第33話
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王城内に設けられた巨大な闘技場。それは王城の中腹付近に存在し、王城から突き出るような形で存在している。
王を守る騎士ならば決して王のもとから離れず、守り続けなければならないという教えがある為、このような奇妙な王城が出来上がったのだ。
また、騎士の部屋の他にも従者の部屋も存在する為、王国の王城は他国と比べても大きい。
そんな王城の闘技場で、異世界から転移されてきた高校生達は剣を振り続けていた。
「うむ、そろそろ休憩してくれ!!」
彼等の指導をしているだろう髭面で筋骨隆々の男、嘗て王国の勇者として、聖剣を片手に魔国との和平を結びつけた英雄は持っていた剣を地面に突き刺して生徒達に休憩するように伝える。
「ふぃー、なぁ、カイドさんよぉ。俺達それ相応の実力はあるんだし、剣の素振りなんてする必要なくねぇか?」
怠そうに剣を落として地面に座り込むのは耳に金のピアスを付けている不良少年の
「そうだな。正直に話せば君達に教える事は殆ど無いのだ。神崎と榊原は既に私以上の力を持っているしな。
そんな君達に多くの戦場を駆けてきた私から教えられるのは、基本を続けるという事だけだ」
「はぁはぁ…、それになんの意味が?」
一ヶ月前、ゴーラ帝国の襲撃に対して土壇場で加護の能力を覚醒させ、ゴーラ帝国の異界者、そのリーダー格である雨傘千里を打ち破ったことにより、英雄と呼ばれるようになった神崎誠は、茶髪で気の強そうな目付きをする
「君達はこれからどんどん強くなるだろう。しかし、君達と同様に敵も強くなる。そうなれば、君達が追い込まれる事もあるだろう。
追い込まれると人は不安になる。攻め方が悪いのか、自分の力では通用しないのか。それが冷静な分析から生まれたものならば良いが、不安から生まれたものならば戦闘に迷いが生まれ、動きにキレが無くなり、冷静な分析もできなくなる。
そうなった時、基本に立ち返ることで迷いを打ち消すんだ。
何故なら、基本とは全ての型の基礎であり、それは決して打ち崩せるものではないからだ」
「なるほど、それほど基本は重要ということですね」
「あぁ、しかし私自身、そのことに気づいたのは遅かったな」
「ん、そうなのか?」
「私と共に旅をした勇者一行の一人、ルーベル・ティバレルという男に教えられた。あの男こそ、全戦闘者が模範すべきバイブルだよ。
彼と戦うと基本的な動きというものが如何に打ち崩すのが難しい万能な型であるのかがよくわかる」
「へー」
神崎はよくわかっていないのかポカンと口を開けている。榊原も理解はできるが微妙といった顔だ。
「ふっ、まぁ奴の実力は戦ってみなければわからないからな」
「なぁ、そのルーベルってのは何処にいるだ?」
「私にも分からん。スーリエが処刑されたあと、姿を消したよ。ルーベルとスーリエは仲が良かったからな。スーリエの処刑に納得していないのだろう」
カイドは昔を懐かしむように目を閉じたあと、剣を引き抜いて、皆に仕事に戻ることを伝えて闘技場を去る。
「よく考えるとカイドさんって今は加護持ちじゃないんだよね」
「そうだな。それであの実力なんだから、相当努力してるんだろ」
「しかも今が全盛期じゃないんだよね」
「勇者として戦っていた時の加護持ちのカイドさんか。…化け物みてぇに強そうだな」
二人は苦笑いを浮かべながら汗を流すために闘技場を出て王城へと入る。
「……そう言えばもうそろそろでしたね」
「何がだ?」
「ルドルフィック学園の入学ですよ」
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「今更やけど…」
「ん、なんだ?」
王城の一室、煌びやかの装飾が施された、教室の一室ほどはある部屋のキングサイズのベットで寝っ転がっているリエナに対して
「スーちゃんのこと、探さなくてええの?」
一ヶ月前のゴーラ帝国の襲撃以降、霧島水は姿を消した。雨傘千里と戦った場所にも宿屋にも居らず、完全に消息を経ったのだ。
雨傘千里との戦闘で死んだとは思っていないが、それなら、リエナは霧島水を探しに行くと
「少しだけ出掛けると書き置きを残していただろう。あれから一ヶ月経つが、私は戻ってくると信じている」
「何処かで女性と仲良くしてるかもしれへんなぁ」
「ふっ、その程度で嫉妬するほど私は子供ではないよ。まぁ、帰ってきた時には埋め合わせとして数日間は寝室に閉じ込めるがな」
(あー、これは目がマジやなぁ)
瞳をどんよりと濁らしているリエナに
「それにしても、どこに行ったんやろねぇ」
(スーちゃんは自分が過去にこの世界で生きていたスーリエであることを隠してる。でも、それが理由で離れるっていうのは今更やし、可能性としては薄いように感じられるんやけどなぁ)
「はぁー、それより、ようやくあの人間共は学園、というところに行くのだよな」
リエナはベットでうつ伏せに寝っ転がりながら足をぱたぱたさせる。
「せやなぁ。この世界の事とか魔法のこととかを知るなら学園にいた方が何かと都合がええしなぁ」
「……宿屋に戻るか」
「ふふっ、王城での生活は飽きたん?」
「あぁ、一ヶ月過ごしてみたが、私にはギルドで依頼を受けて生活する方が性に合っている。もちろん本来の姿で森の中を駆け回るのも好きだがな。
それに、スイは本格的に探そうとは思はないが、ギルドにいれば噂ぐらいは聞こえてくるかもしれん」
「信頼してるんやなぁ」
「あぁ、妻とはそういうものだ」
「いつの間にか結婚してはるわ」
「ほんま、どこいったんやろなぁ」
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