第25話


▼▼▼


天津賢人と荒島雪斗の処遇については王国の同盟者ということもあり、神崎誠の監視の下に家主のいない屋敷に住まわされる。

これによって戦闘訓練の初期メンバー、水島修、榊原真司、寺島美希、坂本敦、神崎誠は屋敷に同居する事になり、サポート役として浅見日菜子、黛凜音、川崎舞が選ばれた。


「いやぁ美味かった!

浅見さんの料理美味いなぁ!」


「えぇと、ありがとう?」


荒島雪斗は自分が警戒されていることを気にする事なくパンをシチューに浸してかぶりついている。

その悪意の無さに誰もが困惑している。

カイドと戦っていた時とは大違いだ。


「食事しながらは行儀が悪いけど、今後の話しをしようか。

俺達は加護の能力について知らなかった。

加護とは何なのか、知っている限り教えて欲しい」


天津賢人はシチューに浸されたブロッコリーのような野菜を荒島雪斗の皿に放り投げながら片手でパンを齧る。ブロッコリーが苦手なようだ。


「加護っつうのは神から賜る神秘の力だ。

加護を授かった者は様々な過程を飛ばして最強になれる。

例えば身体能力。

少し訓練すれば人間の限界以上の動きができる。フルマラソンを余裕で完走できる体力を得ることできるし家屋の屋根に飛び乗る跳躍力も得ることが出来る。

成長速度も有り得ないほど早い。

一週間もあればそこらの騎士を超える実力が手に入るだろうな。

それはもう実感してるだろ?」


「あぁ、日々強くなっていく自分に驚いているよ」


「だが、加護にはそれだけじゃない力がある」


「それが加護の能力だね」


「あぁ。俺達に与えられた能力は『武具召喚』。

そしてその武具には固有の能力が与えられている。

俺で言えば『悪食』だな」


「あ、おかわりください!」


「テメェは少し黙ってろ」


荒島雪斗が話しを遮り、それに対して天津賢人は冷ややかな視線を向ける。


「それで、俺達にもその能力が備わっていると?」


「多分な。

俺達もそうだったし、ゴーラ帝国の異界者もそうだった。

後は…他国の異界者とも会ったが、同様の能力を有していた。

特殊な能力は全ての加護に共通している。

だが、特殊な加護は授けた神によって変化する。例えばリヴァイアサンの加護は『武具召喚』、ゴーラ帝国、授けた神は不明だが加護の能力は『結界』だ。自分のルールを相手に押し付ける面倒な能力だな」


「俺達にも、俺達特有の能力が備わっている…か」


「さすがに発動の仕方まではわかんねぇがな。

能力があるのは確かだろう」


「能力はどうやって開花させたんだ?」


「俺達は偶然だった。

異世界に来て最強になったと勘違いした馬鹿が偶然鎧を召喚したんだ。

そういうものがあると知ってからは簡単だったな。『武具召喚』と言うだけで簡単に発動できた」


「なるほど、誰かが能力の発動さえできたら問題ないわけか」


「なぁ、一つ聞いていいか?」


シチュー三杯目を日菜子に頼んだ荒島雪斗は紙で口元を拭きながら気になったことを告げる。


「何で他の奴等は部屋で閉じこもってんの?」


その質問に天津賢人も同意するように沈黙する。

この世界に来たという事は神との契約を了承したということだ。命懸けの戦いをしてでも叶えたい願いがあったということ。

なのに今更怖気付いて部屋に閉じこもるとはどういう事なのか?


まだ数日しか経っていないが王国の異界者の現状に二人の異界者は疑問を持っていた。


「あぁ、それは…だなぁ」


「いいよ、敦。

俺達に必要なのは情報だ。その為にコチラの弱味を見せるのは仕方がない」


そう言って神崎誠は自分達が異世界転移をした経緯を二人に話す。

その経緯を聞いて荒島雪斗は驚き、天津賢人は眉をひそめながらも納得の顔付きになっていた。


「なるほどな。あの王様がテメェ等に対しての下手に出てたのは、それが理由か」


「それで、現状神崎達の目的は元の世界に帰ることか?」


「そうだね。

因みに願いというのは契約が果たされた時、契約者全員に働くものなのかな?」


「あぁ、例えテメェ一人が勝利条件を達成したとしても契約者全員の願いが果たされる」


「その願いは個別でも受け入れられるものかな?」


「少なくとも、俺達とリヴァアズル帝国で交わされた契約ではそうだったな」


「誠?」


敦の声は誰にも聞こえないほど小さく、漏れ出た声だった。

個別の願いを聞いた時、敦は誠に違和感を感じたのだ。元の世界に変えるために戦う。しかしそれは今の願いだ。ここで生活していくうちに変わっていく可能性もある。それ故に聞いたのだろうが、誠の顔を真剣だった。誠の幼馴染である敦にしか気づかない小さな違和感。


「ま、契約については勝利条件さえ覚えておけば問題ないよ。

浅見さんおかわり!」


「テメェは食いすぎだ」


「だって、リヴァイアズル帝国の飯不味かったじゃねぇか。

俺達の中じゃ料理得意な奴いなかったしよー」


天津賢人は呆れながらシチューを食べ終えて席を立つ。


「何処に行くんだ」


「警戒すんなよ。自分の部屋だ」


そういって天津賢人は部屋を出る。

荒島雪斗は一人になった後もシチューを食い続けている。


神崎達に与えられた契約の達成条件はリヴァイアズル帝国との戦争を終わらせること。

今後、彼等と戦うことは確実だ。


果たして自分は彼等を殺せることができるだろうか。

神崎達が心中で不安を感じている中、背後の窓の外で二股の尻尾が揺れる。


▼▼▼


「なんや、えらい騒いどったわ」


「へぇー、敵を入れるなんて、ゴルゴン王も思い切ったことをしたもんだな。

しっかし、加護についての詳細はわからなかったな」


ケットからリヴァイアズル帝国の話を聞いたスイは面倒なことになりそうなダンジョン攻略を想いながらため息を吐く。






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