第12話 決戦前夜と決戦当日の朝 上
手紙を書いたセナスティは、買い物から帰ったクラウトと話をしてから、再び手紙を書き直し、クレアの仲間のウルドとラニアに託した。
手紙の内容は、事の事情を説明し、王都での戦をしない事と王都周辺で軍を止めて、セナスティを待っていて欲しいと言う事であった。
クレアが二人に何かを言っているが、ウルドとラニアの表情は、相変わらず半目で、眠そうなのか、同じタイミングで大きなあくびをして見せ、緊張感の無い空間を醸し出していた。
ちょっと呆れた表情のクレアだったが、馬に2人が乗り、走り出して行くと、アサトらへと親指を立てて見せている。
…ってか、本当に大丈夫なの?
「彼が…、私の知っている人ならいいのだけど…」
セナスティが、小さくなってゆくウルドとラニアの姿を見て小さく言葉にし、その様子を一緒にアサトが見ていた。
クラウトの計画の概要が伝えられたが、みんなの意気込みと、ここでも何もしないわけには行かないと、クレアが声を上げ、クレアとライザ、キエフも加わる事が決まり、コウレナは馬車を守る事になった。というか、誰かが馬車を守らなくてはならなく、とても貴重な品々があるので、それなりに腕の立つ者が守って欲しいと言う事である。
ただ、コウレナは拒否していたが、最終的には、ミュムとロスに宥められ、しぶしぶ馬車を守る事になった。
今回は、イモゴリラは使わない。それは……。
色々あったが、話し合い、少しばかりの修正を得て、各々の役割を決めた。
その内容はこうである。
クラウトがフーリカの商人で、アリッサが妻の役。
アリッサの妻役にクレアが反論したが、クラウトに、冷ややかに却下された。
ライベルとクラウディス、ライザ、そして、ロイドが兵士の役である。
兵士の装備は、ロイドに宛があるようで、明日の朝までには用意するとの事であり、ロイドを先頭に進むと言う事である。
セナスティとビックベア、セラが捕虜の役で、兵士の役の者がその鎖を持ち、アサトとジェンス、タイロンとキエフは使用人の役で、メルディスとポアレアが奴隷の役である。
コウレナが馬車の番になったのは、奴隷役には出来ないと言う事でもあり、使用人と奴隷役の6人で、クラウトが用意した箱を2人で1つ持つと言う事である。
箱の中身は、武器と高価そうな壺であった。
全員の武器や防具を3個の箱に分けて入れ、上蓋をして、高価そうな壺を一つずつ入れた。
重量は、思ったより…重い……。
ここに持って来た時は、ほとんど空で、荷車に乗せて来たので、なんとも思わなかったが、装備品を仕舞い、壺を入れると、思ったよりも…と言うか、かなり重かった。
その箱をちょっとだけ手にしたジェンスが、眉間に皺を寄せていたが、何を言いたいのか…、…分かるような気がする。
…まぁ~、人数や配役から言っても、仕方ない事だとアサトは思っていた。
話を戻す。
ケイティとシスティナ、クレアが侍従の役で、ロジアンとロスは賢者の役であり、従事のクレアもジェンス同様に、眉間に皺を寄せていたが…
…ここは触れないでおこう…、っていうか、ロジアンさんとロスさんの賢者って…。
2人とも麻でできた外套を羽織り、フードを目深に被って角を隠すと言う、見つかっても、フーリカの民である事を伝えれば、何とかなると思うと言う事であるが…。
…ほんとに、それで大丈夫なのかな…。
クラウトが、フーリカの商人を装うと言う考えが、ここにあるようであった。
最初から、セナスティを連れて城に行っても、セナスティらを奪われた状態で、終わる可能性があり、また、王と話したいと言っても、そこで人情事になる可能性も捨てきれない。
フーリカの商人を装い、貢物を持参して、これからの貿易を優位に進めたいと思っている事と捕虜を受け渡し、話をしたいと言えば、会える可能性があるのではないか言う事であった。
フーリカと言う大陸は、この地でも有名であり、輸入や輸出でも多くの度合いを締めている。
簡単に門前払いは出来ないはずであると言う事であり、ちょうどフーリカから来ていた商人から、フーリカの国の紋章…みたいな、薄茶色になにかの木が小さく描かれているスカーフを買っていたようだ。
そのスカーフを一同が身に着けると言う事である。
…まぁ~、フーリカの国旗ってよくわからないからな…っていうか、ほんとにこれで大丈夫なのかな……
少しだけ心配したが、クラウトの話しだと、首都の紋章であるようだ、土産物として売られていると話していた。
…信じるしかないね…
ロイドを先頭に、ロジアンにロス、クラウトとアリッサ、その後ろに、セナスティとビッグベアにセラ、その鎖を持つロイドの仲間とライザらは、ロイドの用意した兵士の装備をする。
アサトらが貢物を持ち、その後ろに侍従の役のシスティナらが就く状態で、中に入ると言う事であった。
中に入らない者らは、ロイドの仲間のジュディスがロイドの父親の軍、キャンディがセナスティの軍、ミュムがジア・ドゥの軍を城の手前で止め、ウルドとラニアが向かった軍も城の手前で止め、コウレナが馬車を守ると言う事である。
なぜ軍を城の手前で…、と言うのは、この計画が破綻した時には、ミュムを総大将として、4つの軍を使い、王都を制圧すると言う事であった。
その件は、ミュムからの提案であり、セナスティもミュムの考えを聞いた。
ミュムは、前国王の考えを支持していると言う事であり、王都を制圧して、この国の王になり、人間至上主義を排除した後に、新政権では、官僚クラスには、人間族やマモノに属する者を均等に配置して、相互の理解を含めて、争いのない国を作ると言う事であった。
その話を信じるには、時間がかかるかも知れないが、それを確認するための時間は無い、言葉だけだが信じるしかないと、セナスティは、一つだけ彼に同意を求めた。
それは…、
罪も無い者らを殺さないと言う事である。
それは、王都の住民であり、この国の民である。
ミュムもその事を理解し、攻めるにも無差別はしないと約束をし、少しだけ迷っていたセナスティだったが、アサトが彼女の背中を押した。
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