第2話 同種族を相手にする現実 上

 「それで、アサト君。あなたは本当に王都へ向かう気なの?」

 クレアの言葉に小さく息を呑んだ。


 見つめている視線は前にも感じた事がある。

 その視線には嘘がつけない、アルベルトのような冷ややかな視線とは違う、何かを纏ったような、独特な感情を持ったような視線であり、その視線から逃れるために、思わずうつむいて視線を外してしまった。

 「はい…とりあえず…」

 「とりあえず?」

 クレアの言葉に目を見開いたアサトは、クレアを見ると…。


 ……え?もしかして…酔っているの?。


 真っ赤な顔に先ほどとは違う、うっとりでは無く、座った視線で見ている…。


 …え?…えぇ?…。


 「まぁ~、あねさんは、姉御肌なんだけどね…、お酒には弱いから!」

 クレアの隣に座っていたカーリーヘアの女性がエールを口にする。

 「…そうなんですか…」

 「うんうん…それで、君は本当に行くの、王都へ?」

 「はい…」

 「あぁっ、ごめんごめん。私はライザ。そして、あっちの大きい女が、キャンディ。男がキエフ!よろしくね!」

 肉を頬張り始めたライザはニカニカした表情を見せた。


 「あ…はい、それじゃ…」

 アサトも一通り仲間を紹介した。

 セナスティとビッグベアの紹介が終わり、メルディスらもとりあえずに自己紹介…というか、名前を名乗っていた。


 ライザの横で倒れ込んだクレアを見ているライザは、アサトへと視線を向ける。

 「あねさんは、いつもこうなんだ。アサト君らには、クラウト君って言う作戦参謀がいるみたいで、うちには、私のような情報収集能力に長けているモノが存在するって覚えておいて!…それで?行くの本当に!」

 ライザの言葉にクレアを見ながら小さく頷いた。

 クレアはすでに心地よさそうな寝息を立てている。


 「そうなんだ…それで?クラウト君は、もう既に頭の中で描いているんでしょ?」

 その言葉にメガネのブリッジをあげたクラウト。

 「はい…、とりあえず、ココに来るまでに4つほど考えておりました。」

 「4って…」

 アサトが小さく言葉を漏らす。


 「すまんな。みんなには言ってなかったが、アイゼンさんから言われていたんだ。この国を出る前に、もしかしたら…って事を…」

 クラウトはアサトを見ると、遠くから大きなため息が聞こえて来た。

 タイロンである。

 「まぁ~、アサトは、なにかにつけて厄介ごとを引き受けるしな…」

 タイロンを見て恐縮する。


 「それで?」

 ライザがクラウトを見た。

 「はい…4つの内、目的にもよりますが、必ず必要な人物がおります」

 「必要?」

 アサトが訊く。

 「そう…、この事案に関わるからには、こちらに必ずその駒が必要なんだ。」

 クラウトの視線は、アサトから隣のセナスティへと移った。


 「わ…たし?」

 クラウトの視線に目を見開くセナスティ。


 「そうです。アサトがもし、この事案に手をかける気になった時に、最初に始めなければならない事が、皇女を探すところから始めなければならなかった…と言うか、皇女が現れて…この事案に手をかける事になった…」

 「そうなんだ…それで?」

 興味津々な表情でクラウトを見るライザ。


 「はい…駒は揃いました…、あとは、どれをどう使うかです」

 「そう…なら、私たちも使いな!クラウトくん」

 「え?」

 小さく驚いたクラウト。


 「『クレアシアン』では、私たちは、キエフ以外は何もしてなかったのよネぇ~、ほんと、何て言うか…あれだよ…あれ…」

 「あれ?」

 アサトが訊く。


 「そう…なっていったっけ…意気消沈?」

 「消化不良…」

 システィナの言葉に大きな笑みをみせたライザ。


 「そう、それそれ!」

 システィナに向かって大きな笑みを作って指を立てた。

 「それに…あねさんはアイゼンさんからも言われていたみたい…」

 「なんて?」

 タイロンの声が聞こえる。


 「…アサト君らが動いたら、『パイオニア』として行動をしてもらいたいと」

 ライザの言葉に、顎に手を当てて考えている表情をみせたクラウトの姿を、一同が見ている。と…


 「そうか…なら、俺たちも行くよ!」

 メルディスがエールのカップを上げて見せる。

 「え?」

 アサトは小さく驚いた表情でメルディスを見た。


 「動くなら、ミュム様に連絡を入れなきゃな…それに…ロジアンにも…、って言うか、動くって言われたし、動いたら…王都で会おうって伝えておいてくれって言われてきたんだ…」

 「動く…?」

 アサトがメルディスに訊くと、小さく頷きながらエールを飲み始めた。


 「それじゃ…、4つあるうちで一番効果のある方法をとる事にしよう…、使える手駒は多い方が良い。…そして、後は皇女の考え方次第で、アサトの考え方次第だ…」

 クラウトの言葉に、見合ったアサトとセナスティ…。


 「わたしは…この国を元に戻したい…、平和で争いの無い国に…」

 「そうですね…僕もそれがいい…」

 「簡単に言うなアサト」

 タイロンの声に視線を向けると、エールを煽っているタイロンが、カップをテーブルに置いた。


 「さっきも言ったけど、今度は人を殺す事になるかも知れない!俺はいいが、お前らには覚悟はあるのか?」

 タイロンの言葉にフォークを止めたケイティの姿があり、またジェンスも俯いた。

 その2人を見ていたアリッサは小さく悲痛な表情を浮べている。


 考えて見れば、人を殺す事になると言われ、それでもいいと答えたが、実際、その時にならなければわからない事である。

 ゴブリンやオークは殺せたからと言う、安易な考えで対応できる事ではない事は分かっている…でも…。


 「覚悟を決めなさい!わたしは、あなたがやると言うなら、やるわ!それには必ず正義があるって信じている…」

 アリッサの声が聞こえ、しっかりとした視線でアサトを見ていた。

 アリッサの言葉にケイティとジェンスも、アリッサを見てからアサトを見た。

 不安そうな表情であるのは確かである。

 リーダーとしての決断であり、選択である。


 選択……。


 思い出した、ロスの言葉。

 『…近い未来、あなたは最良の選択をするわ…それは…。多くを救う選択を…』

 この事なのだろうか…。

 どうなのだろう…。


 「アサト、お互い覚悟を決めようぜ!お前が行くと決めた時から、俺たちは、…いや、少なくとも、俺は、お前の言葉に正義があると思っている。その正義の為なら、俺は…悪を斬る!」

 ジェンスが立ち上がった。

 隣のケイティはジェンスを見上げてからアサトを見た。

 その表情は……。

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