星ゾラ

林檎

1. 僕の話

星がよく見えたあの日の夜、あの場所で君は何を思っていたのだろう。そんなこと、今となってはもうわからない。もう何年も前から理解はしている。だが今でも星を見つける度にどうしようもなく思い出してしまう。


「もう10年も経ったのか」


仕事帰りの道でこう1人で呟くのにも、もう慣れてしまった。なんせ暗い道を歩いてる人間なんてほとんどいないのだから。

暗い道では星がよく見えてしまう。僕にとってそんなに辛いことはない。


『隼!!』


突然、とても懐かしい声に呼ばれた気がして振り返ってみたが、もちろんそこには誰もいない。


「、、もう何回目だろう」


溜め息と共に言葉が出てしまった。引っ越してきてからもう3ヶ月ほど経つが、星を見つける度に思い出してしまう。

思い出したくない思い出。キレイなままで心の中に閉まっておきたい思い出。もう出てきて欲しくない。それなのに、、


「どうして思い出してしまうんだよ」


君は今どこにいるんだろう。なにをしているんだろう。 。。


そして我に返った。25歳にもなってこんなことを呟いてしまう自分がとても恥ずかしくて、早歩きで家に帰った。


***


彼女は僕の大切な幼なじみだった。別に恋人、、、ではなかった。大切な幼なじみ。ただそれだけ。それでも記憶の中ではいつも彼女と一緒だった。どんな時でもなにをしてても一緒。僕にとっては可愛い妹みたいな存在だった。


恋人ではないと言ったが、恋愛感情がなかったかと聞かれると答えられない。

だって僕は彼女の事が好きだったから。それだけは自覚している。


そして、きっと彼女も僕のことが好きだったんだと思う。真相はわかんないけど。なんとなくそう思う。


それでもただの幼なじみでいたかったのは、2人にとってこの関係が一番気持ちよかっから。それが僕達の選択だった。


***


家に着いても彼女の事は忘れられなかった。星を見つけた日はいつもこうだ。ご飯を食べる気にもならず、今日はもう寝ようとベッドに入った。でも、目をつぶったところで彼女の顔が浮かんでくるだけだった。


「、、、、はぁ」


過去には戻れないからもう考えても仕方ないと思っていたのに、、


星羅、せいら、」


1度思い出すと忘れられない、ずっと考えてしまう。


「また会いたいよ、もう一度一緒に星を見ようよ、、」


まったく、1人でこんなことを呟くなんて本当に恥ずかしいよ。

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星ゾラ 林檎 @apple09

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