第4話 王都へと続く道にて 上

 昼食を終えた頃に、着替えを終えたクレラが準備を整えてキャンディと一緒に食堂に来た。

 もうすっかり正気に戻ったような表情であり、少しだけ恥ずかしい表情を見せていたのに、目が合わせられないアサトの姿がそこにあった。


 テーブルに就いたキャンディとクレアを確認したクラウトが立ち上がった。

 「それでは、今、みんなの意思を聞いておきたい。これから王都へと向かい、今の現状を正したいと思う者以外は、ここで言ってくれ」

 クラウトの言葉に一同は小さく首を振っており、その様子を見たクラウトはメガネのブリッジを上げた。

 「現状では、みんなの気持ちは一つと捉えてよいと言う事だな、それでは…。」

 クラウトはこれからの行動を話し始めた。


 アサトとクラウト、クレアとアリッサの4人は、馬に乗り王都へと向かい、情報の収集と城に入る為の準備をするとの事であり、残ったタイロンとシスティナ、ケイティにジェンス、セラ、ライザにキャンディ、キエフ、メルディスとポアレア、ビッグベアらは、セナスティを守りながら王都へと向かう事になった。


 先陣隊が少ないのではないかとの声が上がったが、馬での移動や行動を考えればギリギリの数であり、先陣隊の体勢も、盾持ちにアタッカー、サブアタッカーにサポートの組み合わせで、襲われても対処できると話であった。

 とりわけ、後続を多くしたのは、肝心の駒であるセナスティを守る為でもあると強調をしている。

 単騎の馬で行くとすると2日~3日ほどで着くとの話で、後続は、できるだけ早く来てもらいたいとの事であった。


 ライザが地図を広げる。


 『エギアバル監獄』から王都までは、3本の道があり、黒いモノらの軍団が進んだ街道が大きな街道のようである。

 この道は、『アルフェルス』へと続く道であり、そこから北東にむかう道が王都へと続く道となっている。


 海岸線を通る道は、王都へ向かうには、監視の状況や周辺の集落の少なさ、片方が海に面している状況を考えると、最適であると言う事であったが、かなり遠回りになり、時間も倍を見なければならないとの事で却下となった。

 黒の軍団が進む道の『アルフェルス』は、文字通り街道であるので却下である。

 残りは、2本のルートの真ん中を通る道であり、俗に言う、【】といい、『エギアバル監獄』から処刑人を連れて行く道のようで、林をぬける岩場の細い道であるようだ。


 この道は、『アルフェルス』から北東に続く王都への道にある『カギエナ』と言う街に繋がり、そこには検問所があると言う。

 そこを通過すると王都へは、一本の道しか無いとの事であった。


 黒の軍団が【】を通らなかったのは、人数のせいか、それとも他に何かがあるのか…。

 クラウトがライザの説明に少しばかり表情を強張らせながら考えていた。


 アサトらは検問を通る事は容易であるが、後続は無理の可能性が高い、そこで、『カギエナ』手前にある林に今では使われていない旧道があるようで、『カギエナ』を通過せずに王都へと進む事ができるようだ。

 一応、警戒は必要であるが、『カギエナ』の街が作られてから、そこを使うモノが少なくなっており、話によると、数十年は使われてはいないのではないかと言う事である。

 道が悪い事を考慮して、少々時間がかかるかもとの事であった。


 いずれにしろ、事を起こすのは、1週間後であるとの事であり、王都の西門近くの小さなため池で落ち合う事にした。

 到着した時には、王都の医者『カルファ』の診療所にライザが来る事で話はつき、出発することにした。


 馬を準備したアサトらが最初に出発をする。

 先頭をクレアとアサト、その後ろをクラウトとアリッサが就く形で進む事になった。


 馬車に乗っている一同を見ていると、馬に乗っているビッグベアが見えた、と言うか…。

 「使い捨て…になるかも知れないが…」

 アサトの表情に、声を発したビッグベアだが、仕方ないのであろう…。

 だが、馬も他の馬よりも少しばかり大きな感じがしていたが、ビッグベアを乗せるには、少しばかり小さく感じていた。


 セナスティが、一度、アサトを見てから小さく頭を下げて馬車に乗り込み、馬車の上にはケイティが胡坐をかいて座った。

 「あねさん!充電は大丈夫?」

 ライザの声に、クレアがポケットから四角い物を取りだして何かを見ていると、小さく頷いた。

 「あぁ~大丈夫だ!何かあったら連絡を!」

 その言葉に大きく手を振るライザの姿があった。


 …今のはなに?…。


 アサトが目を見開いてクレアを見ていると、その視線に気付いたクレアは小さな笑みを見せた。

 「あとから教えてあげるわ!あなた達にも必要かもしれないから」

 クレアの言葉にメガネのブリッジを上げたクラウト。

 「それじゃ…行こうか!」

 クラウトの言葉に進み出すアサトら、その後方でケイティが立ち上がり大きく手を振っていた。


 …じゃ、何日か後に!…。


 …アサトサイド…


 【死者を迎える者の道】は、本当に、岩場に細い木々が生い茂る場所を縫うようにある狭い道であり、単騎なら楽だが、馬車が1台通るのがやっとのような道であった。


 アサトらは、徐々に馬のスピードを上げて始め、処刑人が進み道ともあって、しっかりとした道であり、なんの問題なく進め、この状況なら、馬車も進めそうであり、よくみると2本の車輪が通っている跡が残っていた。


 2列で進むアサトらは、今夜は野営をして、明日には『カギエナ』に到着、そこを抜けて、翌日には、順調に行けば到着するとの事であった。


 【使者を迎える者の道】と言う事だけあって、周りは木と岩しかなく、見晴らしの良くない道であり、道の名前で敬遠しているのだろうか、人の気配も無く、小気味悪い道のようで、木々が生い茂る場所を通ったと思えば、大きな岩が転がっている平原を少し走り、また木が生い茂る場所を通り始めた。

 何度かそんな風景を過ぎていると、湖みたいなものが見え、小さな村の囲いが目についてきた。

 そこはマモノの村なのであろう、家と思われる建物が壊されているのが見受けられた。


 2時間おきに馬を止めて休憩をして、辺りが暗く、視界が分からなくなるまで進んでから野営をする。

 簡易的な野営なので、システィナが用意してくれた弁当を食べ、わずかばかりの焚き火を囲んで眠りにつき、陽が上がったら進み出す。


 昼過ぎには【カギエナ】の街の壁が林から見え、その林にある、獣道みたいなものを指さしたクレアを見ると、後続が通る道はコレのようだと分かった。

 確かに…放棄された道のようであるが、進んでいる形跡はあり、周りには監視をしているモノの姿は無く、知る人ぞ知る道のようであった。

 この道を知っているマモノが、ここを通っているのかもしれないと、クラウトはメガネのブリッジを上げて言葉にした。

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