ケイティとジェンスの覚悟 下
アサトらは、テントに入ってゆくタイロンをただ見ていた。
タイロン自体、人を殺した事があると言う事は、衝撃的な事であったが、それをひけらかす事も無く、今まで黙っていたのには、訳があるとアサトは思っていた。
言いたくないのか、言う必要が無かったのか…。
ただ思うに、タイロンの殺しは、彼が殺す事が好きであると言う意味ではなく、それは、この世界で生き抜くための事実であるに他ならない事なのだ。
命は尊い…。
以前に思っていた事である。
ゴブリンが住んでいる鉱山でも思っていた。
あれは…、彼らが住んでいる場所であって、アサトらは、その住処を襲った者なら…、彼らがアサトらを襲う事に正義であることを…。
タイロンの言った事を交えると、アサトらは生きる為に宝石を得るために鉱山に入った正義であり、ゴブリンが自分らの住処を守るための正義、それがぶつかって殺し合いになった…。
でも、第三者的に見れば、アサトらが略奪者であるのではないか…。
だが、あれは正義と言えば、成り立つ世界が、この世界である。
奪い、奪われ…。そして、死がある。
アリッサが言っていた『覚悟を決めなさい…』
その言葉は、この世界でもっとも必要な言葉であり、この世界を生き抜くために必要な事なのかもしれない…。
「ケイティ。ジェンス…」
アサトの言葉に視線を向けた2人。
「ジャンボさんは、僕の判断に間違いが無いと言っていた…。ぼくも王都へ行って、この世界、この国をどうしたいのかを王に訊いてみたいと思っている。その先には殺しがあるのかもしれない。君たちが少しでも…、僕の判断に間違いがあると思うなら、言って欲しい。」
アサトを見ていたケイティは、小さく顎を引き、ジェンスは夜空を仰いだ。
「間違っていないと思う、あたしも…、ただ…、アサトみたいに深くは考えられない。そこに正義…、正義って何?」
ケイティが俯きながら言葉にした。
その言葉に目を閉じたアサト。
「…そうだね。判断は難しい。僕は、このチームのリーダーだから、いつも道を示さなきゃ…って思っているけど、クラウトさんにまかせっきりで…、ごめんね…。」
「そうだな…、アサトは、リーダーっぽくない無いのは、みんなが分かっている。でも、メガネがやる気になっていると言う事は、お前の判断は間違っていないって思っているからだと俺は思う。ケイティのように…、ただ…、あの姿が、おっさんじゃなく、セラだったらって思ったら…」
ジェンスの言葉に視線を向けたケイティ。
「セラ?……」
「そう…、この国が、俺たちが何もしないで国を出て、この国に帰って来た時に、セラがいる所があるのか…って考えたら…。無性に不安になった…。おばさんもじいさんも…。もしかしたらいなくなっているのかな…って思ったら…」
「ネコ娘…」
ケイティが呟く。
「チャ子の場合は、アルさんやインサンが傍にいるから大丈夫だと思うけど…。でも、それは確実な事では無いと思うよ」
「そっか…、あの時のアサトの言葉が理解できた…。そうだね。」
ケイティはアサトを見る。
「…セラの帰る場所が無くなったら嫌だし…。ネコ娘も、あんなことされるのはイヤだ…。なら…おねぇさん的なあたしも、正義が湧くって事だね」
…それはどうなのか…。
小さく苦笑いを浮かべたケイティは立ち上がり大きく息を吸うと、横になっているソンゴを見た。
「…わかったアサト。アサトの判断は間違ってないね!行こう!王都へ!そして、妹たちを脅かすやつらを…ぶっ飛ばそうよ!」
…って、それグンガさんだよ……。
「あぁ~、狐の爺さんにも言われた、セラは俺が守るんだって!だから」
ジェンスも立ち上がりアサトへと手を差し伸べ、その手を見たアサトは、手を握り立ち上がった。
「行こう!王都へ!」
ジェンスの言葉に小さく頷いて見せるアサト。
横になっていたソンゴが大きなあくびをしながら起き上がり3人を見ている。
テントの中では、目を閉じているタイロンが小さな笑みを浮かべていた。
そして……。
2階の踊り場で、セナスティとアリッサ、システィナにセラが3人の姿を見ており、一階の処刑場入り口では、クラウトがメガネのブリッジを上げている姿があった…。
翌日……
「あっ…鼻血が出ている……」
食堂では、食事をとっているアサトらの姿があり、ライザにキャンディ、キエフの姿にメルディス、ポアレア、ビッグベアにセナスティの姿も見え、下着姿の上に白いシャツ姿でクレアが現れた。
その姿にアサトは頬を赤らめて視線を泳がせ、ジェンスは、目を見開き、口を大きく開けて、手にしていたパンを落としてしいた。
「あねさん。子供らには刺激強すぎ!なにか着てきなよ!」
ライザの言葉に鼻をこすりながらテーブルにつくクレア。
「鼻血…なんででているの?」
目の前にスープが運ばれてくる。
「ありがと!」
システィナに微笑むとスープをすすり、うっとりとした視線をアサトに向けた。
その表情に目を合わせる事ができないアサト、隣に座っているジェンスがパンを拾うと口に運び咀嚼し始めた。
「…あぁ~、セックスしてぇ~」
アサトを見ながらクレアが大きな声で言葉にすると当時に、目を見開いたアサトに大きく噴き出したジェンス。
「あぁ~、おっぱい揉まれてぇ~、吸われてぇ~、ぶちこま…」
腰をくねらせ、胸を上へと揉み上げながら言葉にする。
その姿に視線をテーブルに移したアサトとジェンスの顏は真っ赤になっていた。
ジェンスの隣のタイロンはもくもくとパンを食べ、クラウトはメガネのブリッジを上げている。
ポアレアとメルディスが興味津々な表情でクレアを見ており、目を大きく見開いたシスティナにセラ、アリッサは白い目を向け、セナスティも頬を赤らめ、ケイティは、なぜか眉間に皺を寄せていた…。
「はいはいはいはい…」
ライザがクレアの口を手で塞いだ。
「キエフ出番ヨ!」
ライザの言葉にスープを一気に飲んだキエフは立ち上がり、クレアの傍に進むとクレアを担ぎ、その場を後にし始めた。
その姿を見送る一同。
「あねさんは、酔った次の日はあれだよ、ごめんね…。」
ライザの言葉にキャンディが立ち上がり、クレアの部屋に向い始める。
「キャンディが懲らしめると…正気になって戻って来るから…。そしたら…行きましょう。王都へ!」
すでに時間は昼である。
午前中の内に遺体の埋葬を終えたアサトらは、昼食を取っていたのであった。
動揺しているアサトとジェンスを見て、ニカっとした笑みを見せているライザ。
「ちんこ…大きくしているんじゃない?坊や達?」
その言葉にピンと背筋を伸ばした2人。
その様子を見たライザは腹を抱えて笑い始めた。
「なにクラウト君。この子達、童貞なの?きゃははははは……」
その様子をメガネのブリッジを上げて見ている。
「…まぁ~、可愛い子がリーダーなのもいいね。あねさんが気に入るチームってのも納得したよ。さぁ~クラウト君。これからは、あなたの手腕を私たちに見せてね!期待しているわ!」
ライザの言葉に小さく頷くクラウト。
「はい…、期待に応えられるように努力します!」
クラウトの言葉に目を小さく細めたライザの姿がそこにあった……。
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