第2話
▼▼▼
「ようこそ、我がユグドラシル王国へ。
我が名はゴルゴン・マハラ・ユグドラシル。
君達が召喚に応じてくれて心から感謝する」
ユグドラシル王国、ヘルサフリア教会の中心。ユグドラシル象の前に立つゴルゴン王は床一面に血によって刻まれた魔法陣の上に立つ少年少女に向けて一礼する。
「へ、あ…?」
惚けた声で返答するのは熱血教師の
「やはり召喚後は混乱するか。仕方の無い事だ。
詳しい説明は後日行おう」
王は侍女達に彼らの世話をするように命令する。
「まっ、待ってください!」
その中でも一人の男が王を呼び止める。
側近の一人が王に対しての侮辱行為であると怒りを表しそうになるが、王は片手で制してから男の前に立つ。
「何用かな?」
「は、はい、ご説明をして欲しいのです。
俺には現状が、何でどうなのか、分かりません」
生徒の一人、
「…ん?
君達は我々の願いを受けて来たのではないのかね?」
「分かりません。
俺達は急に強い光を受けて、いつの間にかここに来たのです」
「なんと?!」
王は驚いた様子で後ずさる。側近や侍女達も驚いた後、顔を青ざめる。
「…あのぅ、これは」
誠は不安になりながら王に声をかけるが、王は彼の言葉を制す。
「そうか…。魔法陣の不具合か、詠唱の間違いか、魔力量の違いか。
いや、今はいい。
君、名前は?」
「神崎です。神崎誠」
「そうか。
神崎くん、すまないが返答は少し待って貰えないだろうか。不安はあるだろうが耐えてくれ。君への返答は必ずや私の口から説明させてもらう」
「…はい」
そうして神崎達は侍女に連れられ、大部屋へと案内される。皆が不安そうに俯いている。中には涙を必死にこらえて嗚咽する生徒もいる。
水橋や神崎が何とか慰めようもするが効果はなく、皆がわけも分からず俯く事しか出来なかった。
「…神崎」
生徒の一人が神崎に声をかける。神崎の友人である
「わからない。西洋のような作りの教会である事は分かるけど、こんな大きな教会見たことないし、飾られてる銅像も見た事もないものばかりだ」
そう言って神崎は窓の外を眺める。
外は一面の湖。この教会のような建物は湖の中心に建てられている。陸地へと続く道は教会の表の扉の前から続く道が一つだけ。
「とにかく、僕達が知らない場所であることは確かだね」
「ははっ、…こんな時でもお前は冷静だな」
「そんな事はないさ。
これでも取り乱してるんだよ」
二人が会話をしていると二人の女生徒が近づいてくる。両者とも神崎と坂本の友人だ。茶髪で気の強そうな目付きをするのが
「神崎…」
「神崎くん…」
二人は不安そうに神崎を見つめるが、彼は笑顔で二人の肩を叩いて笑う、
「気にするな。何があっても俺が守るからさ」
気楽そうに笑う神崎に多少調子を取り戻したのか黛は小さく笑って神崎の頭を軽く叩く。
「何言ってんのよ…」
「ふふっ…」
神崎はニカッと笑顔で笑ってから扉をみる。
この教会はなんなのか。彼らは何者なのか。いや、そんな事より俺達は家に帰ることができるのか。
神崎は頭の中でそんな思考を巡らしながら王からの返答を待つ。
▼▼▼
どうなってるの?
私はメイド服を着た女性に案内されるがままに大部屋へと入る。
「みきちゃん…」
友人の浅見日菜子が私の腕を掴んで震えている。
「大丈夫だよ、ヒナ。
きっと直ぐに解決するからさ」
私は漠然とした不安を抱えつつも現実感のない出来事に気持ちがフワフワとして混乱してはいなかった。いや、混乱しているからこそフワフワしているのかもしれない。
スイは何処?
私はあの無気力な顔を思い出して辺りを見渡すがスイの姿が見当たらない。それに東の姿も見えない。彼らはあの光を受けなかったのだろうか。
あの時、スイは私達より少し離れたところにいた。
でもあれほどの光量だ。受けていないはずはない。
なんだが少しだけ不安になってきた。
いや、大丈夫だ。スイは何時だった無気力ではあるがしっかり者だ。前だって私が体育館に忘れたスポドリを忘れずに持ってきてくれたりとか、定期券を無くした時に探し出してくれた。
テストだって本気を出さないだけで上位に入れるくらいの点数を出せるし、身体能力だって悔しいが私と同等くらいある。
って、なんで私スイのこと考えてるの?
「……なんで赤くなってるの?」
「ふぇ?いや、これは違くてね?!別にスイの事を考えていたわけじゃなくて、ええとね?」
「はぁ、別に霧島くんの事まで言ってないんだけどな。
美希ちゃんは相変わらずだよね」
「いや!だからこれは!」
「いいって、誰にも言わないから」
「いや、だからそうじゃなくて!」
ヒナは勘違いしてるんだ。別に私はスイの事など友達しか見ていないのだから。うんそうだ。
そうに決まっている。
「はぁ、なんかちょっと安心しちゃったな。
でも私達、これからどうなるのかな?」
「…分からないわ。今はとにかく向こうの説明を待つしかないわね」
私達は閉ざされた扉を見ながら、自らの不安を和らげるようにお互いの身体を抱き寄せる。
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