第5話 ママを助けて… 上
時間は数時間前に遡る……。
林の中を進んでいる後続班は、突然響き渡った、大地を揺るがすような爆発音に、馬車の屋根にいたケイティが、目を見開いて飛び上がった。
「なにか音が聞こえたけど、見えるか?」
下からタイロンの声が聞こえ、その言葉を聞きながら、ケイティは、目を凝らして、まばらに樹勢している木々の間へと視線をむけ、視界は悪いが、木々の間から見える壁辺りを観察していると、その壁の向こうから黒い煙が数本あがり、そして再び、爆発音を伴って、黒い煙があがりだしていたのを確認した。。
「なんか…火事?…爆発……して…煙があがっている…」
「火事?爆発だ?煙?」
タイロンが訊き返す。
「うん…って言うか……。…あっ!」
タイロンの隣に座っていたライザが、ケイティの小さく驚いた声に馬を止めさせ、馬車を素早く降りて後方へと進み、馬車の屋根へと移動を始め、急に止まった馬車に、中にいたセナスティらが顔を出して、外の様子を伺いはじめた。
ライザが馬車の屋根に来ると、ケイティが指をさしてみせる。
「黒いモノの行列…」
ライザは目を細めて、木々の間から見える光景を確認すると、南方向から連なる列が、『カギエナ』の街へと続いており、その壁の向こうからは、十数本の立ち上がる黒い煙に爆発音、かすかに聞こえる悲鳴や怒号が聞こえ、その様子に目を一層細めた。
「…襲われているの?」
「…なんで?」
ライザの言葉に、聞き返したケイティ。
その言葉に少しだけ考えていると、中にいたセナスティが馬車から出てきて、馬車の屋根に登り、ケイティとライザの後方から、目を凝らして『カギエナ』の街へと視線を向けた。
「どう言う事?……」
呟くように言葉にするセナスティを見たライザは、再び考えていると、小さく見える壁に用意されている出入り口から、吐き出されるように抜け出してきている者らが見え、その様子を伺っていると、亜人や獣人、人間族の者らが我先と出てきており、時より、その中に黒いモノらの姿も見え、どうやら黒いモノらの襲撃にあっているようであり、逃げ出したモノらを追いかけ、捕まえ、そして、武器を突き立てている姿が見えた。
その難から逃れた者らが、散り尻に逃げる中、後続班の方向へと進んで来ている様子も見受けられ、その姿を見たライザは、何かに弾かれたように馬車の屋根から降り、馬車の前に来ると少しだけ進んで立ち止まった。
「ここに入って…」
言葉を発した後、踵を返したように振り返り、向かってくる者らの姿を確認した。
「…ダメ、間に合わない…」
逃げて来るものへと駆け出すライザを見たケイティも、馬車の屋根から降り、馬車後方で馬に乗っていたメルディスとポアレア、ビッグベアが、馬車の屋根にいたケイティらの行動に顔を合わせると、次々と馬を降りて前に来た。
馬車を降りて来たケイティにメルディスが声をかける。
「どうした?」
「街が襲われている…。逃げて来る人もいる…」
ケイティは地面に飛び降りライザの後を追い始め、その動きにメルディスは、馬を林へと進ませて繋ぎ始め、ポアレアもビッグベアの馬を伴い追随を始めた。
馬車の横に立ったビッグベアは、馬車の屋根にいるセナスティへと視線を持ってゆく。
「ベア…、あれは私らの民…、助けて!」
その言葉にため息をつくと、腰にある両刃長剣を抜いて進み始め、中にいたキエフへと手綱を渡したタイロンも馬車を降りて進み出し、キエフは、ライザの言葉通りに、林にある旧道へと馬車を移動させ、その後方をメルディスとポアレアが駆け出して行く姿が見えた。
林をでたライザは、もう既に林の入り口近くまで逃げて来る者らを確認すると、駆け出し、向かって来ている者らの間を抜けて、黒いモノと遭遇し、その後ろでは、ケイティも林を出たところであった。
逃げて来る者の数は、波のように増えてきており、亜人やマモノの姿の中には、人間族の姿も見受けられ、その者らは鬼気迫る形相で、目を見開き、血のような真っ赤な色に染まっているモノや、傷ついているモノ、大人も子供も交じり合い、まっすぐに林の中に続く道へと向かって来ていた。
その様子を見ながら、黒いモノと遭遇したライザは、軽い身のこなしで黒いモノの背後を取ると、背中越しに腕を回して首を引き裂いたが、その異様な感覚に目を細めた。
「?」
「そいつらは、それじゃ死なない!頭!頭を、眉間を狙って!」
ケイティが、黒いモノを倒して眉間に短剣を突き立てている姿が見え、その行動をマネするように、地面に着地したライザは、黒いモノの足をすくって転ばすと、眉間に剣を突き立て、その突き立てた剣の向こうにある瞳に小さく驚いた。
動かない表情にある真っ白の瞳がライザを捕えている。
「…なに?これ?」
「考えている時間は無い!」
遅れて来たメルディスが剣を振り、後頭部を切り裂き、その言葉に立ち上がったライザの背後の林の中では、道脇で大きな声を出して誘導をしているセナスティに、少しだけ見えている馬車後方の入り口で、システィナが呪文を唱えている姿があり、キャンディとキエフが、セナスティの脇を固めて、向かってくる黒いモノらを相手していた。
その頃…。
少しだけ息の上がっているジェンスは、馬車から遅れて走っており、ようやく林に入ったところである。と言うか…、いつもなら交代して、馬車で休むはずなのだが、人数が人数なので、朝出発してから一人で走っていた。
たまにキエフが馬車から降りて来て、一緒に走ってもいたが、すぐに音を上げて馬車に戻る為、ジェンスの休む場所も無く、ずっと走りっぱなしであった。
そんなジェンスは、林へと向かう岩場の道を抜け、林に入り淡々と走っていた訳では無いが…。と…
「?」
前から……。
地響きのような足音が聞こえ、…その音に立ち止まり、目を凝らして様子を伺っていると……。
「…!!…なんだ?…へ?」
林奥から蠢く影が見えると、速度を増し、地響きとともに『カギエナ』を逃げ出した民衆の群れが、ジェンスへと向かって来た。
「な…なんだ!なにがあった!!」
その群れに飲み込まれる前に、シダの生い茂る脇に逸れたジェンスは、目の前を通り過ぎる群衆を見ている。
「これは…なんかあったな!!」
ただならない事が起きていると思い、道脇を駆けだすと同時に、道を走っている者が倒れたのを目にした瞬間!!。
「あっ!!」
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