動き出し始める、各々の想い 下
「なんかあったみたいだね。レア、おねぇ~ちゃんが、ちゃんと守ってあげるから…」
その言葉に、ケイティの体に顔をうずめるレアの姿に目を潤ませ、ニンマリした表情を見せると、システィナの視線に気付いて移動させた。
そこには、優しく微笑んでいるシスティナの表情があった。
「わたしが見てくる…」
システィナの言葉に小さく頷いたケイティ。
システィナが立つとセラも立ち上がり、向かいにいたライザも立ち上がって、馬車後方の扉に向かって進み出した。
馬車を降りたシスティナとセラ、ライザの目に入って来たのは、治療を終えたビッグベアの巨体であった。
「ロス…さん?」
システィナの声に視線を向けたロス。
その後ろにロジアンが歩み寄って来た。
「ロジアン。どうしてここに?」
メルディスが馬の上から訊く、その言葉に視線を上に向けたロジアンは小さな笑みを見せた。
「ロスが、行かなければと言いおってな…」
「ミュム様は?」
ポアレアが訊く。
「ミュム様は、お前たちの報告を聞いてすぐに飛び立った。地方の状況を見てから、王都へ向かうと言う事である。とりあえず、使い猿の報告だと、明日の夕刻には王都へと着くそうだ。そこで落ち合おうと言う事である」
「使い猿?」
システィナが驚いた表情を見せた。
「そうだよ、お嬢さん。我々は、使いフクロウとサル。そして…妖精を使って連絡を取り合っているんじゃ…」
「そうなんですか……」
納得しているシスティナに、ゆっくりとした足取りで近づいたロスは、傍に立っていたセラへと進んだ。
「…」
セラの前に立ったロスは、大きく見開いている瞳を覗き込んだ。
その光景を一同が見ており、同じくらいの身長なので、視線の高さも同じで、しばらく見合った両者であったが、何かを納得した表情になったロスは、セラの手を掴んだ。
「大丈夫…あなたも正しい事をする…。」
「正しい事?」
セラの言葉に振り返ったロスは、ロジアンを見た。
「確認した。戦場は王都…。私たちも行きましょう!」
その言葉に目を細めたロジアンは、小さく頷いて見せ、心配そうな表情のシスティナがセラの肩を抱くと、小さく見上げたセラ。
「そろそろ行くぞ!時間がもったいない!」
タイロンの言葉に、一度、タイロンを見たシスティナはロスを見た。
「馬車に、どうぞ…」
システィナの言葉にロジアンを見たロスは、彼の反応を伺い、笑みを見せて小さく頷くのを見たロスは、セラを見てからシスティナを見た。
「乗せて…もらう…」
ロスの言葉にシスティナは笑みを見せて、セラとロスを連れて馬車に乗り込み、ロジアンとコウレナは、近くに繋いでいた馬へと進み出した。
ライザが馬車の上に登り、ケイティの代わりに見張りを始め、その場に胡坐をかくと星空を何度か叩いた。
「さぁ~、行こう!王都へ!」
天を仰いだライザが声を上げ、座っていた馬車の屋根を小さく叩いて言葉を発した。
時間はすでに夜更けを回り、翌日の時間となっていた……。
…ジア・ドゥの軍…
直径1キロほどの範囲で、各々好きな格好で横になって休んでいるマモノの群れが、王都から1日と思える距離の場所にあり、拓けた場所を選んで休んでいる群れには、何台かの馬車も見受けられていた。
その王都側の先端にある小高い丘の上には、少し大きめの岩があり、その岩の上には、緑色の肌を持った巨漢が、腕組みをしながら王都方面を見ており、その岩の下には、少女が巨漢の者を見上げている。
「おにいちゃん…。」
その声に体勢を変えた。
巨漢の者の周りには、少女の他にも、数10名おり、そこには、何人かのイィ・ドゥの姿や人間族と思われる者の姿、オーガやオークの姿もあった。
月の光に照らされている姿は、ぼんやりと彼らの姿を浮かび上がらせており、その光景は、獲物をねらうマモノの様相を見せているようであった。
「もう少しだ…。早く終わらせよう…」
声が聞こえる。
岩の上から聞こえてくる声は、大人の声では無い少年の声で、巨漢には似つかわしくない声であった。
巨漢の者が体勢を少女から、見ていた方向へと変えた。
「サリ。もう少しだから…。頑張ろう…」
少女は胸に抱いている人形を強く胸に押し当て、小さく頷いた。
「うん…。早く終わらせて…。帰ろっ。」
サリの言葉に、少し間を置いてから聞こえてくる。
「うん……」
その光景を見ていたミュムが目を細めた。
「ロンド…、あそこに見える集団の中に、ジア・ドゥがいるんだね」
紫色の肌で、頭に大きな角を2つはやしている男が小さく頷いた。
「ただ…誰がジア・ドゥ…なのか…」
ミュムは見ている。
数10人いる姿は、大きさがさまざまであり、マモノの集合団体のように見えていた。
月明かりのせいかもしれないが、外殻は分かるが、その者の実態自体が分からない。
「…参ったね。大きいのがジア・ドゥと訊いていたが、とりわけ群を抜いている者の姿はいないし…岩の上にいる者が、そうなのか、そうでないのか……。見た感じ……。」
「どうしますか?」
集団を見ていたミュムは、岩の上に立っている巨漢の傍にある小さな影を見て、少し考えた。
…あれって……。
「仕方ないね。ロジアンにも連絡したから、明日は王都へ…。この軍も王都を目指しているようだから、そこで確認するよ…。アサト君らの時の二の舞は恥ずかしいから……」
「…?」
ミュムを見たロンドは、視線を岩の周辺に集まっている群れに向けて目を細め、考えていた。
…恥ずかしいって?……。
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