キコの旅
ヒガシカド
キコの旅
科学の進歩は、人類の過去への遡行を許した。そして私の任された職務は…
「始まりました、キコの旅!この番組では私、高野キコが視聴者の皆様からリクエストを受け付け、その時代や人物のもとに赴き写真や映像をお届けいたします!もちろん実物!どうやって?このタイムマシンで!」
装置にかけられた布をスタッフが取る。
「さて、今回のリクエストは…ほうほう、隠されたイケメンを激写してほしい、時代や場所は問わない!なるほど、これは面白そうですね!」
私とカメラマンは早速タイムマシンに乗り込んだ。
「行ってきまーす!」
「まずはここ、フランス第三共和政時代!ちょうどイケメン兵士たちが道を闊歩しています!」
「金のばら撒きで有名なマリ王国!あの商人結構イケてませんか!?」
「しまった!人間いない!恐竜も…アリ!」
「シルクロードを歩く旅人もワイルドな見た目で素敵!」
「武士も良いけど公家も素敵ですよね!」
「カーット!キコちゃん、一旦休憩だよ!」
撮影はイスファハーンで一時中断となった。
「あとはタスマニア島とモスクワだけです」
私はアシスタントからボトルの水を受け取った。
タイムトラベルには必需品がある。記憶抹消銃だ。過去の人々が私達の存在を覚えていたら、未来が変わってしまうから。私は気分転換をしようと、銃を片手に街へ繰り出した。
「さすが世界の半分と言われるだけあって壮麗だなあ」
私は銃を乱射しながら街を観光した。この振る舞いのせいで私には傍若無人なキャラが定着しつつある。ただ用心に用心を重ねているだけなんだけどね。
「すみません、キコさんですか?」
私は声の方へ銃を向けた。
「驚くのも無理はありません。私もあなた方と同じくここの時代の人間ではないのですから」
よく見ると、服装も私達の時代のものだ。他局か?
「ごめんなさい、他の番組はあまり出ないもので…同業者、ですよね?」
彼はそうだと答え、ヨシナと名乗った。
「傍若無人って噂は嘘ですね。キコさんはとても感じの良い方だ」
「でしょ?」
「これを機に新しい番組を作りましょう。題は『高野キコの真実』」
私達は笑った。
雑談はインタビューを模して長く続いた。きわどい質問もあったが、何とか切り抜けられた。
「いつまでも質問攻めは嫌。次はこっちから質問するから」
「どうぞ」
「どうして私と行き先が被るの?ネタ被りってナンセンスよ?」
彼は言いにくそうに黙りこくった。私が不審そうに見つめると、やがて彼は意を決した。
「実は、キコさん達をずっと尾行していたんです」
「え?」
私は面食らったがすぐに冷静になり、後ろ手で銃身に触った。
「私達撮影班は、ずっとあなた方の軌跡をなぞっていたんです」
しばしの睨み合い。
「何故?」
彼は答えない。
「質問を変える。番組名は?」
答えない。
「答えなさい!」
「高野キコ追悼」
「え?」
私の銃よりも一回り小さなものを彼が取り出した直後、私は意識を失った。
「五年間続いた大人気番組『キコの旅』は、高野キコ氏の突然の事故死によりその歴史に幕を閉じました。当番組では彼女の旅の道筋に加え、独占インタビューをお届けします…」
キコの旅 ヒガシカド @nskadomsk
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