0ー25【脱走】
くっそぉ……このゴツい看護婦がいるから病院を抜け出せん。
「トイレに行っていいすか?」
「いいわよ。その代わり鞄は置いて行きなさい?」
「……ぬぐぅ……」
鞄を人質に取られちゃバス代が払えねぇ……
バスは諦めて……考えてる場合か。既に一回戦が始まってんだ。乙音の事だから一回戦なんて軽く勝つだろうが……こうしちゃおれん!
俺は忍び足で病院の裏口へ向かう。人気のないこの出入り口なら……
「……何処に行くのかしら、リーゼントの坊ちゃん?」
「なっ、ラオウ!?」
「だーれがラオウよ。女の子に向かってそれはないでしょう?」
ゴツい看護婦が先回りしてやがったか。つうか女の子は流石に違うぞ!
万事休すか、と思いきや俺に鞄を差し出したラオウはため息を一つついては口を開く。
「終わったら病院に帰ってくる。それが約束。」
「……ラオウ……いや、女の子!」
「バーカ、何するのか知らないけど約束は守りなさい。病室はあのままにしておくから。」
「お、恩にきるぜ!」
俺は鞄を受け取りバス停へ走った。脇腹が痛いが……ラオウがくれたガーゼを何重にも重ねてるから多少は大丈夫だ。多分。
流石に腹から血を流してバスには乗れないからな。
……
無事にバスに乗った俺が会場に到着したのは十時丁度だった。
一回戦が始まって三十分は経っているな。
とにかく急いで中に入ろう。乙音のやつ、心配してるだろうしな。
会場内は打ち合いの音が鳴り響きかなり騒がしい。その中でも凄い人集りになっている場所が。
俺はリーゼントで人を掻き分けては前に出た。
……お、乙音の試合、か。
しかも相手はあの小野寺じゃねぇか!?
乙音は俺に気付いてねぇみたいだな。かなり集中している。
だが……
既に小野寺が2セット取ってる。乙音は1セット取ってるみたいだが、どうやらこのセットは押され気味みたいだ。
7ー10
マズいぞ。相手のマッチポイントだ。これを取られたら乙音の負けだぞ?
「お、乙音ぇっ、諦めんじゃねぇぞ!」
乙音の身体がピクンと反応した。そして振り返っては俺を見てパァッと表情を明るくした。
「ゆ、悠一郎さんっ!」
「おう、遅れたが何とか間に合った。まさかこのまま負けるなんて事はねぇよな?」
「も、勿論ですっ!」
乙音の表情が変わった。
これだ、この顔。初めて見た時、背筋が凍るような感覚までおぼえたこの表情……
卓上の……ヴァルキュリア……
乙音は瞬く間に三点とりデュースに持ち込む。確か二点リードした方が勝ちってやつか。
だが、このデュースが熾烈だった。両者一歩も譲らない攻防。まるで動画で見たプロの試合を目の前で見ているかのような打ち合い。
会場の人々が口々に話してるのが聞こえる。
24ー22
「はぁっ……はぁっ……まだ、これから……」
「くっ……いぐさ……おと、ね……!」
セットカウント2ー2、つまり次のゲームを取った方の勝ちって事か。
小野寺早希、乙音の言っていた通りの厄介な選手みたいだぜ……
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