第27話
▼▼▼
「来たな…」
馬車の中、荒島雪斗が盾を召喚したと同時に天津賢人はニヤリと口角を吊り上げて笑う。
その直後、先頭を走るカイドの声が響く。
それは相手の一撃を耐える魔力壁を生み出す魔法。
「行くぞ、雪斗」
「あぁ」
馬車を揺らす轟音。神崎達は手近の荷物を捕まえて衝撃に耐える。
「神崎ッ!」
「わかってる!
でも今は耐えるんだ。俺達には空を飛ぶ魔法は使えない」
神崎は出発前にいた街、バスティアゴルで聞いた作戦を思い出す。
ゴーラ帝国が攻めてきたとして、最も面倒になるのが移動中を奇襲されることだ。
しかし、面倒とわかっていても馬車で移動するのと浮遊魔法で移動するのでは、圧倒的に浮遊魔法が早く、対策の立てようがない。
奇襲された後は上から一方的に魔法を撃たれて終わりだ。
だが、戦闘場所がダンジョンであれば浮遊魔法は扱えず、戦況は大きく変わるだろう。だからこそ、重要なのは奇襲に耐え、馬を止める事無くダンジョンまで走らせることだ。
馬車の外から、二度目の爆発が起こる。
「カイドさん!!」
「問題ない!!スピードは緩めないからな!」
カイドが更に馬車のスピードを上げる。
速く、速く、一分一秒でも速く、夥しい魔弾の雨を掻い潜り、ダンジョン内へ。
▼▼▼
「賢人ッ!」
俺が召喚した細槍で異界者の一人を吹き飛ばすと轟音の中から雪斗の声が響く。
うるせぇ野郎だ。俺だって自分の役割は把握している。ここではぶっ殺さねぇよ。
なるべく馬車に攻撃されないように立ち回る。
「はっ!
おいおい、雨傘はいねぇのか?
随分と舐められたもんだなぁ!」
「天津賢人!
何故貴様が王国にいるッ!!」
「お前達を殺すために決まってんだろ!」
「我ら『ティストーン』に敗れた負け犬がァ!!!」
ティストーン、ゴーラ帝国の土地神から拝借した名前か。
自分で言ってて恥ずかしくねぇのかよ。
ゴーラ帝国の異界者達が空中で静止し、魔法を発動する。
炎、水、風、雷、様々な属性が青空に極彩色を描く。
ゴーラ帝国の異界者に個別の特殊な能力は存在しない。しかし、皆等しく賢者となりえる魔法使い達だ。
即死級の魔法に取り囲まれながら、それでも俺は笑みを絶やさない。
「雪斗」
「はいはい、耐えるコッチの身にもなってくださいね」
召喚されるのは白い円形の盾。華美な装飾も汚れた痕跡もない盾。しかしこの盾の本質は盾から生み出される魔力壁だ。
雪斗はその盾を頭上に掲げる。
「我が無垢なる盾よ。穢れを知らぬ盾よ。
俄然の殺意、悪意を癒し給え」
頭上に魔力壁が展開される。走る馬車全てを包むほど広がった魔力壁は無数の魔法を受け、跡形もなく消失させる。
「なッ!?」
突如、爆発もなく消失した魔法を見て異界者の一人が驚きの声を上げる。
本来ならば雪斗の盾の存在はもう少し隠しておきたかった。
雪斗の召喚する盾はゴーラ帝国の異界者にとって天敵となる能力を持っている。
全ての魔法を魔力に戻す盾。対魔法に対してなら絶対防御だ。しかしその反面物理に弱くナイフで簡単に傷つきハンマーで叩けば直ぐに使い物にならなくなる一長一短の盾だ。
さぁ、魔法は封じた。
その隙を逃すほど俺は馬鹿じゃない。
「テメェはここで盾を起動し続けろ。
全てを弾かなくていい。致命的となる攻撃だけだ」
「それはそれで神経使うが、了解だ」
俺は細槍を構える。
馬鹿どもは魔法を撃ちだすために一度止まってしまっている。
先を走る馬車、後ろには包囲という有利を捨てた馬鹿ども。
