第3話私のマスター

「……ミ、……ルミ。クルミ」

 マスターが私を呼ぶ声がする。起きなきゃ、と思った。真っ暗闇の中、ただ一筋の光が差し込む方へ、手を伸ばす……。


 目の前には「マスター」がいた。あの日のように、目を細めて笑っている。

「おはよう、クルミ」

「ます、た?」

 マスターは笑う。

「ああ、お前のマスターだ」

 私の両目から、ポロポロと雫が滴り落ちた。

「おはようございます、マスター」


 どこからが夢で、どこからが本当だったのか、私には分からない。ただ、このあたたかさだけは、真実だ。マスターに抱きつくと、懐かしい柔らかな石鹸の香りがした。



 ……マスター。


 今になって、私の生まれた意味が分かった気がします。


 きっと私は、マスターを幸せにするために、生まれてきたのですね。


 家の外では小鳥がピチチとさえずっていて、まるで「そうだよ」と言ってくれているみたいだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私のマスター @yo-ru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