同種族を相手にする現実 下
「そうだね…、ジェンスの言う通りなのかもしれないね…。私も、あの状況を見たら、何て言うか……」
「男なら言った言葉に責任を持ちなさい!」
ケイティの言葉を聞いたアリッサは、強い口調でアサトへと言葉を放った。
アリッサを見ると、その表情と仕草は、彼女が何を考えているのかが分かり、アサトは小さく頷いて見せた。
ミュムの街で話した時の事を、そして…、仲間を信じる事を…。
「ありがとう…そうですね。殺す事になるかも知れないけど、その前に確実にしなきゃならないと思っています。…今の王は、どういうつもりでこの国を治め、人間至上主義を掲げているのか…、僕の考えにそぐわないのなら…この国を…セナスティさんの家の元に帰す手助けをしたい。そして…その為に殺しがあるのなら、納得できるし、みんなにもしてもらいたい…」
「ばぁ~か、最初からそう言うつもりだよ、おれは…」
エールを口に運んだタイロンの姿があり、となりのアリッサは小さな笑みを見せ、セラは何かを考えているような表情で肉を眺めており、ジェンスは座り、ケイティはフォークの先についている肉を頬張り始めた。
視線をシスティナに向けると、彼女も小さく頷いており、クラウトはメガネのブリッジを上げていた。
「いいね…こう言うのも」
ライザが言葉にしてエールを飲み、コップをテーブルに置いた。
「それじゃ…クラウト君。どうするつもりなの?」
ライザの言葉に小さく頷くクラウト。
「とりあえず、王都へ向かい、情報を集めたい」
「情報はあるは…、いらない情報もね…」
「…なら…、」
クラウトは一同を見た。
「今、ここで目的をはっきりさせる事は容易では無いが、現状から言って、今の王の考えは、私たちのチームは賛同できないと言う事で、意見を一致させておきたい。」
その言葉にケイティがクラウトを見ると、隣のセラも視線を向け、アリッサは小さく頷き、タイロンはエールを飲み始め、システィナはアサトを見て、アサトは…、小さく頷いていた。
その動きを見たクラウトは、セナスティを見る。
「極力、戦闘を避けた方法を考えているが、この事だけは、はっきり約束はできない、だから…、その時が来たら覚悟を決めてもらいたい。私たちは、正義の為に自分らの技量を使い、同族と殺し合う覚悟を…、そして…、今までとは違う、歴戦の者ら、戦いを仕事としている者らが相手である事も考慮しておいてもらいたい…。」
クラウトの言葉に小さく息を呑んだアサト。
極力戦闘は避ける問い事に期待が膨らんでおり、それができるのはクラウトである事も分かっている。
『オークプリンス討伐』の時も、後作業をこなしてくれたクラウトの存在には、脱帽だったが、今回のような大きな事案には、必ず必要な者と改めて感じ、心強く思えていた。
「ただ…」
セナスティを見るクラウト。
セナスティは小さく瞳を開け、向かいのビッグベアは目を細めた。
「前にも言いましたが、この事案は、我々一国民がどうこうできる事案ではありません。最後は…皇女。あなた次第です。我々は、あなたに手助けをするだけで、この国の転覆を狙っている訳ではありません。その事を、しっかりと覚えておいてもらいたい…」
クラウトの言葉に小さく顎を引いき、少し考えてから小さく頷いて立ち上がった。
「確かに…、この事案について、パイオニアのマスター、アイゼンさんや、兄と慕っているロイド兄さんにも言われました。…だから…、すべての責任は私にあり、皆さんの力を借りたいと思います!」
言葉を発したのち、大きく頭を下げた。
その様子を見ていたクラウトはメガネのブリッジを上げながらライザを見ると、ライザは小さくため息をつきながら、横でうつ伏せになっているクレアへと視線を移した。
「あねさんは、大丈夫。」
「なら…作戦は、王都へ行って、情報を精査したのちに、みんなへと知らせる事でいいかな?」
その言葉に一同が小さく頷いて見せると、メルディスが立ち上がり窓へと進み出し、その行動を一同が見ている。
メルディスは窓辺に着くと口笛を鳴らしてから、一度、部屋にいる者らを見渡し、何かの物音に窓を見た。
そこには、翼を持った小さな人間がゆっくりと窓辺に立った。
その人間は、体長が50センチ程で妖精に似ているが、翼は黒く靄のような形になっていない翼を持っている、と言うか、ミュムも同じ翼を持っていたと思い出したアサト。
メルディスはその人間に話をすると、翼を持った人間は、靄の翼を羽ばたかせて小さく浮き、こちらに背をむけると飛び立って行った。
その姿を見送ったメルディスは振り返りニカっとした笑みを見せる。
「街に連絡をした」
「今のは?」
たまらずにアサトが訊いてみる。
「あぁ~、今のは小人族の者なんだけど、ミュム様のご加護で、翼を授かり、伝言者となったんだ」
「伝言者…っていうか、今のは小人?」
ケイティが目を輝かせている。
…ひめぇ~~…。
「あぁ~、彼は足が悪いんだ。歩けない事は無いんだけどな。翼を授かって、行動範囲が広くなったって感じだな…。おれが街に来た時には、彼みたいな者はたくさんいた。遠征に出る時には、一人に一人つく形でいるんだ」
「…なら、一緒にいても良かったんじゃ…」
「それはそうだがな…、不測の事態と言う事があるだろう?俺が殺されたら…、彼が街に知らせる。って感じだよ」
「へぇ~~」
なにやら納得しているケイティであったが、目はメルディスではなく、窓の向こうを見ていた。
…ってか、ヒメェ~~。
「ところで…」
タイロンが言葉を発した。
一同が見る。
「あの黒いモノの正体は分かっているのか?どう見ても死人にしか見えない…。」
「呪術だと思うわ。」
ライザがエールを煽る。
「呪術?」
「そう…、死人を生き返らせる事は出来ないけど、死人を動かす事は出来ると聞いたわ。そして…、死人を蘇らせる事も…」
「え?生きかえると蘇るは…違うんですか?」
アサトの言葉にエールを口に持ってきたライザは、一口飲むと視線をアサトへとむけた。
「あねさんのライバルが夜の王を討伐に行く…、弟弟子のあなたも向かうんでしょ?」
その言葉に目を見開いた。
…ライバル…って、アルさん?
「生き返ると言う事は、本人その者であり、蘇るとは、本人ではないのよ…。」
「え?」
「覚えておきなさい。あねさんも夜の王討伐に行くつもりで、色々情報を探っていたの…っていうか、私たちが探っていたんだけどね…。夜の王は、死者を蘇らせる事ができるの…。北の国では、その者を、
「…ちょっと待ってください。その情報は…」とアサト。
「情報?」
「はい…なぜ、知っているのですか?」
ライザにアサトが訊く。
「私たちは諜報を主に活動しているのよ、この国にもウェスタロスから逃れて来た者らが過去にごまんといるの、その中には、夜の王や死の軍団と遭遇した人もね、その人達が書いた書物もあるのよ…」
「…亡者…死の軍団…夜の王…アルさん…」
「ふふふ…。炎を見たら何かを見た?」
ライザが悪戯っ子のような視線を向けて来た。
「え?」
小さく驚くアサト。
「ははぁ~ん。それは見えた口だね。あなたも炎の神に愛されたって事だね……」
「炎の神?」
アサトの言葉にライザは小さく笑みを見せた……。
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