王都へと続く道にて 下

 『カギエナ』の人口は30000人程であり、『デルヘルム』と同じくらいの人口であるようだ。

 5メートル程の高さを持つ壁に囲まれており、その入り口にあたる城門には100人を越すと思われる白いマントにシダの紋章がついている防具を着込んでいる兵士の姿が見え、街を入る者らの検閲を行っているのが見えた。


 クレアは、この街で簡易的な食料を調達したいとの事であり、ゆっくりとした旅では無いので、それが得策な事はアサトには分かっていた。

 人間である証拠は無いが、どうやら見た目で判断されているようである。


 尻を触られ、尾の無い事を確認され、頭を触られ耳の無い事を確認され、顔や体を触られて、異質な部分がない事を確認されると名前を記入して入門をした。

 名前と書かれてあるが…とりあえず、知っている字で書くと、兵士はなにやら紙を出して文字を探しているのか…。

 しばらくすると、来訪者か?と訊かれ、答えると簡単に入門させてもらえた…。


 …なら最初から名前を書かせればいいのに…。


 どうやら、兵士に申告をすればよかったようである。

 クレアの話しだと、来訪者であることを告げると文字を書かせられ、文字を確認されるとで終わるようである…。

 簡単な検査とは…顔を見るようである。

 亜人や獣人は、やはりどことなく人間族は違うようであり、イィ・ドゥに関してもそうであるようだ。

 定かでは無いが、イィ・ドゥなどは、人型でも、顔のどこかに異種族の特徴を見せているようである。


 …ってか、最初から言ってよ…。


 ただ、クレアは、これがこの国の異常さだと言う事を教えたいようであった。

 買い物を終えたアサトらは、街の中央にある広場で異様な光景を目にした。

 それは…ゴブリンのイィ・ドゥであろうか…。

 その者が連れて来られ、民衆の前で首を刎ねられている…。


 その状況をみて声を上げる者の姿は無く、目をそらす者もいなかった。

 クレア曰く、これがこの国の異常さ…と言う事である。


 街は、2階建ての石作の建物が多く、商店街も賑わっていたが、そこには人間族しかおらず、イィ・ドゥの影も見えない。

 たまに見かけるイィ・ドゥは、首輪をつけ、鉄で出来ていると思われる鎖でつながれて、買い物袋を持っている者の姿である。


 …国が元に戻っても、この状況は変わるのか?


 アサトの気持ちに小さいながらも疑問が生じていた。


 …これは、この国の異常さではない、人間族の異常さではないであろうか…。


 王都へと続く道につながる門へと差し掛かった時に、門を抜けて街に入ってくる大きな馬車とすれ違った。

 その荷台には、鉄格子で囲われた牢屋があり、その中には、獣人の亜人とイィ・ドゥの姿が見え、子供、トラのイィ・ドゥであろうか、歳は4・5歳ほどの子供が、同じ柄の人形を胸に抱えて、すがるような視線で見ているのに目が合った。

