとケイティへとしがみつき、その様子に我慢できなくなったケイティは、しゃがんでレアを抱きしめ、その温かさににんまりとした表情を見せたが、腕の中で小さく震えているレアに目を見開いた。

 少しばかりその震えを感じると、メルディスへと視線を向ける。

 「赤鬼…この子を守って…」

 「あぁ?」

 レアを抱いた姿で見上げているケイティへと、怪訝な表情を見せたメルディス。


 「これから街に行って、この子のママを助ける。この子しか場所がわからないから…、あなたがこの子を守って!」

 「街って…」

 「ふっ、じゃ…。黄色さんは馬車の人達に連絡を頼める?」

 ライザの声に立ち上がったポアレアは、小さく首を傾げていた。

 「これから街に行くからって、馬車の人達に伝えて!」

 叫んだライザにむかい指を立てたポアレアは、林へと進み出した。


 「大体のところはわかる?」

 「地下の牢屋…、馬車があって…。あっ…。お花屋さんがあった!」

 「おおざっぱだな」

 盾を持ち上げたタイロン。


 「どうすんだよ!行くのか!行かねぇ~のかぁ!!」

 ジェンスが、街に向かって指をさして叫んでいるのが見える。


 「さすがアサト君のチームだね。じゃ…、行こうか!」

 ライザが進み出すと、ケイティがレアを抱いたままに立ち上がり、タイロンとメルディスが顔を見合わせてから進み出し、最後方をビッグベアが進んだ。

 ジェンスがロングソードをグルグルと回している姿があり、進み出してきたライザ達を見たジェンスは、ニカっとした笑みを見せると、街へと向かって先頭を進み始めた。


 ポアレアは林に入り、いまだに動いている民衆をかき分けながら、馬車に近づくと、馬車の傍では、大きな体のキャンディとキエフが、目を血走らせながら民衆を警戒をして見ている姿があり、かき分けてくるポワレアを見ると、両者は眉を上げ、小さく安堵の表情を見せた。


 「もう黒いのはいない。んで…、街に行くって!」

 「街に?」

 ポアレアの言葉にキャンディが声を上げた。

 「そうみたいだ」

 その声を聞いたセナスティが、馬車から顔を出した。

 「どうして?」

 「わからない、でも…みんな向かった…。」

 「…」


 小さく考えたセナスティは、中で座っているシスティナとセラへ視線を移し、そのセナスティに向かい、小さく頷いて見せたセラは、ロッドの準備を始めた。

 「わしも戦うぞ!今、ゴリラを用意する」

 「ゴリラ?…と言うか……。」

 「みんなが戦っていて、わしは何もやってない…。婿がいなければ何もできないなんて…いやじゃ!」

 「婿?って…」

 セナスティが目を見開いてセラとシスティナを順に見た。


 「クラウトさんの事です…そうですね…。わたしたちも行きましょう!いいですか?皇女様。」

 システィナの言葉に小さく考えてから、頷くセナスティ。


 中のやり取りを見ていたキエフが動き、馬車を固定して、馬を繋ぎ始め、その動きにポアレアとキャンディが手伝い、セナスティを先頭にシスティナ、セラの順番で馬車から降り、馬車の係留を終え、セラがイモゴリラを召喚すると、街に向かい進み始めた。


 そして……


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