第3話 ケイティとジェンスの覚悟 上

 ライザの話によれば、彼女らが情報を収集し始めたのは、約2年前の事である。


 その時に、ギルドでクレアがアルベルトと会い、彼の噂を聞いていたクレアがアルベルトと口論となったのがきっかけと言うか…、前々からクレアは、アルベルトへ恋心を持っていたようであり、彼が夜の王討伐参加を目ぼしい者らに話をしていたが、クレアに話が無いとの事で、その口論が始まり、炎に何か見えたら言えと言われたようで、その時から情報収集と、炎との睨めっこが始まったようだ。


 ゴーレムの目を掻い潜ってトンネルを抜けて、何度も『ルフェルス』へと来ては、書物を漁ったり、目ぼしい者ら、ウェスタロスから逃れて来た者らを探したりしていたようであり、『ルフェルス』へ来ているのは、本業も兼ねてと言うはなしである。


 彼女らの得た情報では、ウェスタロスから逃れて来た者らは、死んだ者も含めて、1000人以上はおり、その中には、狐の爺さんとポドリアンの親父さんも含んでいるようだ。

 今も尚、その地域から人は流れてきているようであり、つい1年ほど前にあったウェスタロスから来た人の話しでは、ウェスタロスでは、今、内戦が勃発しており、また、北の地からはキナ臭い話…ホワイトウォーカーが壁を越えてきている話があがっているような事を聞いたらしい。

 その話をクレアがアルベルトに持ち出して見せたが、鼻であしらわれ、その夜はひどかったと笑っていた。


 …そう言えば、ナガミチが亡くなった翌日、集まった時に、アルベルトが言っていた言葉をアサトは思い出していた。


 …『俺も色々な街で商人から聞いていたが、どうも北の方ではキナ臭いうわさが飛んでいるようだ』と言うのは、もしかしてクレアさんから情報だったのかな……。


 ライザの話しを訊いたアサトは小さく笑みを見せた。

 「まだ色々聞きたいんですが…、確かに、僕は炎の中に死人の進行と青い目を持つ者らを見ました。これが誘われた…いや、愛されたのなら行くしかないと思います…。でも…、今は、」

 「そうね…、アルも行くなら大丈夫よ弟弟子君。あねさんは、見れないで終わりそうだけど……」

 クラウトが隣でメガネのブリッジを上げていたが、他の者らはキョトンとした表情でアサトとライザの会話を見ていた。


 それもそうであろう、夜の王討伐の話しはしていたが、今までみた炎の中の風景は、クラウト以外には話しておらず、また、ウェスタロスと言う国自体は、アサト以外は知らない。

 でも…。

 先ほど言った、今は…その話しではない事を考えていた。

 今は…この国の話しである。


 食堂のあるフロアーを中心に休む事にした。と言っても、タイロンはなぜか処刑場でテントの中で寝る事になった、何故かではないが……。


 夕食を終えたのち、フロアーにある部屋に、何人かにわかれて入り休む事になった。

 アサトはジェンスと共にである。

 クラウトは監獄長室で書物を読んでから休むと言っていた。

 システィナとケイティ、セラが1部屋であり、クレアのチームの女性陣が1部屋を使い、キエフが1階で休むと言う事である。

 ビッグベアが外に面している広場で、地べたに横になっている…と言うか、毛布を持って行けばいいのに…。

 セナスティは、アリッサと共に部屋に入った。


 ジェンスと共に、寝る前の修行を、煙がくすぶっている処刑場で行い、ソンゴを相手にケイティも修行をしていた。

 約1時間ほど汗を流していると、タイロンがエールの入っている壺を持って現れ、テントに入ると大きな鼾をかき始めた。

 夜空には、たくさんの星が瞬いているのが見える。

 くすぶっている煙を座って見ていた3人…。


 「…アサトォ…」

 ケイティが言葉を出し、その言葉に膝を抱えて座っているアサトとジェンスが視線を向けた。

 「…なんか…ピンとこないんだよネ…」

 「ピンと?」

 ジェンスが反応する。


 「うん…、ジャンボ言っていたけど、今度は、人を殺すって…」

 ケイティの言葉に沈黙が流れる。

 「…そうだね。前なら、なって言うか…僕らとは違う、異形のモノを狩るって感じだった…でも、それでも命を奪う行為だったからね…なんて言えばいいのかな…」

 「…グンガらは…、人殺した事が無い…。いや…いままで誰も殺していないって言ってたよネ」

 「あぁ~、そう言えば…」

 アサトは思い出していた。


 ミーシャが感心していた事である。

 『殺生は、モラルを逸脱する行為なんですって、自分の父親は保安官。グンガはこの世界で保安官になるんだって、だから、むやみに殺生はしない。参ったって言ったらそこで終わりなのよ。完結。まぁ~、あんまり行儀の悪い者はロープで縛って街とかに連れて行くけどね…』


 モラルを逸脱する…。

 確かに殺生は良くない事である。

 だが…。


 「確かに殺す事はよくなけど…、そう言って殺されているんじゃ…。クラウトさんも言ってたけど、今回の相手は殺しを職業といたモノが多いし、人間至上主義を正義と思っている人達が相手で、その相手すべてを言葉で…」

 「…だよね…」

 遮るケイティは呆然と前を見ている。


 その表情はかなり厳しい表情に見えた。


 確かに…、今回の戦いは、今までとは違う。

 それはアサトも重々承知している、だから…。


 「…だから…クラウトさんが言うように、極力争いにならないように…、クラウトさんに任せよう…」

 アサトの言葉に小さくため息をついたケイティ、その隣のジェンスも何かを考えている表情を見せていた。


 「俺は、人を殺した事がある!」

 後ろから声が聞こえる、振り返った3人の先には、タイロンが横になっていると思われるテントがあった。

 しばらくしてタイロンがテントから出てくると、入り口で腰を落とした。


 「正義ってのは、誰もが持っているモノだ。それを否定しては行けないと思う。正義と正義がぶつかった結果が殺しなら、止もう得ないとしか言えない。誰が好きで人を殺すか、マモノを殺すか…。俺は一度、襲われ…、止もう得なく殺した…。俺の持っている戦利品が欲しかったのだろう…。傭兵の時に組んだパーティーの一人だった。夜に忍び込まれて…。でも、俺は仕方ないと思っている。それは、俺が守るべきものであり、そして…。守らなければならない物だったから…。」


 タイロンの言葉に、息を呑んだアサトらは顔を見合わせた。


 「これが、この世界のことわり…、日常…。ただ俺が思うのは、今回のアサトの判断は間違いではない…。だから、俺は同じ人種を殺す事ができる」

 エールを口に運んだタイロンは、小さく笑うとテントへと入っていた。

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