第31話


▼▼▼


 戦闘は苛烈を極めていた。神崎の離脱によって王国の異界者達は勢いを失い、ジリジリと下がり始め、カイドは黛仁をギリギリで押さえつけている。

 このままでは時間と共にゴーラ帝国の異界者に押し潰されるだろう。


 そして、災厄は続く。


「あれ、意外と時間が掛かってるね」


 洞窟の入り口から栗色の頭をしたブレザーの学生服姿の男が現れる。


「雨傘…千里」


 その危険性を知るリヴァイアズル帝国の異界者二人は冷や汗を流しながら武器を構える。


「やぁ、久しぶりだね。まさか君が王国と関係を結ぶとは思わなかったよ」


「テメェを相手にするならそれなりの準備が必要でなぁ!」


「ふーん、確かにね。でも、此処で終わるんだから無意味な努力だったのかな?」


 雨傘は笑みを浮かべながら乱入者であるリエナと東に目を向ける。


「彼は死んだよ。流石に、俺の本気の魔法をぶつけて生きているとは思えない」


 その一言に、リエナ静かに殺意を周囲に振り撒く。魔力の濃度が増し、溢れ出した魔力を受けた者は敵味方関係無く、重力が数倍に膨れ上がるような感覚を受ける。


「凄い魔力だね、これは、ただの獣人じゃなさそうだ」


 雨傘は背後に五枚の魔法陣を展開させる。それを見た黛仁は戦闘の余波が来ると判断し、仲間達を下がらせる。


 「試しに、これくらいかな?」


 展開された魔法陣から巨大なビームが飛び出しリエナを狙い撃つ。しかし、リエナはただ拳を構え、ビームが着弾する瞬間、ビームを殴り付ける。


 全身を打つ衝撃が洞窟内のドーム全体に響き、洞窟全体が揺れる中、リエナは油断なく雨傘を睨みつける。


「魔力を纏うだけで俺の魔法を相殺できる馬鹿力…」


 まさか相殺されるとは思わず、冷や汗を流しながらも冷静さを取り繕う。


「これ以上の魔法は洞窟が潰れちゃうし、まぁでも、人数差もあるし、問題ないね」


 雨傘は周囲に魔法陣を展開しながら、黛仁の方へと視線を向ける。


「茶番は終わりにしよう」


 仲間の努力を茶番と評し、この戦いを終わらせるために、雨傘は魔法陣を王国の異界者達に向ける。

 カイドが魔法の行使を止めようと飛び出し、リエナが突進するが、無数に展開される魔法陣とそこから生まれる魔弾によって雨傘に近づけない。


 その中で、機を伺っていた真司がカイドの背後から現れ、剣を構えて飛び上がる。


「無駄だね」


 一瞬で展開された魔法陣から火球が飛び出し、真司の半身を焦がしながら地面へと吹き飛ばされる。


「この魔法はさっきの数倍細いビームだけど、触れたら危ないから、頑張って逃げてくれ」


 雨傘はにこりと笑って周囲全域に魔法陣を向ける。


「さぁ、この幕引きを俺達の願いへの第一歩としようじゃないか!」


 展開された魔法陣が輝き出し、無数のビームの光りがドーム内を照らす。

 騎士達は統率の取れた行動でカイドの指示に従い、洞窟の端で盾を構え、魔法で障壁を生み出し、王国の異界者達を守る。


「カイドッ!この障壁はどれくらい持つんだっ!?」


「わからん。だが幸いあの魔法はドーム全体に向けられているため障壁に当たるビームは少ない。少しの間だけなら君達を守れるが、最高でも五分が限界だろう」


 水橋修が敬語も忘れてカイドに問うが、カイドは重苦しい口で現実を告げる。


「…不味い、状況、よね?」


 寺島美紀は身体を恐怖で震わせながらも、なんとか耐えながら立っている。しかしとても戦える精神状況では無い。それは気丈に振る舞う水橋修も同じだ。


「チッ、何時でも逃げる準備はできてた。例え加護の能力を解放できなくても、この戦闘で得られる経験は多かった。

だが、一人削られ、雨傘も来たんじゃあ不味い」


「だね。流石に俺だけじゃ雨傘の魔法全てを捌けない」


「雪斗、テメェが耐えるとして、どのくらい稼げる」


「少なくともこの障壁の倍以上は稼げるよ。でも、それだと雨傘は攻撃を変えてくるだろうし、逃げるための体力がなくなる」


 後数分で死ぬ。そんな状況の中で、二股に分かれた尻尾を持つ猫はによりと口角を上げて絶望で彩られた少年の顔を見上げる。


「大変なことになったなぁ。

さて、話の続きといこうか。ユグドラシルの加護が持つ能力は恐らくやけど僕の姿がヒントになりそうやね。つまりはリエナみたいに人と獣の姿が変わるようなもんやと思う。

それが当たってれば、後は神崎はんの心持ち次第。このまま死にたいん?」


「……お、おれは、おれには、もう何も…」


 諦めたように頭を下げる神崎に対して東はにゃふんとわざとらしい息を吐いて呆れたように尻尾を揺らす。


「じゃあ、ここでみんな死んでまうなぁ」


「そ、それだけは!!それだけは…」


 神崎は東の声に顔を上げて声を荒げるが、すぐに顔を伏せる。


「なら、強くなくちゃいけないみたいやなぁ。この世界は、どうやらそういう世界みたいやし」


「強く…」


「にゃふふ、はよせんと、みんな死んでまうなぁ」


 神崎の頭の中に、東の言葉が響く。


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