第13話


「ふわぁ〜、よく寝たー」


窓から入る朝日を受けて俺はムクリと起きる。しかし布団も無いところで寝たせいで身体の節々が痛い。

あのふかふかのお布団が恋しいな。


「おはよぉさん。

よお眠りはるなぁ、もう翌日の昼頃になるで」


あずまがスルりと窓から部屋に入り込む。


「村の人達がえらい心配してはったよ」


「今日森に入ると伝えておいてくれ」


「えぇけど、イノシシ退治はどうするん?

討伐するにしても追い返すにしても難しいの思うんやけど」


「そうでもねぇよ。

俺の無属性の魔球なら安全地帯からひたすら牙を撃って折ることができる。銀貨一枚は貰ったも同然だな。

ま、イノシシ自体にダメージは無いから追い返せるかはわからんな」


「うわぁ、スーちゃん性格悪いなぁ」


「こっちも頑張って目的を果たす努力はするが、それでも無理なら銀貨一枚で諦めるとするよ」


ただこのような事を頻繁にするとギルドの信頼が下がるので好まれず、脱退させられる可能性もある。

もちろんあのギルドは前世の俺が慣れ親しんだギルドでもある為、迷惑を掛けるつもりは無い。


「·····風呂入りてぇなぁ」


「せやなぁ」


あずまは俺の懐に入って匂いを嗅いでくる。風呂入ってねぇし、寝汗もかいてるから臭いだろうな


「うぅん、僕がケットになってはるからなんかなぁ。スーちゃん、ええ匂いやで?」


「キモイな」


「はははー、肉球パンチ、喰らわせてやろか?」


「勘弁してくれ」


俺はケットを抱えて立ち上がり、軽めの朝食を食べてから持ってきた鞄を肩にかけて小屋を出る。ケットに森に入る事を村長に伝えさせてから早速森の中へ足を踏み入れる。


「それで、どないして探すん?」


「地面とか嗅いで見れば?」


「へぇ、面白そうやねぇ」


「マジでやんのか」


ケットは俺の肩から地面に降り立って草むらをしばらく歩き回る。


「んーー、無理やな」


「だろうな」


収穫は無かったらしい。まぁ、イノシシの匂いも分からないんだから当然か。


「簡単には見つかるだろ。

家を壊せるだけの大きさがあるんだ、木々は薙ぎ倒されてるだろうし足跡も大きいだろう。

っと見つけたな、足跡だ」


地面を見れば草が地面に埋まっている。周りの木の幹には表面には擦ったような跡があり、獣道のようになっているのがわかる。


「村からまっすぐ森の奥に入った感じか。

腹が減れば村に行くことを考えれば遠くには行ってないだろう」


「おぉ。ハンターみたいやなぁ」


「ハンターみたいな生活はしてたな」


勇者の仲間と言っても強い魔物や魔族と戦っていくわけではなく、魔族の住む集落や国に出向き、調査を行うことが多かった。そもそも勇者一行が魔王を倒しに行くわけではなく、あくまで戦争での勝利を目指してたんだよな。まぁ、結局和平を結ぶことになったが。


「じゃ、追うか」


「うぅ、なんか怖なってきたわ」


「あぁ。そうか」


「淡泊やなぁ」


俺はケットを抱えて懐のポケットにしまう。ナイフを入れておくように作ったポケットだが、ケットがちょうどよく収まっている。


「そこらの魔獣には負けねぇよ、安心しな」


「かっこよろしぃなぁ」


二股の尻尾をポケットから出しながらニヨニヨ笑っている。

俺はケットの頭をウリウリと撫でながらイノシシの足跡を辿る。空は木々に覆われ森の中は薄暗い、小さく震えているケットを撫でながらさらに奥へと進んでいく。いつも飄々と笑うあずまも命が危うい事態となれば恐怖する。当たり前のことだ。今までずっと我慢してきたのだろう。前世で死闘を繰り広げてきた俺とは違うのだ。


「見えたな」


木々の隙間から紫色の体毛が見える。

その時、魔獣の瞳と目が合う。

荒々しい息遣いと大きな牙を持つ魔獣は、既に俺たちの存在に気付いている。


「索敵範囲も広いな。魔獣、その中でも変異種か」


「変異種?」


「本来その種では到達することのない強さを得た魔獣のことだ」


「強そうやなぁ」


「問題ない」


俺は周りに複数の魔球を発生させる。この魔法の便利なところは魔法も詠唱も必要ないところだ。それ等を操り、木々を避けながら、イノシシを囲むように配置させる。木の後ろに隠しはしたが気付いているだろう。それでも一瞥もしないところをみると脅威ではないと切り捨てている。知能も高い。


イノシシは目をぎらつかせて足で土を擦る。

突進の合図だ。嫌な予感がした。

俺はケットを庇いながら素早く横に回避する。


轟音が響く。


木々がへし折れる音と薙ぎ倒される音。地面はえぐれて草も残っていない。

顔を上げてイノシシが通った場所を見ると綺麗に木々は全て薙ぎ倒され、何も無い道となっていた。


「おかしい」


これほどの破壊力を持つ魔獣を村人がどうにかできるはずがない。

それに聞いていた話よりも少し体が大きいような気もする。

巨大なイノシシは再度こちらに視線を向ける。


イノシシとは思えない魔獣の咆哮が森の中に轟く。その轟音とも呼べる叫びは怒りに震えるようにも、恐怖に怯える悲鳴のようにも感じる。

魔獣は再び地面を擦る。


「ケット!

しっかり掴まっとけよ!!」


「んにゃ!!」


俺は全力でイノシシの突進を避ける。

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