ママを助けて… 中
転んだ者にむかい、飛び乗る見た事のある黒いモノの姿に…。
「わぁりゃ~、またお前らかぁぁぁ!」
脇に携えていた剣を抜いて、黒いモノめがけて駆け出し、倒れている者に剣を突き立てようとしている黒いモノの眉間に剣を突き立てた。
そのジェンスを避けて通り過ぎる人…だけではない、亜人らや獣人ら、イィ・ドゥや人間族の者らが押し寄せては、通り過ぎて行き、その中には、例の黒いモノの姿もあった。
倒れた人を起こして、脇へと連れいくと事情を聴いた。
「何があった!」
「わからないけど…、黒いモノらが街を攻めた…。いきなりだった…」
細身の人間が震えながら、ジェンスの問いに答えた。
「はぁ~?わからないなら早く逃げろ!」
ジェンスは道を駆け抜けて行く群衆へと視線をむけ、そそくさと男は、その場を去った。
「ったく…、みんなはどこ行った……」
蜂の巣を叩いたような感じで、『カギエナ』の街から逃れた民衆は、四方八方へと散らばり、西側の林を出た所では、ケイティらが黒いモノらと戦っており、林の中では、未だに、馬車と道の境目でセナスティが立ち誘導をし、その周りには、キャンディとキエフが脇を固め、馬車後方の入り口にセラとシスティナが立っていた。
遅れて来たジェンスが、馬車周辺で戦っている仲間を確認すると、何体かの黒いモノの額に剣を刺して倒しながら、誘導をしているセナスティへと駆け寄り声を上げた。
「どうなってんだ?」
ジェンスの後方を通り過ぎる民衆に混じり、黒いモノらが次々に民衆へと襲い掛かっており、ジェンスの前にいたセナスティの傍から、襲い掛かろうとしていた黒いモノを確認すると、眉間へと剣を突き立て、その姿に目を大きく見開いたセナスティ。
「ジェンス!向うへ!」
ジェンスの言葉を聞いたセラが、『カギエナ』方面へと指をさしており、そちらに視線を移すが、向かってくる民衆で確認ができない。
…とりあえず…。
進もうとした瞬間である。
セラの隣にいたシスティナが、空に向かい人差し指で刻印を刻み始め、描きおわると同時に高々に振り上げた。
「矢となり!!」
叫んだシスティナを見たジェンスは、その指先の向こうにある空を見ると、空を埋め尽くすかのように光の点が現れ、光が鏃の形になり、次の瞬間にシスティナの声が周辺に響いた。
「滅して!!」
叫びに似た声と同時に腕を力強く振り下ろすと、鏃の形になっている無数の光が、空気を斬るような小気味よい音を伴いながら落下を始め、その鏃は、次々と黒いモノの頭をめがけて降り注がれた。
次々と崩れるように倒れ込む黒いモノらを尻目に、民衆は道を駆けて行く。
その攻撃に驚きの表情を見せているのは、ジェンスらだけであり、それだけ、民衆は逃げる事で精一杯である、…と言う事なのかも知れなかった。
その攻撃と共に膝から崩れ落ちるシスティナを、脇で見ていたセラが咄嗟に寄り添い、その音に、鏃を目で追っていたジェンスは、辺りを見渡しながら倒れ込んでいるシスティナへと駆け寄り始めると、その行動にセナスティも振り返り馬車を見た。
「シス!」
「大丈夫…。不安定な的を大量に射抜いたせいで…、少し力を使ったみたい…」
「あぁ~、すっげぇ~な!助かった!あいつらは何処だ?」
「林を抜けた場所にいる。」
セラがシスティナの肩を抱きながら言葉にした。
「私らが見ています!」
セナスティがジェンスの後方から現れ、システィナの傍に駆け寄った。
「助かる!んじゃ…行ってくる!」
「ジェンスさん…、私の魔法は、私が見えている範囲でしか威力が無いから…」
「あぁ~、大丈夫!これだけやってくれれば!とにかく、今は休んでろ!」
ジェンスの言葉に小さく頷いたシスティナを、セナスティとセラが馬車の中へと連れて行き、ジェンスは辺りを見渡した。
キエフとキャンディが馬車を守っていて、その目の前を進んでいる民衆の数は、減ってはいない。
「行ってくる!ここを任せても?」
「あぁ~、行って来い!」
キエフが盾越しに言葉にすると、ジェンスは、民衆が通ってきている道の脇に、うっそうと茂るシダの中を掻き分けて、『カギエナ』方面へと駆け出した。
林を抜けた場所では、ケイティとタイロン、ライザとメルディス、ポアレアとビッグベアが戦闘中である。
ケイティの短剣が、黒いモノの額へと突き刺さると同時に、一緒に倒れ込み、その近くで、ライザが眉間に剣を突き立て、ビッグベアが、大きく大剣を振り上げては、黒いモノらを真っ二つにしており、メルディスとポアレアがロングソードを使い、頭をカチ割っている姿の向こうで、タイロンも大剣を突き出している姿があった。
敵の数は多くはない。
徐々に黒いモノの数が減っているのに伴い、『カギエナ』の街の状況も見えてきていた。
ライザが黒いモノの額から剣を抜くと辺りを見渡す。
逃げている民衆の数も減ってきていたが、『カギエナ』からは、未だに悲鳴や絶叫が聞こえてきており、街の中での戦闘は続いているのが分かった。
ケイティが立ち上がり、黒いモノを蹴りながら仰向けにして、正体を見ていると、何かに抱き着かれた感触に振り返った。
そこには……。
小さなトラのイィ・ドゥが、同じ柄の人形を手に持ち、ケイティの足にしがみついていた。
「え?」
見下ろすケイティの体に顔をうずめ、その姿を見たライザが、辺りを見渡しながら近づき、タイロンも気付いたのか、遠目でケイティを見ており、黒いモノの首を刎ねたビッグベアが、鼻を鳴らして辺りを見渡しながら、ケイティへと視線をむけた。
「…どうしたの?」
ケイティの言葉に顔を強く押し付ける。
「怖かったんだね…」
ライザがしゃがみイィ・ドゥと視線を合わせると、その雰囲気がわかったのか、イィ・ドゥはライザへと視線を向ける。
「…か…、かわいい…」
思わず言葉を発したケイティの目は、イィ・ドゥのすがるような姿に心を打たれている。
「…ママを助けて…」
「え?」
か弱い声を発しながら、顔をケイティへと向けた。…すると……。
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