 その隣には母親であろう、フードを目深に被ったモノが座り、子供を抱えていた。


 アサトは立ち止まりその光景を見送っていると、子供もアサトから目を離していなかった。


 …あの人たちは……。


 「奴隷売り場に売られると思うわ…、親は殺されると思うけど…」

 クレアがアサトの様子に言葉をかけて来た。

 そのクレアを見る。

 「急ぎましょう。こうしている間にも、あの人たちのような被害者が増える…。」

 「そうだな…、時は切迫している…。」

 クラウトがメガネのブリッジを上げた。

 「…助けたい気持ちは大きくなったね…。正義は私たちにあるわ…」

 アリッサが背中を押し、その言葉に小さく頷きながら前を見たアサト。


 …これが、人のやる事か!…。


 門を出たアサトらは、王都へと続く道を進む。

 その道中でも、先ほどのような馬車を何台か見かけ、また、クロスに立たされてある木柱に、磔になっている獣人の亜人やマモノの屍も目にした。

 その者らの手と足の指が無い事に憤りを持った。


 夕刻に人間族の村に立ち寄り、そこで野営をさせてもらい、翌日は王都へと進んだ。

 本当に2泊3日で着いた。と言うか、強行軍である。

 多くの事柄に、アサトの心を揺さぶられていた。


 ……これが許せる世界は、存在してはいけない……。


 昼過ぎに大きな林に入り、少し進んだところに小さな湖、と言うか、ため池を見かけた。

 ここが後続が待機する場所のようであり、この場から王都西門までは、十数分との事であった。


 その場所で馬に水をやったら西門へと向かった。

 林を抜けると、潮風が吹いてくると同時に、見上げる程に高く聳え立った大きな石で積まれた壁が、目に入って来る。

 その高さに目を奪われたアサトとアリッサ。


 「行こう!」

 クレアの言葉に西門へと向かう。

 壁が高いので街の様子はわからない、東側は拓けており、波打つような丘が何か所かあり、その頂からは王都の風景が見えるとの事であった。


 門に近づくと、見覚えのある姿の兵士が、数えたところ30名は確認できた。

 その門兵の検閲を行い、今度は最初に来訪者である事と買い物に来た事を告げ、入門料金、金貨1人1枚を支払って中に入った。


 税の徴収はまだではないのかと言うクラウトの言葉に、クレアは不敵な笑みを浮かべ、ココが一番楽に入れるところと言葉にしていた。

 どうやら、他は、もっと詳しく聞くようであった。

 目的や買い物なら購入品とか、どこから来て、何日滞在するのかと事細やかに訊かれるようであり、ここは金さえ払えば、どんな者でも中に入れてくれるようであった。


 西門から王都の医者『カルファ』の診療所までは、そう遠くない距離のようである。

 門を通ったアサトらの目の前には、貧相な造りの2階建ての建物が並んでおり、家と思われる前では、ボロボロの服を着ている者らが座り込んでいた。

 王都でも、この地域は見捨てられた地域と言う事である。ただ、立っている家が近いせいもあって、王都の中枢は見えない。

 もう少し中心へと行くと高い建物が見え、大通りに出れば、王が住む『キングス・キャッスル』が見えるとの事である。


 「キングス・キャッスル?」

 アサトが訊くとクレアは小さく笑みを見せた。

 「目的地の名前は憶えておいてね…」


 西地区にある建物を通り抜けたアサトらの目の前に見えた看板には、『診療所-酸化マグネシウムー』と、どうやら英語で書かれているようであり、その下には、こちらで使われている文字が書かれてあるようだ。

 クラウトは顎に手を当てて眉間に皺を寄せている。

 「これじゃ…」

 何を言おうとしているか分かった…。


 …これじゃ、簡単すぎないか…だと思う……。


 陽が傾きかけ始め、今夜はここで休むと言う話である。

 そして……。


 …セナスティ護衛サイド…


 時同じくして、後続組は……。

 ケイティが険しい表情で見上げ、その腕の中には、トラの柄の人形を抱いているイィ・ドゥの子供が、ケイティにしがみついており、その前に立つタイロンとジェンスの目の前には……。


 周りは煙が上がり、四方八方から悲鳴にも似た声が聞こえて来た。


 「やれやれ…子供が子供を守ってどうするんだ?その子は俺の趣味なんだよ!渡せよ!」

 「はぁ~?何言っているの?この子の母さんを殺したくせに!」

 「人間様の国で生きるマモノはいらない…、あの女が、まだ若いならともかくな…。もう子供産んでいるなら…」

 「はぁ~、あんたはバカなの?」

 「あぁ~うっとおしい…。いいや、その女も殺せ!男は言語同断…。次期皇太子の命で、処刑だ!ははははは…、トラの子は…小さいから…いいや、そいつも殺してよぉ~し!」

 「ナニ?」

 タイロンの言葉に、ケイティの目の前にいた巨体のモノが大きな剣を振り上げた瞬間……。

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