第18話


▼▼▼


「あー、お前は俺が戦ってた魔獣、でいいんだよな?」


翌日、テントの中で起床した俺は大きく伸びをしてから、傍らに座っている美女に視線を向ける。

夢じゃなかったのか。


「魔獣ではなく、獣人猪族だな。

まぁ、あの姿じゃ魔獣と勘違いしても仕方が無いとは思うが·····」


確かに、獣人は獣化と言ってその種族の獣に変化できる能力を持つが、あれほどの力を持った獣には変化できない。

恐らく実験の結果、獣化の能力を高めた結果だろう。


「…マジで?」


「おはようさん」


外からケットが入ってきて俺の肩に上る。


「スーちゃん気付いてなかったん?

戦ってる途中から変わってはったよ?」


全然気が付かなかった。

あの時は頭がハイになって目の前の物も見えていなかったような気もする。


「これ、村人にはどう説明するんだ?」


正直に話しても納得してもらえないだろう。

何処かのバカ貴族のせいで暴走していたにしても村人を実際に殺したのはコイツだ。


「なぁ、お前はどうしたいんだ?」


「そうだな。·····私はスイに付いていくとしよう。私には帰る場所が無い。

人間は嫌いだ。今でも絶滅させてやりたいという気持ちは変わらない。それでも、私の気持ちを真正面から受け止めてくれたスイは好きだ。

だから、スイと行動する。

なんなら、私の全てを貴様に上げよう」


優しく微笑む表情があまりに綺麗で目を逸らしてしまった。


「ひゅー、スーちゃんモテモテやねぇ」


「からかうなよ····。

はぁ、そこまで言われちゃ了承するしかないな。

お前、名前は?」


「リエナだ」


「そうか、俺の名前はスイ。

霧島水だ。よろしく」


「あぁ、スイが起きる前にケットから色々聞いた。

貴様となら強い子が孕めそうだ」


··········なんか聞こえたけどスルーで。


俺はニヨニヨと笑っているケットを睨んでテントを片付けるために外へ出る。

身体中がズキズキと痛む。当分の間、戦闘は無理だな。


「スーちゃん、まだ寝てなアカンよ?」


「まぁ、そうなんだが、何日も森の中でテント生活はキツい」


「それなら私がやろう。

忌々しいことだが、実験によって常人より回復能力は高い。もう殆ど治っているからな。

ケット、手伝ってくれ」


「はいはい、かまへんよ」


そう言って一人と一匹はテキパキとテントを片付けていく。傍から見ていると、二人はとても仲が良いように思う。きっと俺が寝ている間に親交を深めたのだろう。


浮遊魔法が使えるケットと力が強いステラによって数分で全ての片付けが終了する。


「スイ、ケットから聞いたのだが、私の討伐をしに来たのだろう?」


「いや、討伐じゃなくて撃退だ。殺す必要があったわけじゃない」


「ふふっ、お前は優しいのだな。分かっていたことではあるが。

だが、撃退した証明は必要なのだろう?

私の牙だ。スイが眠っている間にケットから聞いてな。折っておいた」


「お、おぉ、ありがとう」


そんな軽々しく貰ってもいいのだろうか。

いや、もしかしたら爪を切るのと一緒な感覚なのかもしれない。


「猪族にとって牙は命を賭してでも守りたい誇りだが、安心しろ。

我の理解者であるスイにならば問題ない」


安心できねぇ。

というか、理解者って?


俺が疑問符を浮かべながらリエナを見ると笑みを浮かべて俺を抱きしめる。


「魔力を通して感じた。

スイも私も、同じような経験をしたのだと」


そう、か。

そうだな。魔力というのは人の感情によって影響を受けると聞く。魔力に敏感な獣族なら魔力を通して俺の感情を読み取ることなら可能だろう。


「やめてくれ、恥ずかしい」


「そうか?普通だと思うが·····」


いやいや、いきなり美人に抱きつかれるとか前世でも今世でも経験したことねぇよ。


俺はニヨニヨと笑っているケットをデコピンしてから移動を開始する。


「村に着いたらお前は適当なところに隠れてろ。

説明するのが面倒だし、問題を起こされても困る」


「わかった」


「それにしても村人達は気の毒やなぁ。

村民殺されて、復讐もできへんなんてなぁ」


ケットがチクリと棘のあることを言う。

もちろんリエナも助けられて村民も復讐ができるのならば、それがいいだろう。

しかし、今回は両方を取る事はできない。


「俺はリエナを助けると決めた。なら村人の気持ちは捨てる。両方を救うことはできないからな」


「スーちゃんは偶に冷酷になるなぁ」


「そうじゃなきゃ救えないからな」


全てをを救おうなんてできない。

そんなことができるのはカイドくらいだろう。結局アイツは人間も魔族も救ったしな。


「ふふっ、人間と我でスイは我を選んだのか。

どうだ、スイ、一緒に人間を滅ぼすというのは···」


「ねぇよ」


リエナを街に連れて行っていいのだろうか。

まぁ、俺がしっかり見とけば大丈夫か。こいつだって無暗に殺そうとはしないはずだ。たぶん、きっと…。


考えるのが面倒になってきたので思考放棄しながら村を目指す。


▼▼▼


村に戻り魔獣撃退の報告をすると渋々ではあったが依頼完了のサインを貰う。村長にとっては殺して欲しかったのだろう。

あまり長居はできないため、その日のうちに商人の馬車に乗って村を出る。金は掛かるがリエナの存在が村人にバレて余計な疑いを持たれることを考えると必要な経費だ。


「…暫くは安静にしないとだな」


「せやねぇ。

回復魔法でなんとか命は救えたけど、身体はボロボロや。

逆にあれだけの傷が後遺症も無く治るんやから、魔法は便利やねぇ」


「ま、この世界には魔力があるからな。

日々、そんな不可思議物質を吸って生きてるこの世界の人間は俺たちの世界の人間と比べたら丈夫だし傷も治りやすい」


移動する馬車の中で俺とケットが話しているとリエナがコチラをじーっと見てくる。


「何の話だ?」


「あぁ、そうか。

リエナには話しておくか」


「えぇの?」


俺らが異世界人であることのリスクはないだろう。

まぁ、俺がスーリエであることがバレたら不味いが、関係者と密に話さなければバレる心配もない。


霧島水がクラスメイト達と自然に合流するためにはハンターとして活躍してある程度有名になった方がいい。


俺はこれまでの経緯をリエナに話す。俺が異世界人であること、前世の記憶があること、正直信じるに値しない胡散臭い話だが、リエナは疑うことなく真剣に話を聞いている。


「なるほど、俄かに信じがたいことではあるが…」


「ま、無理に信じる必要はない。

俺が異世界人だとしても、何かが変わるわけじゃないしな」


「スーちゃんは相変わらずやなぁ」


実際そうだろう。

異世界人であったとしても、教えられることは何もない。現代知識でチート生活なんて夢だ。俺はただの男子高校生でしかない。


そしてそれは王城で生活しているクラスメイト達にも言える事だ。


「さて、アイツらはどうにかやってるかな」


「せやねぇ」

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