「我が槍は天を穿つ神槍。
その翼を貫き、今、神は冥府へと落ちる。
穿ち落とすッ!!バルデリットォォォオ!!!!」
紫の槍。あまりにも細く、軽く力を入れただけで折れてしまいそうな細槍は天高く投擲され、無数の針となってゴーラ帝国の異界者達に降り注ぐ。ゴーラ帝国の異界者達は無数の針に対して魔力壁を展開する。
異界者の奇襲に対してカイドが展開した魔力壁よりも格段に大きく防御力も高い。恐らく、魔力回路を繋げて強力な魔法を発現させたのだろう。
他人と魔力回路を繋げるのには確かな技術と相性が必要になるが、そこは加護が補っているのだろう。
しかし、どれほど強力な盾を作ったとしてもバルデリットは貫通力に長けた槍だ。無数の槍は簡単に強固な盾を貫いて見せる。
幾千本の針は異界者を貫き、巨大な土煙を舞い上がらせる。
「やれたかな?」
「馬鹿が。
数人負傷させただけだ。来るぞ」
舞い上がる土煙の中から異界者達が飛び出してくる。
傷は与えたが致命傷じゃない。与えた傷も回復魔法で直ぐに治る。
「相変わらず気持ち悪いくらいの連携だな」
「あの連携には正直勝てる気しないよねぇ」
雪斗が乾いた笑いをするが、それには同意せざるを得ない。集団戦闘においてゴーラ帝国の異界者達に勝てる者はいないだろう。
「もう同じ手は通用しないな」
「あぁ、だからこの一回を逃すつもりはねぇさ」
雪斗の盾はゴーラ帝国の異界者達にとって天敵だ。
故に、今ゴーラ帝国の異界者達は雪斗の盾を一番に警戒している。
遠距離からの魔法は盾によって防がれる。となれば接近戦での攻撃が増えるだろう。
だが、接近戦の方が奴等は警戒している。
「遠距離攻撃は全て雪斗に防がれる。
近距離戦をすれば、俺に喰われる」
今、ゴーラ帝国には雨傘千里がいない。
案の定、ゴーラ帝国の異界者三人が痺れを切らしたように突撃してくる。
「戦力の分断、悪手じゃねぇか?」
「策があるなら悪くはねぇが…」
俺はニヤリと口角を吊り上げる。
足元に魔法陣を展開して浮遊する。飛び出した三人は近距離戦が得意なのだろう。
ゴーラ帝国の異界者達の詳細な能力はわからない。だが、能力は仲間の連携に隠されているというのは推測できる。
飛び出した三人はその強みを捨てた。
「ハルガル」
俺は大斧を召喚して突撃して来た二人を吹き飛ばして最後の一人を捕まえる。断頭ハルガルによる拘束能力で全身を縛られ、俺は突っ込んできた男の首を捕まえて持ち上げる。
「あぐっ…」
「策がねぇなら、喰われるだけだ…」
俺の足元から黒い靄が現れる。
そしてゆっくりと黒い靄は男を包み込んでいく。
「させるかッ!!!」
「ッ!?」
突然真横から声がする。
雪斗が慌てて盾を構えるが遅い。俺は舌打ちと共に拘束していた男を声のした方へ投げる。
男はその動きを読んでいたように剣を振るうことなく捕まえて距離をとる。
「雨傘の金魚の糞か」
「
貴様が王国に着くとはな」
「嫌だろ?」
「あぁ、一番厄介だ」
仁は賢人を睨みながらも後退していく。
追うこともできる。だが今追えば後方に待機している蠅共に囲まれるだろう。黛仁を接近させてしまった以上、前半戦はコチラの負けだ。
「耐えきったか?」
「あぁ、でもこっからだ」
草原は抜けた。
馬車はボロボロで破損部位があるものが多い。しかしなんとか耐え、ようやく馬車はダンジョンの中へと入っていく。
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